第8話 街道でお約束のあれが起きたぞ
「いやぁ、参ったな」
《確かにうかつでした。ちゃんと外の状況を掴めるようにしないと》
ダンコアちゃんと反省したのは理由があって。
ダンマスルームでくつろいでいたら、昼休憩の場所について僕を呼びにきた。
そしたら、もぬけの殻で大騒ぎになっていた。
そりゃ、馬車に乗っているはずの人がいなくなったら、大騒ぎになるわな。
腹が空いて、扉から出たら大きな声で商人と御者が言い合いをしていた…僕がいないから。
急いで、外に出たらぽかんとしていた。
「どこにいたんですか?」
「えっ、馬車の隅にいたけど」
とにかくごまかすしかないってことで。
隅で寝ていたんだけど、気づいてもらえなかった。
無理線の設定だけど、ダンマスルームを知られる訳にいかないから無理線で押し切った。
「じゃあ。僕が隅で寝ていなかったというなら、僕はどこにいたのかな」
これに答えられない御者と商人は、おかしいとおもいつつ、隅で寝ていて気付かなかったということになった。
「外の状況に変化があったら、ダンマスルームで分かる方法はないかな」
《あるわよ。探知結界を張ればいいのよ》
馬車が止まったとか、誰か覗きくるとか。
そういう変化があったら、アラームがなる。
探知結界は10DPなので、もちろん設置してもらった。
これで安心して、ダンマスルームでぼーっとしていられるな。
ということで、昼食の後はダンコアちゃんとくだらない話をしてすごしていた。
すると。
《アラート! アラート!》
「なんだ?」
《馬車が減速してるわ》
「分かった」
すぐに扉から出て、周りを伺う。
窓のすだれを開けると、街道の少し先に別の馬車がいる。
馬に乗った男達が槍を馬車に向けて、なにやら叫んでいる。
「あれは?」
「たぶん、盗賊に襲われていると思われます」
「大変じゃないか」
「そうですが。我々には関係ないので、ここでやり過ごします」
商人の馬車には馬に乗った護衛の剣士が2人いるから臨戦態勢になっている。
馬車に乗っていた商人さんとお付きを含めて3人も剣を構えている。
御者もいるから、全部で6人が警戒態勢に入った。
「私も降りて、戦闘準備します」
僕の馬車の御者が話しかけてくる。
「僕はどうしたら?」
「中で静かにしていてください」
あー、僕は戦力に入っていないのか。
まぁ、戦闘訓練もしたことがなく、半成人になったはがりだからな…仕方ないか。
御者は商人たちと合流して、剣を構えている…これで7人だな。
僕はと言うと、ダンコアちゃんと対応を話し合うことにした。
「どうしよう」
《もし、不安ならダンマスルームの入り口を馬車の下にしたら、どう?》
「ん? そうするとどうなるのかな」
《もし、あの連中がこっちにきて守りが全滅しても、ダンマスルームなら大丈夫よ》
「うん、それ却下。ダンジョンで、あの馬車を助ける方法ってないの?」
《今さら無理よ。ちゃんとダンジョン作っておきましょうと言ってたのに。ダンジョン造って魔物を配備してあれば、魔物をダンジョン外に出してけしかけることもできたのよ》
「魔物はダメか。それならさ、それ以外で何か方法はある?」
《ダンジョンの中に誘き寄せることができれば、どうにでもなるわ》
「うん、それでいこう!」
《大丈夫? 死なないでね》
僕はダンコアちゃんを小さなバッグに入れて一緒に連れていく。
剣は使えないから、太い木の棒を持って出た…3年も鉱奴をしていたら、それなりに力はあるんだよね。
「あ、ダメです。危ないですよ」
僕が襲われている馬車に向かおうとすると、商人に止められた。
その言葉を無視して、襲われた馬車目指して走っていく。
「ねぇ、そこの人達! 暴力は良くないよ」
「はぁ、なんだ? まだ子供じゃないか」
「あっちの馬車はどうする?」
「剣を持っている奴ら多いな。無理せず、こっちだけにするぞ」
賊は全部で5人だ。
今は馬を降りて槍を構えている。
襲われた馬車の御者は、まだ降りておらず剣に手をかけてどうするか様子見中。
馬車の中には…おおー、爺やとお嬢様と言った感じのふたりが乗っている。
商人達も協力すれば戦力はこちら側の方が多いから、賊を撃退できるかもしれない。
でも商人達は、やりすごす作戦だから離れたままで待機している。
「その女性に手を出すことは僕が許さない!」
つい、ヒーローみたいに離れたところから叫んでしまった。
女性を助けるのは男の役割だからね。
「はぁ? そこのチビ。舐めるんじゃないぞ」
「あんなガキ、おまえ一人で十分だろう。捕まえてこい」
「任せろ!」
賊のひとりだけが分かれて僕の方へやってきた。
うーん、ひとりだけか。
だけど、残りの族たちも僕の方をみていて、女性を襲うことはしないようだ。
「たったひとりとは、バカにするのもいい加減にしろ」
「何言ってやがる。お前くらい、俺一人で十分だ」
「それはどうかな」
棒を上段に構えて全力で距離を詰める。
相手は慎重な足取りで近づいてくる。
あまり強そうには見えないが、そこそこ対人戦闘の経験はありそうだ。
「本気でいくぞ。死んでも知らんぞ」
「お前なんかにやられるかよ。ここまでおいで」
「遊びじゃないんだぞ。死ぬ気か?」
別に死ぬ気なんてない。
要はダンジョンに引き込めばいい。
「残念ながらゲームエンドだ。死ねぇ~」
「うわっ、怖い。本気だぁー」
僕は棒を捨てて逃げ出した。
もちろん、追いかけてくる。
「なんだ? 逃げるな待て!」
「いやだよ。ここまでおいで」
「むかつくな」
よし、ハマった。
ここで、ダンジョンメイク!
僕の前、1mほど先の地面にダンジョンの穴が空いた。
そこに、飛び込む。
「おい、なんだ。その穴は…待て」
やった、追いかけてきた。
ダンジョンの中に入ったら、こっちの物。
ダンジョンと言っても、高さ2メートルくらいの楕円形の穴が100メートルくらい続いているだけ。
僕はダンジョンの穴の中を落ちていく。
「うわぁー、なんだ?」
ダンジョンに飛び込んできた賊も落ちてくる。
途中にには網の罠が仕掛けられている。
僕はスルーして、賊に網の罠が発動した。
「うわっ、なんだこれ」
「罠だよ。動けないでしょ」
「どうする気だ?」
「ちょっと待っていてね」
僕は穴を上昇して入口に戻る。
ダンジョンの中だと、ダンジョンマスターは自由に動けるらしい。
「よっこいしょっと」
穴から地上に出たら、残り4人の賊が向かってきている。
「おい。何をした?」
「逃がすな」
ちょっと混乱しているけど、ちゃんと統制がとれている。
なかなか、優秀な賊グループのようだ。
「あっ、やぱっ」
また、穴に戻って落ちていく。
4人が追いかけてきたから、同じように網罠を仕掛けて捕らえる。
よし、こんなものかな…いきあたりばったりだけど、なんとかなったようだ。
やっぱり、もうすこし、準備しておく必要があるな。