第3話 秘密のデートで秘密の共有をしたよ
今日はね。とっても嬉しいデートの日。
ノルマも無事達成して、1日の休みがもらえた。
しっかりと寝て、体調も完璧だ。
「今日は、来てくれてありがとう」
「誘ってくれて、私もうれしかったわ。ちょうど、お休みが合わせられてよかったの」
そう。僕は今、生まれて初めてのデートをしている。
鉱奴になって6年が過ぎて、やっと余裕が出てきた。
コツコツ、真面目に鉱石掘りをした結果、デートをする余裕も出てきた。
デートの待ち合わせは、いつもの食堂の横に併設されているカフェ。
だから、いつもの連中がいる。
「ここ。野次馬が多いわね」
「本当に、野次馬だらけだ」
チビ・ガリ・ヒョロの3人組がいる。
他にも、一緒に働く鉱奴がずいぶんと来ている。
まぁ、もうすぐ坑道に向かう時間だから、今日休みじゃないやつらはいなくなるけどね。
「2人だけになれるとこ、行きたいわ」
「えっ、ええ~」
そんな大胆な……その流れは考えてなかった。
デートと言っても、一緒にお茶を飲む。
それくらいしか考えないぞ。
だいたい、エリーちゃんがデートの待ち合わせに来てくれただけでも天にも上る嬉しさなのに。
その後まで考えたら、頭が爆発しそうだ。
「あのね、私。デートには随分と色んな人に誘われているの」
「うん、知ってる。だって、エリーちゃんは、ここにいるみんなのマドンナだからね」
悔しいけど、一人じめなんてできないだろうなって思ってた。
それが……できてしまうのか?
「だって、タイガ君ががんばってるの知ってるの」
「うん。頑張って、やっと休みがもらえるようになったんだ」
「村長さんも褒めてたわ。まだ6年なのに身受金をもう半分も貯めたって。そんな男は初めてだって」
見受金は奴隷としての自分を買い戻すお金。
ノルマを達成すると、報奨金が出るから、それを貯めて自分を買い戻すことができる。
「村長さんも知っていてくれるんだ。僕のこと」
「うん。村長さん、意外とみんなをみているの。直接接することがないから分からないだけね」
「エリーちゃんって、村長さんに良く会うの?」
「時々ね。村長さんの家に出前することがあるわ」
へぇ、エリーちゃんは村長さんと会えるのか。
それだったら、可能性があるな。
「エリーちゃんに知って欲しい僕の秘密があるんだ」
「秘密? エッチなのはダメよ」
「違う、違うって。そんなんじゃなくて」
エリーちゃんから「エッチ」って言葉が出てきてびっくり。
そんな大それたこと、考えてないって。
「うふふ、冗談。タイガ君って、おもしろい。。。で、『僕の秘密』って何かしら?」
「秘密を見てもらうために、一緒に行って欲しい所があるんだ」
「うん。秘密を知りたいし、いいわ。連れていって」
うん。広場の奥の隠れ家で2人きりになったとき、打ち明けてみようかな。
そう、金鉱キューブのこと……エリーちゃんには知っていて欲しいんだ。
☆ ☆ ☆
「さ、エリーちゃん、いくよ。3、2、1、ゴー」
「うん!」
カフェを出てしばらく普通に歩いていた僕らは、いきなり走り出した。
走ってちょっとのところにある角を曲がる。
曲がったすぐに木箱が沢山積んであるから、その陰にこっそりと隠れた。
「おい、おい。何やっているんだ。まさか見失ったりしてないだろうな」
「そんなはずはないよ。きっと、あっちに行ったんだ」
「急いで追いかけろ」
行っちゃった……チビ・ガリ・ヒョロの3人組が僕らの後ろをつけてきた。
僕の秘密の隠れ家に行くのに尾行されていたんじゃ行けないよな。
「やったわ」
「うん、うまく行った。急ごう。こっちだよ」
もう一度、カフェの前に戻って、カフェを通り過ぎるてさっきとは逆方向へ走る。
誰にも尾行されていないか確認してみる。
うん、大丈夫だ。
「ね、待って。早いわ。そんなに早く走らないでぇ~」
「ほら、手をつなごう。これなら大丈夫だよ」
「うん。ありがとう」
うわ、エリーちゃんの手、めっちゃやわらかい。
家族じゃない女の子に初めて触れちゃった。
「ほら、こっちだよ」
「えっと、広場?」
「ううん、その奥さ」
僕らは隠れ家に到着した。
木陰にある草をまとめて作った壁と屋根。
広場からは、枯草に見えるようにしている。
ここなら誰もこないから、エリーちゃんとふたりきりになれるな。
「いいとこね。よく来るの?」
「ときどきね。一人になりたいときとか」
「タイガ君の秘密の場所。ここに連れてきたかったのね」
エリーちゃんから「秘密」って言葉が出るとドキドキする。
だけど、僕の「秘密」はこの場所じゃないんだ。
「ここに連れてきたのは、僕の秘密を見て欲しくて」
「あれ、この場所だけじゃないの? 秘密って」
「そう。本当に秘密だから、これから見る物は誰にも言わないでね」
「もちろんだわ。二人だけの秘密でしょ」
ちゃんと念には念を入れて確認した。
いよいよ、僕の秘密を見てもらおう。
秘密の場所の真ん中の床。
床と言っても土を固めただけの場所。
そこの土を退かすと、木箱の扉が顔をのぞかせる。
その木箱の中には、ずっと隠していた宝物が入っている。
もっとも、宝物だと思っているのは僕だけで、他の人が見たらガラクタだろう。
そのガラクタの下に隠してある物。
それが僕の秘密だ。
「みてごらん。僕の秘密っていうのはね。これなんだ」
金鉱キューブを1つだけ取り出して、エリーちゃんに手の上に載せてみた。
エリーちゃんはどんな反応するかな。
「えっ、これって、まさか! 金鉱キューブ!?」
「そうさ。正真正銘の金鉱キューブだよ」
「だ、だって。金鉱キューブってすごい価値だってお父さんが言ってたわ。たったひとつで金貨50枚だって」
「うん。そうなんだ。すごいだろう」
「すごいなんて。それどころじゃないわ」
うん、驚いてるな。
エリーちゃんの元々大きくてかわいい目が真ん丸になってる。
「エリーちゃん、これ欲しい?」
「ええー。無理よ! こんなすごいの、もらえないわ」
「もちろんね。普通にあげることはできないよ。坑道から掘り出した物だからね」
「そ、そうよね。掘り出した物は、勝手にできないわね」
本来、掘り出した鉱石キューブは納入場所に引き渡す。
鉱石の価値のうち、ノルマを越えた分で1/10が掘り出した者の収入になる。
それと同額が故郷の村にも仕送りとして送られる。
だから、掘り出した金鉱キューブは僕の物じゃない。
「だからさ。この金鉱キューブでもらえるはずのお金、それをエリーちゃんにプレゼントするよ」
「ええー。それだって金貨何枚にもなるじゃないの」
「うん、デートしてくれた僕の感謝の気持ちだよ」
おー、なんか、カッコいい事を言ったんんじゃないかな。
普通ならデートのプレゼントなんて、お菓子くらいだろう。
「い、いいの? 本当に。私がもらっちゃって」
「うん。あげる。でも、ちょっと協力してほしいんだ」
「協力って、何をしたらいいの?」
「この金鉱キューブをね。ちゃんと評価してくれる人に手渡したいだけなんだ」
エリーちゃん、ちょっと考えている。
目がくりくりと動いてかわいいな。
「あ、分かったわ! そういうことね。村長さん?」
「うん、そう。ここで一番偉い人に手渡したいんだ」
エリーちゃんの瞳がキラキラ輝いてる……うん、大丈夫そうだ。
エリーちゃんの返事を聞く前に分かったぞ。
「じゃあ。村長さんをここに連れてくればいいの?」
「いや。僕を村長さんのところに連れて行って欲しいんだ」
「えっと……。いつ出前の依頼が来るかわからんないわ……もしかして、出前がないときに?」
「そう。できるだけ早く。それって無理かな」
出前があれば、エリーちゃんは村長さんに会える。
ただ、それを待つのは難しいな。
「うん。やってみるわ。私、村長さんちの門番さんとは仲がいいの」
「うわー、助かる。エリーちゃん、ありがとう」
「ううん。だって、だって。金鉱キューブよ。ちゃんと評価してくれる人に手渡さなきゃね」
エリーちゃんが仲間になってくれた。
これで、うまくいく可能性が高くなったみたいだ。
2人の秘密……一気に距離を縮める呪文だね。