第2話 白玉はバズレだと思うよな
「なんだ、これは!!」
《何って、鉄鉱キューブでしょ。だから言ったじゃない。あんたが歩くのが遅いから15分も掛かっちゃったけど》
そんなこと言っても、穴の高さが120㎝しかないんだから。
身長150㎝の僕だと屈んで歩くきゃないから、時間掛かるのは仕方ないよね。
そんなことじゃない…いったい、いくつの鉄鉱キューブがあるんだ?
支坑道の右にできた枝坑道を15分ほど進んだところに、鉄鉱キューブが散乱していた。
坑道の壁にも同じ鉄鉱キューブが一部顔を出している。
「ひとつ1㎏の標準鉄鉱キューブで間違いないんだよね」
《もちろん、そうよ。このあたりなら鉄鉱たくさん埋まっているから、新しい坑道を作ったのよ》
「すると、このあたりに鉄鉱脈があるということか」
《鉄鉱脈じゃないけど、金属系がたくさん埋まっているのは確かよ》
「鉄鉱脈じゃないって、おかしいだろう。こんなに鉄鉱キューブがあるのに」
《だから鉄だけじゃないのよ。それ以外もあるでしょ》
えっ、それ以外? まさか、銅鉱キューブもあったりするのか?
おっ、あった! だけど、銅じゃないな、金色に輝く鉱石キューブだからな。
「おいおい、まさか。金鉱キューブ、なんてことはないよな?」
「何言ってるのよ、どうみても金でしょ。この黄金の輝きが金鉱キューブじゃなくて、何だというのよ」
そうか、この鉱脈は鉄鉱脈じゃないな……確かに一番多いのは鉄鉱キューブだったとしてもな。
「なんと! 金鉱脈を見つけてしまった!!」
《本当に人間って、金が好きなね。300年前と変わらず、好きだというのは驚きだわ。あんたは鉄、鉄って言うから金は興味ないと思ったわ》
「そりゃ、金鉱キューブなんて出るなんて思ってないもの。鉄鉱キューブが5つあれば今日のノルマ達成だし。あ、遅刻したから10キューブに増えたな」
《じゃあ早く。鉄を10個拾って帰りましょう。私も一緒によ》
そんなバカな。そんな訳にいくはずがないだろう。
金だぞ、金。
あ、だけど、ノルマをちゃんと達成しておかないと問題があるな。
僕の背負える限界は35㎏だから、鉄鉱キューブを15個と金鉱キューブを20個…まぁ、さすがにそんなに金鉱キューブはないか。
《20個くらいあるわよ。この枝坑道ずっと続いているんだから。あと3分も歩けば金鉱キューブが20個は簡単に集まるはずよ》
「よっしゃあーーーー」
☆ ☆ ☆
「遅いぞ。予定より20分遅れだ。全く、入り口監視する俺たちの身にもなって欲しいな」
「すみません。お待たせしました」
この坑道の入り口はひとつだけで、必ず衛兵が駐在している。
すべての坑夫が帰ってくると、結界の魔道具で入口は厳重に閉鎖される。
「おいおい、のろまが!」
「どうせ、ノルマが達成できなかったから遅れたんだろ」
「がんばっても無駄なんだから、さっさと帰ってこいよな」
あ、また、こいつらか。
入口では同い年の鉱奴3人組が待っていた。
僕は心の中で、チビ、ガリ、ヒョロと呼んでいる…本当の名前はあるらしいが、僕は覚える気が全くない。
「あーあ、遅刻だな。ペナルティが大変だな」
「あはは。ザマァないな。これじゃ明日の休みが没収だな」
「ざまぁー。いいきみだ」
3人組が入口で待っていたのは、僕のノルマ達成失敗を確認したかっただけだろう。
ノルマ以下だと明日の休みがなくなって、誘っている食堂見習いのエリーちゃんとのデートがダメになる。
鉱奴の活動できる範囲は狭いので、同じくらいの歳の女の子で接することが少ない。
いつも会えるのは食堂で働いているエリーちゃんくらいだろう。
だから、エリーちゃんは僕ら鉱奴の男達のマドンナなんだ。
最近、調子が良くてノルマ達成が続いていた僕。
勇気を出して明日のデートを誘ってみた。
そしたら、なんと、オッケーをもらってしまったのだ。
嬉しくて周りに自慢していたら、男達の嫉妬がバリバリ飛んできた。
あー、余計なこと言わなきゃ良かった。
「残念だったな。今日のノルマ達成できたらよかったのにな。明日休み取れるはずだったろう」
もう30歳くらいの衛兵達はエリーちゃん狙いじゃないから、僕にやさしく声をかけてくれた。
「本当に残念だったな。くっくくく」
3人組は嫌味たらしく言ってくる。
「いえいえ。ちゃんと今日のノルマは達成したよ」
「嘘つけ!」「無理無理」「見栄張るな!」
3人組がすぐに反応する。
「あー、鉄鉱石10個掘り出したか。すごいな。だが、遅刻になったのは残念だったな」
衛兵さんは残念がる。
「いえ、鉄鉱石15個、とってきました」
僕は背負バッグから鉄鉱キューブを15個並べてみせた。
「嘘だろ」「インチキだ」「ありえない!」
おー、騒いでる、騒いでる。おもしれー。
「おい、すごいな。ちゃんと15個も掘り出したのか。坊主やるな」
「はいっ。これで明日はエリーちゃんとデートだっ!」
まだ騒いでいる3人組を無視して、僕は鉄鉱キューブを背負バッグに収納した後、納入小屋に向かうことにした。
☆ ☆ ☆
「ふう」
今、僕は隠れ家に来ている。
隠れ家といっても、坑道と鉱奴長屋の間にある広場の隅に作った草で囲った物でしかないけどね。
ここは陽が落ちたら誰も来ない場所だから一人になりたいときには、ときどき来ている。
鉱奴はみな、鉱奴長屋に住んでいる。
家族がいる鉱奴は一部屋もらっているが、僕ら独身男は鉱奴長屋の大部屋に10人くらいで住んでいる。
だから、大部屋の連中が一人になりたいと思ったら、それぞれお気に入りの場所に行く。
僕は隠れ家で背負いバッグを下し、底の下に入れておいた金鉱キューブを15個取り出してみた。
本当は35個全部、金鉱キューブで持って帰りたかったけど、それだとノルマ達成に金鉱キューブを出さないといけない。
金鉱キューブがみつかったとなったら大騒ぎになるに決まっている。
そうなると鉱奴監視人が聞つれて、どこで見つけたか白状させられてしまうだろう。
どうせなら、鉱奴監視人ではなく、もっと偉い人に金鉱キューブを直接報告したい。
その方がちゃんと扱ってくれる可能性が高い。
「あの金鉱脈、バレないかな」
《大丈夫よ。支坑道からの入口は分厚い土で隠しておいたから》
うん、取りに行こうと思えばいつでもいけるってことだ。なかなか、いいな。
しかし、問題はどうやったら偉い人に会えるのかってこと。
全く分からないぞ。
《直接、行ってみたらいいんじゃないの?》
「バカ。そんなことしたら、衛兵に見つかって独房行きだ」
うーん、こいつ…全然、分かってないな。
まぁ、300年も埋まっていたんだから仕方ないな。
「とにかく明日だ。明日、もう寝よう」
《わたしも寝めわね。お休みなさい》
お前も寝るのかよ…ダンジョン・コアって睡眠がいるのか?
もう、寝ていやがるな、返事がない。
僕も寝よう。
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