第13話 バザールバトルに参加したぞ
耕作地ダンジョンから宿屋に戻ったら、昼過ぎになっていた。
今日は疲れたから、もう寝ることにした。
夜になっても寝ていて、日の出の頃に起きる。
「よっしゃあ。初めての露天商を経験するぞ」
俺は初めての商人経験にドキドキしていた。
ちゃんと売れるんだろうか。
まだ薄暗い道を歩いてバザールに到着した。
もうすでに半分くらいの露天が出ている。
もしかしたら、出遅れた?
もっと、早く来ないといい場所は取れないのか。
「ねぇ、おばちゃん。露天を出したいんだけど」
バザールの入り口にある事務所にいる管理人らしい、おぱちゃんに告げてみた。
「おや、初めてだね。お前さんは、何を売りたいのかい?」
「僕の商品はこれだよ」
廿日菜をひとつ、マジック袋から出して見せた。
もっとも、廿日菜には見えないと思うけど。
「野菜ね。だったら、Dの8ね。これが札ね。大銅貨3枚よ」
菜っ葉の相場は昨日見たら、200gくらいの一束が銅貨5枚。
俺は、相場よりちょっとだけ安くして銅貨4枚で売る予定だ。
10個も売れば、利益が出る計算だな。
「おう、分かった。それって、どのあたりかな」
「ここよ」
おばさんは壁に張られている白木の板を指さした。
そこにはバザールの地図が書いてある。
小さく区切られているのが露天のようで、半分ほどにピンが立っている。
ピンがない所が空きなんだな。
おばちゃんはひとつの区切りにピンを立てる。
そこが僕の場所らしい。
入口から右に一つ行って、前から5番目。
「D5って区切りの奥に書いてあるから、確認するのよ」
「わかったよ」
事務所を出て、俺の区切りに向かっている。
そのエリアは野菜露天が集まっている所だ。
僕の区切りの隣には、菜っ葉を山のように並べている露天がある。
座っているのは、僕と同じくらいの少年だ。
「おはよう」
「誰だ、お前。見ない顔だな」
「そうよ。露天は初めてだからな」
「素人ってことか? まぁー、売れなくてもガッカリするなよな」
「大丈夫だ。ちゃんと売れると思うからな」
「あはは。これだから素人は困るよ」
なんで、俺の方が売れると思うのかというと。
値段が相場より安いというだけじゃない。
隣に山となっている菜っ葉。
いまいちにしか見えないぞ。
菜っ葉の先っぽのあたりががしなびているし。
なんか、全体的に元気がない感じだ。
これなら僕の廿日菜の方がおいしそう。
「ほらみてみろよ。俺の廿日菜、うまそうだろう?」
ひとつ出して、自慢してみた。
「廿日菜だって? こんな大きい廿日菜なんてあるはずがないだろう」
「まぁ、いいじゃないか。この菜っ葉が俺の商品だ」
「おまえの菜っ葉が品がいいのは認める。だが、露天というのは駆け引きがあってだな」
「要は俺より売れる自信があるって言うのか?」
「もちろんさ。俺は9歳から露天で売っているんだぞ。経験6年のベテランさ」
ベテランとかなんとか言っても、結局は商品の質と値段が重要じゃないのか?
なんだか負ける気がしない。
「なら、もしかしてさ。露店が初めての俺に負けたら、カッコ悪いとか思っている?」
「あー、何言ってるんだ。負けるはずないだろう。だいたい、お前の商品は少ししかないじゃん」
僕の少しだけあ膨らんだマジック袋を見て笑っている。
面白いから、ひとつ、煽ってみるか。
「もし、俺の方が…そうだな。売上が多かったらどうする?」
「冗談だろう。ありえない! もし、そんなことがあったら何でも言うことを聞いてやるよ」
「そんな約束していいのか?」
「その代わり、俺が買ったらお前、1週間、俺の奴隷な」
奴隷な戻るのは嫌だ。せっかく鉱奴から解放されたんだからな。
この勝負は負けられないな。
「分かった! 勝負だ」
「おい、奴隷だぞ。1週間の。いいのか?」
「うん、負けないから」
「言ったな!」
おっ、なんか本気になったっぽい。
前を通るお客さんに声を掛けているぞ。
よし、僕も頑張らなきゃ。
「ぽいぽいぽいっと」
袋から次々と廿日菜を出して並べていく。
露天の区切りは180㎝×180㎝だから廿日菜を4本づつに分けて横に並べることができる。
マジック袋から半分くらいだして、大量の廿日菜が出てきた。
「おい、どこからそれ出したんだ?」
「あ、この袋、マジック袋なのさ」
「なんで、そんな高価な物を持っているんだ!」
「自分で作った?」
「ば、バカな!」
うふふ、焦ってる、焦ってる。
菜っ葉20本くらいしかレタスないと思ったでしょ。
4800本も入っているんだな。
すでに僕の方が沢山の廿日菜を並べているのに隣の菜っ葉は100束で400本くらいだな。
持ってきたのを1/10でも売れば、僕の勝ちってことだな。
「おい、坊主。こ菜っ葉はいくらだ?」
大きい籠のバッグを持ったおじさんが聞いてくれた。
料理人ぽい服装だ。
「4本で銅貨4枚です」
「安いな。どれどれ」
真剣なまなざしで品定めする。
やっぱり、プロっぽいな、料理人かも。
「よし、50本、もらおうか」
「毎度あり~」
幸先がいいぞ。売れたー。
隣を確認すると、おばちゃん相手に値段交渉をしている。
どうも、銅貨5枚より安くすることはしないみたいだ。
僕の方が安いんだよね。
「坊やの方は、いくらなの?」
「銅貨4枚だよ」
「えっ、安い。でも…あっ、品物もいいわね」
あ、あいつ、真っ赤な顔になっているぞ。
お客さん取ってしまったからなー。
だけど、お客さんの勝手だから仕方ないね。
その後も続々とお客さんが来た。
隣もそこそこ売れているみたい。
常連さんがいるんだね。
だけど、常連さんみたいな人でも、値段を聞くと僕の方で買ってしまう。
僕は値段駆け引き下手だから、最初から銅貨4枚としか言ってない。
「ここの菜っ葉はいいな。最近、いい菜っ葉が少なくて困っているのだ」
「ありがとう。がんばって作った甲斐があるってものだよ」
「ただ、予算があってな。そうだな、銅貨6枚までなら出そう」
「えっ、銅貨4枚だけど」
「安っ! そんなに安く売ったらもうからないだろう。銅貨6枚でも売れるぞ、きっと」
ずいぶんと親切な人だな。
40本買うっていうから、ひとつおまけ付けてあげた。
「おいおい。さらにおまけだと! 商売を知らなすぎるぞ、お前! もちろん、おまけも、もらうがな」
喜んでくれた。
明日も出すのかと聞かれたから、分からないって答えておいた。
「そろそろ、数が少なくなっちゃった」
売った時間は1時間くらい。
大量買いをしてくれるプロの方がいるから、並べた廿日菜がずいぶんと減ってしまった。
数が少ないと、貧相に見えるから追加しないとね。
僕がマジック袋から追加の廿日菜を並べていると。
「おいっ。まだ、あるのか?」
「うん。まだまだあるよ」
ぐふふ、絶望的な顔をしている。
まだ1/3も売れていないから、もう俺の勝ちは決まったような物だね。
「さて、もう少し。がんばるぞー」
朝バザールは6時から10時までだって。
僕は10時になるころには、完売になってしまった。
彼も10時まで掛かって完売していた。
最後の方は安くして売っていたけど。
残っている野菜を安くなってから買いに来る人もいるみたいだった。
「さて。どっちが売り上げが上か、比べてみよう」
「すいません! 負けました!!」
あ、いきなり土下座? そんなの必要ないのにな。
「いいよ、頭を上げてよ」
「男に二言はない! 1週間の奴隷でもなんでも言ってくれ」
あー、そういう具合に謙虚になってしまうとあんまりひどいことは言えなくなるな。
「じゃあ、ちょっと早いけど、昼ご飯、おごって」
「ええっ、それだけでいいのか?」
「あ、もうひとつ」
「な、なに?」
「名前、教えて。僕はタイガ」
「俺・・・あ、わたくはレオンです」
あ、名前似ているな。
虎のタイガと獅子のレオンかぁー。
「この街に来たばかりだから、いろいろと教えてくれると嬉しいな」
「なんでも命令してください」
「あ、そういうんじゃなくてさ。友達として?」
鉱奴だった頃って友達ができなかったんだ。
故郷村にいるときは、一杯いたけど。
だからこの街で友達ができたら嬉しいな。
「もちろんです。友達で、いいんです?」
「うん」
友達、ひとり、ゲット!




