第1話 謎の白い玉が転がり出た
僕、タイガはあせっていた。
明日は僕の15歳の誕生日なのに、ノルマが達成できていない。
最近5日間は毎日ノルマ達成しているから、今日も予定より早くノルマが達成できると思っていた。
それがなぜか全然なのだ。
「こんなに掘ったのに、なんで何も出ないの?」
多くの鉱奴が掘っている主坑道を避けて、支坑道を掘り進めている僕。
鉱奴仲間からは、ギャンブラーと呼ばれていた。
1日最低、鉄鉱キューブ10個を採掘すること。
これが鉱奴に課せられたノルマだ。
これを達成できると、そこそこ良い生活が送れる。
ノルマ達成ができない鉱奴には罰が与えられる。
本当なら、6日ノルマ達成で、明日は1日完休がもらえることになっていた。
そのつもりで、食堂の看板娘とデートの約束をあるんだ。
「あと5個も残っている。あと1時間しかないと言うのに」
普通の男なら、ここであきらめるだろう。
しかし、僕はあきらめが悪いのだ。
「ちょっとした鉄鉱脈がみつかればノルマ達成は十分可能だ」
はかない希望だとは分かっているけど、あきらめきれてはいない。
僕がこれまで成績優秀で褒められてきたのも、あきらめの悪さのおかげだ。
「今回だって、最後の最後まであきらめなければ…」
そんな意志を持ち続けて掘っているけど、鉄鉱キューブがひとつも見つからない。
あと10分で作業を終わらせて戻らないといけないのに、ノルマが5個残ってしまっている。
だけど、帰りが遅くなって遅刻だとポイントが減点されてしまう。
ノルマ達成できない上に遅刻となると最悪だ。
ライバル達の「それみたことか」攻撃にさらされるのは明らかだ。
今週は多くのライバルが主坑道を掘っているのに対して、僕は支坑道を掘っていた。
あまり掘られていない支坑道だったから、順調にノルマ達成ができた。
だけど、急に鉄鉱キューブが見つからなくなってしまったのだ。
「神様、なんとかノルマを達成させてください」
困ったときだけの神頼みって効果がないけどさ。
僕は困ってなくても毎朝、神様にお供え物を捧げてちゃんとお祈りしてきた。
たしかに、鉱奴の僕に捧げられる物は大した物ではない。だけど、気持ちだけはこもっているはずだ。
「明日は特別なんです。15歳の成人の誕生日なんです。デートの約束があるんです」
必死になってお祈りしてから、また掘ってみた。
そしたら………出た!
ころん、と足元に坑道の壁から転がり落ちた。
「えっと、これは何だろう?」
見たこともない20㎝くらいの真っ白い玉が足元にある。
鉄鉱石じゃないしな。どうも価値ある鉱石とかじゃない。これは、きっとあれだ。
「ハズレ玉だな」
福引でもなんでも、白い球はハズレだと決まっている。
あー、神様も僕にあきらめろと言うのか!
ハズレ玉なんて嫌いだ!
怒りに任せて白い玉を蹴ろうとしたら、いきなり!
《ハズレ玉って私のことかしら?》
しゃべった!?
周りを見るけど誰もいない……支坑道に入ったのは僕だけだし……きっと気のせいだろう。
《無視しないでよ。せっかく300年ぶりに人と出会ったんだからぁ~》
またしゃべった! どうも、このハズレ玉以外に考えられない…しゃべっている物は。
《だから、ハズレ玉って何? その言葉は知らないけど、悪口だってことくらい分かるんだからな》
どうも怒っているらしい…ハズレ玉って呼んだことに対してだな。
それじゃ、白い玉はアタリ玉なのか……だったら、鉄鉱キューブを5つ、5分以内に出してくれ。
《5分は無理ね》
やっぱり、ハズレ玉だ。期待しただけ、損した!
《ま、待ってよ。鉄鉱キューブでしょ。10分だけ時間をちょうだい。たくさん掘らしてあげるから》
あー、それじゃ遅刻しちゃうじゃないか。
この役立たずだな。
《だって、見つけてもらうのが遅すぎたんだもん。それだったら、もっと早く見つけてよ》
さて、帰る準備しなきゃな。
《あ、待って、待って。10分あれば、鉄鉱キューブなんて何百でもみつけられるわ》
あー、100個だってさ…大ぼらもいいとこだね。主坑道の全盛期じゃあるまいし、そんなのありえないよ。
《どうして、決めつけるのよ、もう。とにかく、鉄鉱キューブが欲しいんでしょ。ほら》
「えっ」
思ず声を出してしまった…だって、いきなり支坑道の右側の壁にぽっかりと穴が開いたから。
さっきまで、何もなかったところがポンと穴が開いた…どういうことだ?
《だから、鉄鉱キューブのあるとこまで連れて行ってあげるって言ってるでしょ》
本当なのか?……本当にこの先に鉄鉱キューブがあるのか。
《信じてよ、歩いて10分のとこに鉄鉱石が落ちてるから、一緒に行きましょう》
どうするか……信用してもいいのか、こいつがバズレ玉じゃなくてアタリ玉だって。
《もう、そういうハズレとかアタリとか。そういう物じゃないから》
いかん。そんなことを話していたら、終了時間が過ぎてしまった…今さら戻っても、遅刻になってしまうのは確定したな。
《だったら、確かめに行きましょう。鉄鉱キューブがあるかどうかを》
あんまり、乗り気がしないけど、しかたないか。
僕は白玉に賭けてみることにしたのだった。