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あいつは俺の仇!  作者: 方結奈矢
第三部 六年生編
51/58

初詣~復讐方法の変更について・・・


 2004年になった。


 正月の俺は、朝から二度目の初詣の為に長い下り坂の末にある田中山神社に向かっていた。


 俺の傍らには正月だというのにお泊りしていたスズが姉さんのお古の振袖を着てノッコのリードを持っている。


 (なんだかアンバランスだなぁ~)


 スズはそんなの気にしない。


 俺は、夜通しの作業明けというのもあって眠たかったが、リクの二尺袖の袴姿を目にして、


 「お~~~」


 感嘆の声をあげ睡魔を吹き飛ばした。


 俺の表情に満足したリクは、「明けましておめでとう」早々に腕を絡ませて新年の挨拶とばかり玄関先でキスを求めてきた。


 こんなとこに(さすがはニューヨーク育ち)なんて思ってしまうも俺はそれに軽くチュと応えたところ、


 「もう~」

 なんて少しばかりふくれっ面でお手本とばかり熱いキスを返してくれた。


 「縁起ものなんだからね、初キスは」


 そんな事まで言って、指を深く絡ませた手つなぎで歩み始めた。


 俺たち四人は、ノッコを先頭に、近所の顔見知りに新年の挨拶をしながら長い坂道を下った。


 坂の終着点の交差点で、華怜と響華がやはり振袖姿で待っていた。二人は競うように俺の空いていた左手を目指して突進してくる。


 そこに颯爽とママ車で登場したのは、一人住む地区が遠い、黒のショートスカート風の袴に短い振袖がとても可愛くしあがっていたナオだ。


 (お~ナオが一番目立つな)


 ここに通称、俺の四人のカノジョに妹が勢ぞろいしたところで俺は、「あけましておめでとう」リクの手を振り払い新年の挨拶を皆と交わした。


 「オキョンのその三つ編みな髪型いいなぁ、それ洋装にも似合うぞ」


 に始まり、順番に手を繋ぎながら華怜には薄っすらメイクをナオにはファッションセンスをそれぞれ誉めた。


 もちろん神社に付くとお参りを早々に済ませて撮影会だ。

 

 これだけ可愛い子が揃ったんだ俺は、はりきって(姪っ子たちに)シャッターをきった。


 ここで日頃の訓練ができているリクは、ポーズや表情で他を圧倒して一段と栄える姿を俺に見せてくれる。


 「「「凄いねリクちゃん、私にも教えて」」」


 (負けない)とばかりポーズを教わり、保護者な俺を羨んで、顔見知りから冷やかしの声がかかるが、そんなの気にせずにいつまでも撮影会は続いた。


 昨年はタイガースが優勝した。それもカープの主軸だった金本選手を奪われての事で、父さんは悔しくて泣いていた。


 それもそうだ、父さんは金本選手の大ファンだったからだ。


 初詣で、父さんは、「今年こそカープ優勝」なんて先を知る俺にとって無謀な願いをしていた。


 俺は、昨夜からの夜通しの作業を終えノッコと今年初めての散歩に出かけようとしたら、父さんが起きてきたので初詣に一緒に行く事にした。


 目的地は、このあと行くことになっている田中山神社だ。

 

 埋められた防空壕が残っている神社の境内は、朝早くだというのに参拝客が多い。

 

 長い階段を登り終えた後にお参りをすませると、父さんは俺に向かって、


 「翔介、おまえはいったい何をしとるんじゃ」


 そんな事を言い出して、見ていないようでしっかり我が子を見ているのを示してきた。


 「何をって・・・将来に向けての布石を敷いてるところというのが、一番適切な表現かな」


 「なるほど、おまえが何かを必死で取り組んどるんは知っとるが、父さんにゃぁそれが何だかわからん。楽しみにしょぉってもええんじゃろうの」


 「うん、自慢の息子を目指しているんだよ」


 「ほうか、自慢のなぁ・・・無理ばっかしゃぁすなよ。おまえは、まだ12歳じゃけぇの」


 「うん、わかってる」


 (父さん、俺は確かに12歳だけど、人生30年未満の可能性が高い12歳なんだ。そう時間はないんだよ)


 「それで、おまえは、将来なにを目指してこうも毎日頑張っとるんじゃ。昨夜もハルカ先生のとこじゃったんじゃろう」


 俺は大みそかだというのに、ハルカ先生宅で勉強という事になっていたが、その実、アトリエで鶴多雅章の仕事をしていたのだ。


 ハルカ先生の送りでスズと一緒に家に戻ったのはもう23時過ぎだった。


 その後も俺は自室で、作業を続けたのだ。


 「目指すべきは、父さんの後輩大学に入ることだけど、それより先も明確なプランがあるんだ」


 俺の両親は日本の最高学府を卒業している。同じ所を目指しているのは父さんも知るところのもので、同じ「経済を専攻する」とまで言ってある。


 「なぁ、翔介、おまえが、父さんより優秀ななぁ知っとるし、根性があるんもわかったんじゃ」


 父さんは俺の学校での成績だけを言っているのではない。『勤勉社全国統一小学生模擬テスト』での成績でも俺はトップクラスではなくトップだったのを言っている。


 「それで、翔介が目指すべきもんは、ぶち大きゅぅ高いなぁわかるんじゃが・・・」


 父さんの言いたいことはわかってる。自分の会社の事だ。


 「父さん、僕は父さんの跡取りだよ、加羅を蔑ろにはしないよ、僕はやるよ父さんの次を」


 「ほうか、忘れちゃぁいないんじゃの」


 「当たり前じゃないか、僕は㈱KARAの四代目になるんだ。そのつもりさ」


 俺は、そう言いながらもこの父さんの為に本当の後継者を残す事を考え始めている。


 すなわち我が子をもうける事だ。


 三五の運命替えにしくじってからの最近では、リクのプロポーズを受けて承諾したあとに死んで、幸せの最中にどん底に落としてやる事を復讐にしようかなんて事まで考えていたが、


 (それはまずい)

 という事に気が付いてしまったのだ。


 生前の俺は両親に孫を残していなかった。それがどれだけ後悔事項であったかを最近になって、マダムの話から気が付いたのだ。


 マダム麟子は、永見麟太郎として、永見家の後継者でありながらジェンダー差別を姉たちから受け跡取りになれなかった。


 そしてまんまと他家に嫁いだ姉二人に永見家を乗っ取られたのを嘆いていたのだ。


 ▲ 心内会議 ▼


 《今さら予定変更か》


 (ああ、変更だ。基本方針は変えんが、子供は残していく)


 《なるほど、それは悪くない考えだが・・・それで具体的にはどうするつもりだ。あいつとの間に子供をもうけて死ぬのか、それとも別の女との子にするのか》


 (それはわからん、これからいろいろと検討してみるさ)


 《復讐というのならあいつが俺にプロポーズしてきたタイミングでふってやるより別の女と結婚する方が強烈だぞ》


 (だろうな、でもその方針に改めるにしても、もう少しリクに配慮したものを検討してからでいいだろう。子供を残すことにしたってもう少し、)


 《バカな、そんな検討はいらんぞ》


 (そうか?)


 《いいか、あの父さんの恩に報いるというのなら何が何でも後継者を残してやれよ、それも早くにな。俺がやっぱり29歳で死んでもその時点で俺の子がそれなりの年齢であったなら、あとは父さんに託せられるだろう》


 (なるほど、広島だけに毛利輝元かぁ・・・けど結婚相手には負担をかけることになるな、なんせ俺は30前に死ぬんだからな)


 《残すべきものを残して死ぬしかないだろう。スズだって耳の手術をしない決断をさせたのは俺だ、スズにも身が立つ手段を残していかんとな》


 (だな。にしても復讐方法の変更でリクの心負担は俺がプロポーズ後にふるよりも酷になることへの配慮を検討してもいいんじゃねぇ)


 《おい俺ヨ、新年にあたり思いを新たにしようぜ、俺はあいつ「宇津伏リク」に殺されたんだ。そこを忘れるまいよ》


 (ああ、たとえ俺のイジメが原因であったとしても・・・なんだか木村佐和子を逃した悔しさが蘇ってきたぞ)


 ▽


 「くそ、木村佐和子に会いてぇ~!」


 俺は、二度目の参拝時に手を合わせたまま神を前にそんなことを口にしてしまったようだ。


 「「ねぇ翔介君、木村佐和子ってだ~れ?」」


 響華と華怜のまっすぐな視線の先には俺の目があった。


 「えっ、どうしてそんなことを?」


 「だって神様の前で木村佐和子に会いたいなんて言うから」


 俺はこの指摘で気が付いた。そんな願いをしたらしいのを。


 (無意識怖し・・・)


 「木村佐和子!ねぇ翔介、その人、誰?」


 リクまで参戦してきた。ここでリクは俺の寝言からその名前が出たのを語りだした。


 (ありえるな、寝言・・・)


 「私にも前に言ってたよ、木村佐和子のこと」


 痛いところをつくのは華怜の定番だが、ここでは響華が突いてきた。


 「「「ねぇ誰?木村佐和子ってだ~れ!」」」


 「うるさいな、木村佐和子は、おまえらのようにガキじゃなくてファッションセンスも抜群で紫のビキニが最高に似合ういい女だよ。俺と一緒に修善寺温泉の露天風呂に入るんだ」


 この俺の台詞に追及者の三人は目を見合わせて笑い出した。


 「わかりました」

 「なるほどね」

 「うん、わかったよ」


 それぞれ三人は何かに納得したかのように、頷きあっている。俺はこの三人の態度に反発するかのようにナオとスズと手を繋いで先に次なる目的地へと向かった。


 (これは俺好みの2Dキャラぐらいに見られたか?まぁいい、それにしても・・・気をつけよう)


 以前にもこの三人とスズを例えるために未来のキャラ名を出していたのを思い出し重ねて気を付ける事にした。


 俺たちが初詣を済ませて向かうのは、お呼ばれされていたイザベラの住いだった。


 イザベラの本名は、ジャンだが、それで呼んでも返事はない。ちゃんと、「イザベラ」と呼ばなければならない俺とリクのフランス人のフランス語の先生だ。


 彼女は、マダム麟子の親友という事になっているが、20歳以上も年下で、近所の女子大でフランス語を教えている一応男性教師だ。


 彼女のマンションに大勢で押しかけるとイザベラは誰よりも艶やかな和服姿で我々を迎えてくれた。


 「よく来たわね、おあがりなさい」


 彼女を初めて見るナオは、見た目と声質のギャップに驚くしかないが、他の面々は皆顔見知りでここも初めてではなかった。

 

 彼女は、2丁目のマダム麟子の店では、その美しさから大人気だった人で、ここ広島でも彼女目当てでやってくる客も多かったというほど、ある意味、ここにいる誰よりも女らしく美しかった。


 その証拠に、新年の挨拶を交わした後は、それぞれの着崩れをイザベラが直しながらのファッション品評会が始まる。


 「リクちゃんの袴姿とてもいいわ、でもね、髪型はね、、、」


 トップの髪をサイドから三つ編みにしていたのに、ピンクのリボンを解き、サイドにボリュームを出すアレンジにプリザーブドフラワーの髪飾りで素早く変えてしまった。


 「どう、これの方が大人びていいでしょう。この髪飾りはプレゼントよ」


 俺はしまい込んだカメラを再び取り出した。


 「さすがイザベラだ、凄い。リクが五歳はお姉さに見える。高校の卒業式みたいだ」


 俺の誉め言葉に、リクは今日一番の笑顔を見せた。

 

 次に、


 「私は?」


 響華が名乗り出る。


 「響華ちゃんはね、こうよ・・・」


 乱れた腰周りを最初に直された響華は、三つ編みを解かれると、ラフに織り込んで流れるようなラインを意識した髪型に変えられてしまった。


 毛束を織り込んだ部分に、大きなサクラをあしらったコサージュで飾り付けされていい感じだ。


 「オキョン、それいい!」


 俺の本気度高い誉め言葉に頬を赤くした満面の笑顔。いい写真が撮れた。


 次は、ショートカットのナオ。大きな髪飾りだけだったのに、最初にリクがしていたようにトップの髪の毛をサイドから持ってきて三つ編みをしただけのものに変えられてしまう。

 そしてボリュームたっぷりの大きめの梅の花をデザインしたコサージュでできあがり。


 「おお~う、ゴージャス感がアップしたぞ」


 まだまだ続きそうなので、俺とノッコはリビングでの宴の準備を始める。


 U^ェ^U 忙しいね忙しいね忙しいね忙しいね忙しいね忙しいね忙しいね忙しいね忙しいね


 ノッコは皆が座るソファの座り心地を確認したり温めたり、俺は乾杯グラスやおせち料理の取り皿を並べたり立ち働いた。


 「ねぇ、私はどう?」


 台所にやって来たのは、白すぎない落ち着きのあるプリザーブドフラワー素材の白薔薇をあしらった髪飾りで上品さが演出された華怜だった。


 「いいじゃないか華怜、さっきより大人感満載だ」


 俺はカメラをまた手にして撮影する。


 今日は、可愛い姪っ子たちのいい画像が沢山撮れた事に満足しつつ、スズの出来上がりを楽しみに待つ。


 「どう、翔介ちゃん、スズちゃんのできあがりよ」


 スズだけは、ちりめんの赤りぼんでそのおかっぱ頭を飾っていた。


 「おお~スズ、それいいじゃないかハイカラな感じが最高だ」


 俺はスズのハニカム姿も画像にした。


 それぞれがイザベラからの贈り物を頭にして乾杯をすると彼女の手作りおせちが振舞われ、皆はその豪華さに驚き味に感動した。


 「ママより美味しい」


 リクは言ってならない事を華怜に続けて口にし、スズなんか尚子ママからは絶対無理な産物に開いた口がふさがらない様子だ。


 ノッコにも特性ワンワンフードが振舞われる。


 テレビには昨夜の紅白の録画映像が流れている。マダム麟子の登場するシーンを俺に見せるためだ。


 「イザベラは、どうしてマダムと東京に行かなかったの」


 俺の問いに、即答が返ってきた。


 「だっておせち作りに忙しかったし、マダムも直ぐに戻ってくるもの」


 聞けば、まだ昼頃だというのにマダムが、もう戻ってくる頃なんて言っている。そうなのだ、マダム麟子は、とにかく俺を第一に考える人なのだ。


 「翔は、私の命の恩人」

 常日頃から口にして俺を下へは置かないし、今日だってせっかくの東京だというのに、


 「正月は、翔の顔を見ないと」

 朝一番の新幹線で戻ってくるそうだ。


 昨夜は、2丁目では、紅白凱旋歌手のマダムを囲んで今朝まで大宴会だったらしいのに・・・


 イザベラは、俺の正体を知っているらしいが、口が固いのは2丁目の売れっ子に備わった基本スキルだ。あえて口止めなどしなくても察してくれている。


 そして、ここに集う俺の姪っ子たちの師匠でもある。


 リクなんか特にフランス語の先生というのもあり、それ以外にも習う事は多い。


 舞は、流派が違うがイザベラはステージに立つほどのプロ。名取でもある事もありリクに熱心に教えているし、茶道の心得もあり花を生けさせたら母さんよりも商売がら華やかに生ける。


 しかしなんといっても、女性の嗜みを教えてくれるのはいい。


 「華怜ちゃんは、もっと歩き方に気をつけなさい」

 どうやら見た目と違った雑な歩行癖がイザベラの神経に触れたようでリクと一緒に特訓させられているし、


 「響華ちゃんは、もっと姿勢を良くして胸を張りなさい」

 どこか欠けた覇気みたいなものを出す訓練をさせられている。


 どうやらスズは(いじ)りがいがあるようで、何もかもが教育され、最近は毎日課題に取り組んでいるようだ。


 ここでも、勝手知ったるイザベラの住まいとばかり、俺に代わってホステス役を率先してやってくれている。


 新顔にも、


 「もう本当に翔ちゃんたら面食いなのね」

 

 ナオも家臣団に加えてしまったようで、正月早々手直しが悪い姿勢に入った。


 あっ、ここでこのイザベラに一番手を加えられているのは、何を隠そう俺だ。


 俺もフランス語だけじゃなく舞を見てもらっている事から色々(いじ)られているのだ。


 三世流という座敷舞とは違って、ステージ舞とでも言えばいいのか、とにかく彼女の観客を意識した見せる舞は、大胆で大きく美しさを見せつけるもので俺が段々とイザベラ化していくのが凄く気になる昨今だ。


 「最近の翔介君なんだか艶ぽい」

 とは響華の台詞。

  

 「翔介君がお母さんに見えた」

 とは、由紀さんと一緒に遅れてやってきた坂之下早百合の以前の発言。


 「ママが言ってたの、私より翔介君の方が女らしいって」

 とは華怜が言っていた。そう、俺は知らないうちに女ばかりに囲まれていたせいでガールズトークもできる男子になってしまっていたのだ。


 それもこのイザベラと、マダムを通して出会った事で拍車がかかったようだ。


 由紀さんと早百合が加わったところで、再び乾杯してマダムの紅白映像を皆で見る事になった。

 

 病弱な弟君も誘ったけど、留守番でゲーム三昧がいいみたいだ。そういえばリクの弟もゲームの方がいいと初詣を断ってきたので俺も思い出す。


 (あ〜俺も正月からゲーム三昧だったな)


 なんてだ。


 「凄いね麟子さん」


 身近によく見る人がテレビそれも紅白に出ているのに衝撃を受けたと言う響華。


 「美坂ミオと知り合いなんだよね」


 そっちに感動する華怜。


 ナオと早百合だけはまだマダム麟子とは未対面で、ここへやって来るのをドキドキして待っていた。

 

 早百合は自分の母親の仕事がマダム麟子の秘書的な仕事であると打ち明けられたようで、ここへお呼ばれしたのも業務上の繋がりだと思っている。


 そんな事もあってここに俺たちが勢揃いしているのも最初は驚いたようだ。


 リクも由紀さんの登場に驚いている。「ハルカ先生の助手」なんて言って舞やフランス語教室の送り迎えをしてもらっていたからだ。


 「ハルカ先生とマダムの住いは隣同士なんだよ」


 俺は、そんな真実を伝えてうやむやにリクを納得させた。


 紅白映像で盛り上がっている最中にマダムがやってきた。


 「明けましておめでとう、翔ちゃん」


 俺が真っ先に抱き上げられるところからイベントは始まった。まずは、「イザベラとマダムから」ということにしてポチ袋が皆に配られた。


 初対面のナオと早百合にまで渡されたお年玉は1万円だ。


 「こんな私に子供が寄り集まってくれるなんて嬉しいのよ」


 以前からこんな状態を夢見ていたのもあり、大奮発してくれた。


 マダムは今ではそのいかつく恐ろしい顔が、「可愛い」と世間で大人気なのだ。


 ここに集う彼女達も、日頃からマダムにあれやこれやと色々教えてもらっていることもあり、


 「マダム」とリクのように呼ぶのは響華だったし、華怜もそれに加わりつつあった。


 三人は恋の悩みまでしているようで、(俺の悪口)


 「翔ちゃんたら、本当に女泣かせよね」

 なんてよくマダムに責められていた。


 スズもマダムが大好きで、何をするでもないのに一緒にいる事が多い。


 「あの子は本当にピュアな子。大事にしないとすぐに壊れてしまうわよ」

 とはスズの取り扱い説明書マダムの発言だ。


 (麟子さんは、本当に優し人だね)

 スズも日頃から俺にそう語るように、二人とも似た性格から気が合うようだ。


 ということは・・・


 やはりナオも早々にマダムにあれやこれや自分の事を話している。


 由紀さんはイザベラと仲良しトークを始め、歩いて来たこともあってワインで乾杯していた。


 早百合だけが溶け込めないかと思ったが、仲良しリクもいるのでこの場にすぐに慣れ親しんだようだ。


 大人に交じりビールを隠れ飲む俺にリクの厳しい指摘が入るが、スズが家から持ち出したノンアルコール缶をかざして黙らせる気の利かせように俺はウインクで礼をした。


 宴もたけなわ、ついにはマダムが俺のピアノの伴奏でライブを始めた。


 最初は一曲のつもりだったようだが、つい酔いに任せて三曲の熱唱だった。


 ここで全員での写真撮影を済ませると、さすがのマダムも疲れが出てか沈んでしまった。


 「さぁお(いとま)しようぜ」


 俺の合図に皆は帰り支度を始めた。


 マンションの階下には送りのタクシーまでイザベラは手配してくれていた。跡片付けは、由紀さんが請け負うとのことだ。


 「これも業務ですから」

 

 早百合に隠れて、「今年も宜しくお願いします」二年目を迎える挨拶を交わした。


 こんな楽しい会にあって一人不満顔が残るのは早百合だった。


 「どうしてお母さんの方が、翔介君と仲がいいの」

 

 どうでもいい事を不満に思っているようだ。由紀さんが俺の事を、「翔」と呼ぶのが羨ましいらしい。


 「しょうがないだろう、由紀さんとは毎日一緒に仕事をしている仲だし」なんて言えないし、


 「マダムを紹介したのが僕だからだよ」


 なんて理由で納得させた。


 「ということは、翔介君は私達親子の恩人なんだね」


 今度はそっちに関心が移ったようで、ひとしきり俺の手を取って、


 「本当にありがとうね」


 感謝しながら見送ってくれた。どうやら片付けを手伝うようだ。


 タクシーは最初に響華と華怜を送って戻ってくるとナオが一番奥に乗り込みリクと俺がノッコを膝上にして乗り込んだ。助手席はスズが座る。


 帰宅すると、ここは宴会が始まった所のようだ。


 なんとスズの爺さん文吉さんまで来ているし、ハルカ先生は言うまでもなく、リクの両親にナオの両親まで来ているじゃないか、俺は驚いた。


 スズママの尚子さんは、森久さん(父さんの会社スタッフ)の両親の所に挨拶に行っているらしい。二人はめでたく今年の春先に結婚する事になったのだ。


 スズは、加羅家への養子入りが決まっている事から中学生になるタイミングで加羅姓を名乗ることになる。


 ここでそれぞれの衣装披露したところで、子供たちは着替えを始める。さすがに疲れたからだ。


 スズなんか晴れ着姿を文吉さんに見せたところで、その膝上でもう寝ていた。


 俺は、あまりの可愛さについシャッターを押してしまう。


 ナオも着替えが済むと、スズベッドに収まって寝てしまった。


 俺も自分のベッドに沈むと横にはすかさずリクとノッコが潜り込んできた。


 夕方からのお昼寝?だった。


 目覚めたのは、リクママがリクを迎えに来た事でだった。


 なかなか起きないリクを横にリクママは俺に改めて挨拶してくる。


 「今年もリクのことを宜しくね」


 「もちろんです。今年はリクにとって転機になる年ですよ、楽しみですね」


 なんて余計な事まで言ってしまう。


 「転機?」


 「ああ、中学生になるということです」


 俺はごまかしたが、そうじゃない。リクが今年はパリに旅立つことになるのを言ったのだ。


 リクはママさんに強引に寝惚け眼のまま連れ帰られることになる。


 俺はしばらくリクの残り香が残るベッドで横になっていたが、階下からハルカ先生の笑い声がしたのでその課題を思い出し飛び起きた。


 そして夜通し、また生き急ぐように勉強に励みながらも、新たなリクへの復讐方法で彼女が傷つく姿が妙にリアルに想像でき、心痛めるのだった。


 (こりゃぁ死んでやる方がいいかも)


 なんて思ってしまいがちな復讐方法だったが父さんの豪快な笑い声が響いてくると、


 (いやいや加羅家の後継者を残さないと)


 なんて、新たな復讐方法を実行する固い決意を確認したのだった。


 


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