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あいつは俺の仇!  作者: 方結奈矢
第三部 六年生編
41/58

突然のできごと


 六年生になってのゴールデンウィークはなんだか忙しくなりそうだ。


 夏休みから本格化する美坂ミオセカンドアルバムのレコーディングに先駆けてリハーサルをするため、ツアー中であるにもかかわらずミオバンドが大挙して広島にやってくるからだ。


 用意は周到!


 広島の街をあげての大イベント、フラワーフェスティバル開催中で込み合う時期にあってもホテルの予約は、年明け早々に完了していた。


 さすがは未来の大手音楽事務所の社長、鳴門真司だ。


 広島での宿リーガロイヤルホテルからは、リハーサルスタジオがある幟町のアフターズスクールまでは徒歩移動も可能な距離だが、ミオ隠しの為にレンタカーが用意されるそうだ。


 ミオ隠しといえばリハーサル風景も完全にクローズする事になっている。


 「翔、おまえを隠すために決まっているだろう」

 とは鳴門さん。園田翔は、性別・年齢から何もかもが不明の売れっ子作曲家なのだ。


 ミオ姉がレコード大賞の授与式の際に、


 「翔君ありがとう!」 

 なんて叫んだ事で男であろうとは推測されているが、それさえも事務所の方針で明確にしていない。


 美坂ミオ以外のシンガーやアイドルユニットにも書き下ろした曲は軒並みヒット作ばかり、注目度は高まるばかり、その正体についても話題になっている。


 「絶対に売れるから心配しないで契約してよ!じゃないといずれ他所に持っていかれるよ」


 今年になってデビューした俺が推薦した『野間秀介』と『猫伯爵とメイド』たちは共にケラウズランブラ所属となり、売れている。


 なんせ、未来の超ビッグネームの無名時代を強引に引っぱってきたんだから間違いはない。


 そんな事も、「園田翔プロデュース」と、してもいないのに、俺の手柄にされて記事にされた。


 その点で言えば俺が通う英会話スクールで出会った年下少女、陸奥安奈ちゃんは生前ワールドではスーパーな存在で、成長待ちだが、他所にスカウトされる前に鳴門さんに紹介するつもりだ。


 そんな状況で迎えるゴールデンウィーク。


 俺も、母さんには3(土)・4(日)・5(月)は、「ハルカ先生合宿」と名打って大学の研究室の宿舎に泊まり込んで勉強に励む事になっているが、その実、リハメンバーと一緒にホテルに泊まりこむのだ。


 心配はノッコだ。


 俺が不在だと寂しがるのは必定で、ホテルにノッコ同伴を願うが、即却下されてしまう。


 だが、ホルモン屋は、ゴールデンウィーク中は稼ぎ時、なんでも昼から営業するらしくスズは我が家の住人と決まりノッコの世話を任せられる。


 こんな状況を生み出すには、もちろんハルカ先生とは細かい打ち合わせを要した。

 

 リハーサル期間中の三日間は我が家には寄り付かないように指示したのだ。


 「翔介ママのご飯が食べたいよ」

 駄々をこねるハルカ先生には、簡単な脅迫で事は足りる。


 「だったら僕との個人契約は破棄しますよ。先生が役立たないなら、由紀さんもいる事だし・・・」

 

 いつでもお払い箱にできるのを冗談めかしで口にするだけでOKだった。


 その代わり、「家庭教師として課題は出すからね」とか言って、仕返しのつもりで俺に山ほど宿題を積み上げてくるが意味を成さない。


 俺の娯楽は相変わらず、ノッコタイムと知識欲を満たす事と、ピアノの練習にはじまる習い事の数々をしっかりする事だ。


 ゲームをするようにそろばん使って数学の問題を解き、マンガを読むように参考書を読む。テレビを見るぐらいならピアノを弾くし作曲をする。サッカーや野球するぐらいなら絵を描くし、自転車に乗ってどこかへ行くぐらいなら、リクとフランス語で会話するか舞の稽古をする。


 集中力が切れたら母さんの手伝いに勤しみ、茶道の稽古もする。


 とにかく俺は六年生になっても、なんら転生してからのライフスタイルを変えていない。


 ただ、強いて言うなら「稼ぐ」というシビアな問題に対しては、セーブしているとはいえ、作曲作業に時間を割くケースが多くなっている。


 そして、俺が三五の延命を図って運命変えを試みた一環としてなにげに誕生させた「シンイチ・ミゴ」なるイラストレーターの業務にも多少の時間を取られてしまう。

 

 そのぶん、どこにしわ寄せがいくかといえば、睡眠時間という事になるが、なんせ俺はまだ12歳なりたてホヤホヤ、無駄にスタミナがある事からお昼寝でもチョコッとすれば無理が効くのだ。


 俺は、アルバム用に完成させた曲と、メンバーが揃ったところで仕上げる曲の二つのタイプを用意してミオバンドの面々の来訪を待った。


 一番、緊張しているのは坂之下由紀さん、俺の新任の秘書さんだ。


 電話でのやりとりはあれど、鳴門さんに会うのは初めてで、今をときめく美坂ミオも来るというので、ガチガチだった。


 「翔!」


 だが、2日(金)の昼下がりに予告なく、俺の引っ越したてのスタジオに突然やってきたのは、ミオ姉だった。


 「ミオ姉さん、どうしたの」


 突然の訪問でも歓迎する前に、俺のスキンな頭を撫でまわす事で挨拶がわりにされた。


 「元気だった?新しくスタジオ作ったて聞いたから来ちゃったよ」


 手には、デカデカケーキがあった。


 「来ちゃいましたか、ちょうどいいや、姉さん、早々だけど一~ニ曲仕上げたいんだ、手伝ってよ」


 俺は、スーパーなミオの来訪を驚く由紀さんとスズを紹介して、持参ケーキと飲み物でもてなす間に、パソコンと連携させたワークステーションシンセYAMAHA MOTIFを駆使して一曲披露した。


 ♪~


 「カッコいい!カッコ良すぎる凄い曲だね。これが私の曲なの!」


 ミオ姉さんの最高の誉め言葉、「カッコイイ」が最初から飛び出した。


 「そうだよ、シャープすぎるギターのサウンドとリズム隊が真正面から対峙する曲で、ミオ姉さんのハイトーンで支配するなか、宮地さんの太いベースも曲の骨格を担う、どこまでも感動的に昇りつめていく曲なんだ」


 さらにもう一曲。


 ♪~


 「これは、僕のシンセ主導による曲でベースが曲に入り込んでくると曲は一変して、インプロに厚みが加わり、リズム隊に切り込むシンセの音がミオ姉さんの声にからみつくんだ」


 ミオ姉さん、もう我慢できないとばかり、俺の横に立ち渡されたばかりの楽譜に目を通して詞を口ぐさみはじめた。セッションの始まりだ。


 さすがは、未来の歌姫様、すぐに曲のツボをつかみアレンジに自分らしさを加え、曲を仕上げてくる。


 そして瞬く間に二曲とも仕上げてしまったのだ。


 「本当にいい曲ね、やっぱり、翔とだったら早く仕上がるわね」


 俺不在のレコーディングがどれほど時間を食うかを毎晩のように電話で愚痴るようにここでも同じ台詞を使ってきた。


 その間、部屋の隅で俺たち二人の様子を見ていたのは、由紀さんとスズにノッコだ。


 スズには俺を通して全てがダイレクトに伝わる事で、感動している様子で、ノッコと抱きあってる。


 由紀さんに至っては、俺が、本物の園田翔と実感したらしく、別の感動があったようだ。


 さて、ここで問題になるのが、ノッコのお散歩タイムだ。

 俺は、ノッコが第一と言いながら、ミオ姉さんの突然の訪問に迂闊にも散歩するのを忘れてしまっていた。


 「ノッコ、ごめんな、さぁ散歩に行こう」


 ノッコを連れ出した横にはミオ姉さんがいた。もちろんその顔はフードとマスクで隠している。


 スズは俺たち二人を前にノッコ係だ。


 「翔、この辺を案内してよ」

 気軽に言って付いてきたのだ。


 このノッコの散歩で、俺はミオ姉さんの現在進行中の全国ツアーでの思いなど様々な事をきかされた。


 中でも、俺が興味惹かれたのは、バンドメンバーとは別にダンスグループも帯同していて、ミオ姉自身もダンスレッスンを強いられているという話だ。


 「踊りながら歌うのって大変なのよ」


 どうやらアイドル路線の名残がそうさせるらしく、俺の口からステージプロデューサーであるところの鳴門社長に口添えして欲しいとの依頼もあった。


 「社長、翔の言いうことだったら、なんでも頷くじゃない。だからボーカルパフォーマンスに徹底できるように言ってよ」


 俺は、ミオ姉さんのLIVE VTRを見ていた事から別のアイデアが思い浮かんでいたので、快く、


 「わかったよ、鳴門さんに言っとくよ」


 なんて力強く返事をしてしまった。


 話は、他にも自分で書いた詞についてもあり散歩中にこれまで書き溜めた詞のいくつかを披露してくれた。俺は、そのうち一つに曲を付けて、セカンドアルバムに収録しようと提案すると姉さんは喜んでくれた。


 「翔のイラストジャケが楽しみ」


 とも言ってくれ、PVにも取り入れたいとの要望も言ってきたし、


 「どうしてシンイチ・ミゴなんて名前にしたの?」


 そう問いかけてもきたので、俺は、


 「忘れたくない名前なんだ」


 とミオ姉が昨年のGWのリハで三五と対面している事なども含めて、


 「あいつ・・・死んじゃったんだよ」


 ありのままを伝えた。



 散歩の途中に幾人かの知った顔に声を掛けられるが、どいつもこいつも、スズは言うまでもなく俺やノッコを見ていない。


 小柄ながらも、あきらかに俺より年上だとわかる都会人独特の空気を放つミオ姉に注目が集まった。そんなミオ姉は、


 「こうやって翔の友達の顔を見ると、やっぱり小学生なんだね、翔は」


 なんて感慨深く言ったりしてくる。


 「めんどくさいことになると嫌だから、マスクは取らないでよ」


 フードは、「うっとしい」と言って鮮やかな茶色の髪をたなびかせはじめたミオ姉に俺は、注意した。


 「わかってるわよ、でも、まさか広島のこんなところに私がいるだなんて誰も思わないわよ」


 気軽に笑う姿は、普通の中学生で、俺の姉たちと髪の色以外はなんら変わりなかった。


 とりとめのない話の中にもときおり、俺への探りを入れてくるところは、相変わらずで、


 「それで例の彼女はどうなったの」


 なんて誘導尋問の如く話をふってくるところもタイミングに絶妙さがあり、


 「ああ、リクね、あいつは・・・ウン?僕、ミオ姉さんにリクの話したっけ」


 つい、話に乗ってしまう。


 「翔のカノジョ、リクちゃんって言うんだ。どんな子なの?」


 思い返してみれば、これで二回目の罠落ちで、俺の方が年上なのにいいように翻弄され様々なデータを与えてしまっていた。


 「ねぇ、翔、私ね、狙った獲物は逃さないのよ」


 別れ際に言った意味は解らないが、ミオ姉の突然の来訪は楽しく過ごせ、明日からのリハに向けて準備は整ったのだった。


 ◆


 「後町先輩、どうするんですか、美坂ミオのレコーディングを広島でするのは、これで完全に不可能になりましたよ。本当に石塔部長のいやがらせ、ここにきて極まりましたね」


 「北川、何が完全に不可能だ、まだ手はあるさ。とにかく鳴門に会ってくるよ、電話じゃすみそうにないからな」


 後町先輩のスケジュールが突然、予告なく変えられてしまったんです。。

 

 会社の方針としてアイドル路線から本格的なシンガーへと看板を変えた美坂ミオのプロデューサーから外され、代わりに人気アイドル歌手、松永ミクルの新譜のプロデュースを命じられちゃったんですよ。


 先方の大手事務所ミヤケエージェンシーからの、


 「後町さんをプロデューサーにしてうちのミクルも本格的に売ってくださいよ」

 ゴリ押しがあったそうです。


 後町先輩は、「最新のトレンドプロデューサー」「ヒットメーカー」と世間で呼ばれ、今や業界で知らぬものがないほどの売れっ子プロデューサーになってしまいました。


 昨年の美坂ミオのファーストアルバムはWミリオンを早々に超え、トリプルも視界に入ってきていますし、他に手掛けたもの軒並みに売れているんです。


 とにかくスケジュールに隙間のない先輩の予定が急遽変えられたんです。


 「バカバカしい。なんで広島なんかでレコーディングしないとならないんだ。そもそもうちの目黒スタジオに匹敵するスタジオがあんな田舎町にあるのか?」

 石塔部長が、後町さんからの機材運び出しの稟議書にクレームをつけた事から、この騒動は始まりました。後町さんが、この稟議書の却下に噛みついたのは、ゴールデンウィーク明けの定例会議の席上でした。


 本来なら月初に行われるのを、連休明けに回された会議の冒頭で後町先輩は、


 「稟議書の件を再検討してください、美坂ミオのセカンドは前作を凌駕する出来となります」


 そう発言して、広島でのレコーディングの許可と自身が前作に続きプロデュースする許可を求めたのです。


 これは石塔部長の決定に社上層部を前に反抗した事になります。


 この場で、後町先輩、昨日までの三連休中に広島で行われたリハーサルでの手ごたえを、


 「園田先生は、本当に天才なんです。我々の誰もが予想できないサウンドをあの先生は作るんです。そのことは美坂ミオの前作だけじゃない、ケラウズランブラからデビューした『野間秀介』や『ネコ伯爵』でも証明できたはずです。それを私は、この連休中に広島でまた見てきました」


 切々と語り、


 「もし、広島でのレコーディングを許可していただけないのなら、ケラウズランブラの鳴門社長は、当社優先契約から他社優先に乗り換える可能性も示唆しています」


 社上層部を脅迫したんですよ。


 この発言に真っ向から挑んでくるのは当然、石塔部長でしたよ。


 「何がケラウズランブラだ。たかが渋谷の弱小事務所じゃないか。いいか後町、おまえを名指しで依頼してきているのは、ミヤケエージェンシーだぞ。新人に二〜三人いいのが出たからといってケラウズランブラなんかたかがしれている。そのへんをよく考えて社の決定に従ってくれんか」


 激昂した様子もなく冷静に反論してくる姿は珍しくさえありました。取締役の声が今年になって聞かれるようになって変わったふりをしているだけとは後町先輩論の弁です。


 「今は、まだ三人ですが、すでにデビューが決まったもう二人を加えると、かなりの所帯になるし、あそこには園田先生がいる。いいですか、彼は作曲能力だけじゃなく、新人発掘力にも非常に優れているんです。『ネコ伯爵とメイドたち』の男女混合のダンスユニットのメンバー八人は彼が全国各地からスカウトしたんですよ。野間秀介だって北海道から連れてきたのは園田先生だし、今年の秋にデビュー予定の『VILLAIN(悪役) DAUGHTER(令嬢)』三人グループだって園田先生が横須賀から連れてきたユニットなんですよ。この三人グループは、しっかりしたコンセプトで裏打ちされた出来の高いダンスパフォーマンスを見せるテクノとは違う新たなヘヴィーエレクトロニクスグループなんですよ。いいですか、我々が今後、最も注目すべきは既存の大手事務所じゃなくて、園田先生を擁するケラウズランブラなんですよ、そこをわかってください」


 後町先輩の説得にこれまでなら耳を傾けていた社長をはじめ、後町贔屓の専務に至ってもついには、


 「すまんが、後町君、今回は石塔君の営業二部の方針に従ってくれたまえ」


 諭されるように言われ、シブシブ頷いたようです。


 「クソ!うちの上になにがあったんだ。北川、これを見ろよ、俺の今後のスケジュールだ」


 僕は後町先輩が会議終わりに渡された新たなスケジュール表を見て驚いちゃいました。


 「先輩の希望が何一つ通っていない。ケラウズランブラから完全に外されましたね」


 「それで代わりのプロデューサーが、木島五郎だ」


 「え~~木島さんですか、これは、もしかして・・・」


 「そうだな、石塔さんの子飼いを持ってきたところをみると、」


 「石塔部長も実はケラウズランブラを買っていたということじゃないですか」


 「のようだな」


 「これはやられましたね!いかにも後町先輩を買っているふりして大手の仕事を回すかのようなことを言いながら、実のところは今後大きく飛躍が予想されるケラウズランブラの仕事を自派で独占してしまう気ですよ」


 「だな、俺はそれでもいいんだが、木島さんに美坂ミオをプロデュースすることは無理だ。せめて石塔さん自身がやってくれるならまだ可能性はあるが・・・これはひともんちゃくあるだろうな」


 この後町先輩の予想は大当たりすることになります。


 そもそも石塔部長が園田翔という人物を知らなかった事に問題があったのです。


 「石塔さんの頼みでも、広島でのレコーディングは譲れませんよ。うちの翔は、広島でのレコーディングを希望しています。うちの方針としては翔の希望が第一なんです」


 鳴門さんがヴィクセン事務所に乗り込んできての主張にも、石塔さんは耳をかしませんでした。


 「鳴門君、目黒のスタジオに勝る設備はこの日本にはないんだよ、そこを使っていいと言っているんだ。それも期限は一カ月間まるまる抑えてある。好きに使ってくれたまえ。それにプロデューサーも当社のレジェンドあの木島五郎だ。目黒スタジオを使わせたら右にでるものはいないよ」


 「何も、わかってない・・・」


 鳴門さんは、怒り心頭で帰っていきました。



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