新たな動き
恐るべき事に、六年生直前のリクの身長は170に手が届きそうで俺との差が広がるばかり。
その服装だって以前のようなミニは減り、ロング丈のワンピースが大人ぽっく増えてきている。
俺は、ロリ属性を秘めている大人たちのリクを見る目が癇に障ってきた。中でも教頭だ。
リクの転校早々のイジメに対して、
「イジメられる側にも責任がある」
などとぬかしやがり、俺の金賞作品が校長室への侵入者によって破かれた時も、
「責任は校長にある」
と言って一切関わってこない、父兄からも評判宜しくない男だ。
この教頭、最近ではめずらしく校内をよく見回るのも、その目つきからリク見たさは明白なんだが、ところが肝心のリクは、警戒心が薄く、わざわざ、
「教頭先生おはようございます」
笑顔でご挨拶、優等生ぶりを発揮していた。
俺に対しても相変わらずの甘ちゃんで、側にいるときは手を離さない。
本人曰く、
「クラスが別々になって寂しいから」
だと言うが、その実、
「最近ライバルが増えた」
とスズに語っているあたりが本音のようだ。
リクが勝手にライバルに祭り上げたのは、一級下の転校生、ショートヘアーの超おてんば系「トクちゃん」事、徳重ナオだ。
彼女は、リクは例外にしても背が高く、スポーツ大得意のおてんばキャラのくせに美白な音楽好きで、俺が作曲活動に勤しむ音楽室にズカズカ入ってきて、「何の曲?とてもカッコいいね、聴いててもいい?」笑顔で馴れ馴れしくスズの隣に立ち、話しかけてきた事が縁の始まりだった。
俺を介してでないと人付き合いが難しいスズと、単身で意気投合したところにノッコと同種を感じた俺もすぐに仲良くなった。
愛犬がノッコとスズに続いて増えた気分だが、ノッコやスズのようにスキンシップを気軽には取れない。
ガキのくせに、見た目に大人感がありなにかと誤解を受ける可能性があるからだ。 その辺がリクにライバル視された要因だろう。
しかし、その可愛さは半端なく、ついついスズやノッコにするようにギューをしてしまいそうになる。
このトクちゃん、リズム感が良い事もわかり、面白い逸材としていずれピアノでも教えてみようかと思うが、それ以上に、
・・・
いきなり繰り出すパンツ丸見えの上段回し蹴りが得意で、その人懐っこい笑顔から群がる男子達に容赦なく喰らわすのだ。
(こりゃぁピアノより空手の方がいいかぁ・・・)
俺はまずはこの新キャラに、女の嗜みを教える事にした。
◆
(早い!いくらなんでも、これは早いよ)
昨年の8月に発売された私のファーストアルバムは売れに売れWミリオンを軽く超えてしまったんだよね。
ドラマ『またたびはネコの毒』の主題歌シングル『In The Evening』で、レコ―ド大賞新人賞までもらってしまい、お爺ちゃんお婆ちゃんも大喜びの紅白歌合戦にも出たんだよ。
凄いでしょう!
その時ね、事務所の年上の後輩で、また猫で主演だった貴家楓さんが応援に駆けつけてくれたんだ。
綺麗な子なんだよ!
私はまだ中学生だけど、学校に行く暇がほとんどなくてね、補習ばかりなんだ。
だってさぁ、テレビやラジオのお仕事に雑誌の取材とかまであってただでさえ忙しいのに、予定外の早さで、次のアルバムが決まったからよ。
この4月に発売されたシングル曲『Ozone Baby』はドラマとのタイアップでもないのに園田翔による作詞・作曲だけでなくシンイチ・ミゴのイラスト画の評判も良くて大ヒットしてるの。
私が新人賞の受賞の席で、
「翔君ありがとう」
と叫んだ事で、注目される事になった園田翔。
その正体を巡っては年明けから多くのマスコミがスクープ合戦の様相で散々嗅ぎ回ったようだけど、謎のままよ。
まさか、園田翔大先生が、小学生とは思わないよね。そして評判のイラストレーターと同一人物だなんてね。
コンサートツアーの反響を受けて私の売り出し方針をヴィクセンさんがガラッと変えてきたの。
「ミオはこの先、本格的なシンガーとして売っていく」
この方針変更は大歓迎!だった。
私があれほど嫌がっていた夢みがち少女衣装が消えただけでなく、つまらないブリブリ芝居も必要なくなったからよ。
「タバコ禁止、酒禁止」
中学生の私にそんな事を言うのは、所属事務所の社長の鳴門さん。
どうやら周りがプロのミュージシャンばかりの環境に感化されないようにとの注意勧告だったけど、ママがマネージャーの私には、関係のない話よ。
それに、私は、タバコの匂いが大嫌いだし、酔っ払った大人はもっと嫌い。レコーディング前、エンジニアとの打ち合わせで揉めたのも酒の席だったんだ。
翔が電話でヴィクセンレコードの後町さんに、
「全然違いますよ、どうしてわかってもらえないのかなぁ~」
なんて仮録りを聴いて言ったのが事の始まり。
どうやら翔の思い描くサウンドが、遠隔指示だけでは再現できない事に怒っている様子で、後町さんが翔の声色を真似たのよね。
「だったら東京に来てくれよ」
ベテランエンジニアの北森さんは40歳を前にして翔に弟子入りした勇気ある人の発言は泣き言だったの。
後町さんも翔が何を言わんとしているのか理解ができずに苛立つばかり。
「だったら広島でレコーディングしたらどうだろう」
バックバンドのドラマー帆橋さんの発言に、
「今後のことも考えて、広島にスタジオ作ってもいいんじゃない」
とは、同じくバックバンドのベーシスト宮地さん。
鳴門社長は、焼酎グラスを片手に、溜息交じりに、
「それしかないか」
なんて言って本気で考えているみたい。
でも、全国ツアー前半が終わると、新たなスタジオ作りの話はどこへやら、翔と初めて会った時に借りたアフターズスクールのスタジオに録音機材を持ち込んで私のセカンドアルバムのレコーディングをする事になったの。
私の曲は、今どき流行りの打ち込みにだけに頼るダンス・ミュージックを基軸としたものではないのよ。
どこまでも翔開発の独特のうだるような重いリズムをシンセで作るもアナログな手法にこだわった、歌唱力とミュージシャンの質ありきのサウンドなの。
実際に、翔の曲は、明確なサビのある歌モノではなく、音楽に詳しくない一般層に対してアプローチしにくい特徴を持っているのよ。
翔は、
「パッと聴いて、すぐ耳に残る分かりやすいフレーズ曲なら世間に溢れてる」
とか言ってそんな曲を無視するようにメロディアスな美しい旋律にあの独特のリズムとサウンドで独自性を見せつける手法にこだわったの。
それが、『In The Evening』であり『Ozone Baby』などの大ヒット曲なのよ。
「ミオ姉さんが、わざわざ広島に来なくても、レコーディングはできるよ、声だけは東京でやってよ」
翔はそんな事を言っているようで、久々にゆっくり会える機会を喜んでいない様子なのよ。
翔も小学六年生になる事だし、そろそろ色気づいた女の子もいる事だろう。私は、そんな虫たちに殺虫剤を撒く事を思いつき、
「私のアルバムよ、行くに決まっているじゃない」
広島行を決めたのよね。
◆
ゲーム『宇津伏リク』のプレーヤーの俺。
彼女との付き合いも二年が経過したが、俺の部屋では昔と変わらないミニな姿で寛ぎながらERIERI熟読中のリクがいる。
オキョンとか華怜はニコプチ愛読者だが、リクは姉さんたち夢中のニコラでさえ、もう収まらない成長がERIERIに夢中になっていた。
Riku,c’est ton futur rival.
「リク、この子がおまえの将来のライバルだぞ」
指さした先には、早くも若き日のキャサリア・エスポジト(22)の姿があったが、何のこっちゃとばかりにスルーされてしまった。
リクと俺とは、「二人きりのときは、フランス語で」と新たに決めたルールに従って互いに辞書が離せなくなっていた。
それ以外も英語での会話を義務付けた二人の会話に、ノッコとスズだけは介入できた。
なんとスズテレとは、語学スキルがまったく必要なく目が合う相手と意思の疎通ができる能力でもあったのだ。
それこそ、最初は俺と家族だけとのコミュニケーションスキルかと思っていたが、スズの事情を知ったリク相手にも心通わせると通じたのだ。
それがきっかけで、様々な人へのアプローチを試みた結果、アイコンタクだけでこれまでのように俺という媒介なんか必要なく、より幅広くスズテレは通用する事が判明した。
「スズすげぇ〜」
俺は雄叫びをあげてスズをギューしながら称賛し、更に平和記念公園での平和学習の際に、観光客のアメリカ人とも台湾人とも会話が成功したのだ。
「おまえ凄すぎる、スズそれ最高!」
もちろん相手はスズテレには気が付かない。通常会話と思い込んでいる。
(これもきっとリクゲームクリアに役立つアイテムに認定されたんだろう)
俺は、そう思う事にして、スズが聴力回復手術を受けないでいる事に罪の意識を持たないようにした。
(うちが将来、自分で決める)
そう言ってくれたのに救われた気分だ。
ここ最近で注目すべきはスズばかりじゃない、リクの舞による変貌ぶりも大きなものだ。
前みたいにベッドに寝そべる事のなくなったリクは、それでもベッドに座り自分専用(ノッコお気に入り)の大きなクッションを背にしていたのを、俺は、
「リク、すまんが立ってくれ」
ERIERIを置かせて目の前に引き寄せた。
三世流の舞では、ほとんどの動きを中腰でするため、太腿、尻、ふくらはぎと下半身の筋肉が効率的に鍛えられ、俺はともかくリクはその体型シルエットがより鮮麗されてきている。
Obscène!
「エッチ!」
なんてスカートに手を入れて太腿を手触り確認する俺に言いやがるが、
Où est le Obscène? Je vérifie la croissance de Riku.Soyez silencieux.
「何がエッチだ、リクの成長ぶりを確認中なんだよ、黙ってろ」
俺は、さらに、ブラウスをめくり腹周りにも手を伸ばした。
普段は、椅子ばかりで、あまり鍛える事のできない骨盤底筋の筋力も強化されるのが舞で、背筋を伸ばした状態の上半身を支えるために、腹筋を使う動きも多く、腹周りも鍛えられるのだ。
(これは続けるべきものだな)
この判断は、俺がサボるとリクも同じようにサボる事から俺への重圧にもなっていた。
そして何よりも毎朝の稽古でリクだけでなく俺の線まで細くなり女ぽくなる事もあり悩みとなるのだった。
Depuis combien de temps touchez-vous au shosuke ?
「いつまで触ってるの、翔介」
俺は、硬く締まった腹回りの感触が心地よく、
C’est bien, n’est-ce pas ? Ça ne va pas diminuer, n’est-ce pas ?
「いいじゃないか、減るもんじゃないだろう」
言い返し、一歩下がったリクをベッドに押し倒してその作業に執着してみせたところで、ノッコタイムの始まりだ。
俺の足元で寝そべっていたノッコがスックと立ち上がり、
U^ェ^U 遊ぼ遊ぼリクだリクだリクだリクだ
俺と並んでリクの上にやってきてスカートの中に顔を入れてジャレテくる。
ここで俺はお役御免。あとはノッコの独壇場だ。リクを散々蹂躙して、満足するまでクンクンとペロペロしてまわるのだ。
久々に見たリクのパンツにも怒らず俺は、静かに机上にと集中力を戻すのだった。
俺は、昨年ERIERI誌上で見つけていた、
『JAPAN 新人デザイナーファッション大賞』
に今年は応募するためこの一年随分修練を重ねてきた。
その集大成ともいうべき、もちろんパクりまくりのデザイン画数枚を仕上げている最中だったのだ。
それで、急にリクの体型チェックを必要としたのだが、脳裏に今、見たばかりのリクの薄いブルーパンツが入り込んでしまう。
(もう、ちょっとしたランジェリーじゃないか、やっぱり成長するんだな)
子供パンツの頃の「可愛い」が遠ざかる姪っ子象が残念でならずに、
「もう、翔介ったら」
なんて大人な台詞で起きあがり俺の脇にやってきたリクのスカートをめくって中を確認すると、やはり脳裏に焼き付いたものに変わりなく幻滅してしまう俺だった。
「エッチ!」
なんてまた言いやがるので確認してみた。
「リクのこのパンツ選んだのはママさんかい?」
今度は後姿を見るためにリクを回す俺に、
「うん、そうだよ、可愛い?」
そう言って自分でお尻を突き出してきた。
「うん、ずいぶん大人びたデザインで驚いたよ、似合ってるな」
リクは、「大人なびた」という俺の台詞を何よりも最高の誉め言葉と捉えている。満面の笑みがその証拠だ。
ついでに尻周りの肉付きも確認する。
「よし、締まってる、上出来だ」
「エッチ!」
また、それだったが、
「私の絵なの?」
俺が長い間、集中していたものに興味をもってきたらしく卓上に目を向けてきたが、見せるわけがない。
俺は、咄嗟にリクには知られたくない将来のスキルを隠すためにデザイン画を隠してリク画を一番上にしていたのだ。
「どうだ、俺の課題なんだ、筋肉の作りを意識して描く姿絵なんだけど、この服の上から描く腰からヒップラインは難しんだ」
リクのヒップラインを撫でまわす俺の手は、見た目にはいやらしくもあるが、リクはそう思わない様子で触られるままに絵に見入っていた。
俺の絵の師、若竹正剛先生との課題の添削は郵送で週一は必ず行われる。そのせいもあって、もう有閑おばちゃま絵画教室には通っていない。
母さんも日本画の巨匠と聞こえ高い若竹先生の教えを直に受けているという事を喜んでいる。
「凄いね、とっても素敵な絵だよ、できあがったら頂戴ね」
リクは、自身が描かれている卓上の絵に満足な様子でいつまでも見つめていた。
ここで階下から母さんの声が入る。どうやら、松永澄子先生の来訪だ。
母さんが、俺の奏でる曲が理解できないらしく勝手に動いた結果だが、また週一のレッスンが始まり、リクにもレッスンを依頼していた。
ここらで、面倒な内部事情も語っておこう。リクの習い事の月謝は、当初全部俺負担だった。
リクママには、「フランス語も三世流の舞も、パートナーがいるんだ」なんて言って連れ出していたのだ。
それに続いてのピアノの稽古代はさすがにごまかしきれずに、自己負担をお願いした。これまでであれば、俺が教えていたピアノだが、時間的に無理になってきたのだ。
さて、俺とリクの月謝の出所が俺の財布となれば、母さんが黙ってはいない。
「自分の貯金を崩すよ」
俺は、昨年の夏休みに京都の爺ちゃんから、もらった現金十万円が、原資という事にしたのだ。
爺ちゃんは、本当に俺に、「有意義に使いなさい」と言って十万円もくれたのだ。
もう無くなってしまった十万だが、「まだ大丈夫」を口癖に粘っているとこでもあった。
◆
俺の怒りは、爆発ぎみ。
「先生、ハルカ先生、どうやったらここまで部屋を汚くできるんですか」
俺は、つい三日前に同じ台詞を吐いて、掃除したばかりの部屋をまた片付けを始めた。
「何回も言ったでしょう。生ごみは、放置しないようにって」
この先生も大学四回生にもなると実習が忙しく車通学と優遇されていても、浮いた時間を勉学に使ってしまうために家事はずぼらなままなのだ。
それでも、決められた業務はなんとかこなしてくれていたが、そろそろ限界を互いに感じていた。
夏休み入れば、ミオ姉さんのレコーディングがこの広島で始まる。そのスタジオまでの送り迎えもハルカ先生の仕事となるはずだが5月の時点で、ギブアップ状態なのだ。
▲ 心内会議 ▼
(これは、やばいぞ、ハルカ先生が機能していない、ここはなんとかしないと)
《ああ、鳴門のおっさんからもクレームだ、俺に連絡がつけづらいとな》
(と言われても、どうすることもできんぞ)
《おい俺ヨ、ここは、新人スカウトだろう。そもそもこのハルカルームはもう手狭だ。隣の3LDKが空いている今こそチャンスだ、引っ越そう》
(ここより広いな。念願のスタジオ兼事務所だな、いいだろう。そして、あれだな、新人スカウトだな、事務員として、ついに彼女を、)
《おい俺ヨ、顔が笑ってるぞ イヒヒ》
(イヒヒ そう言うオレこそ笑ってるぞ)
《しかたがないだろう、彼女をスカウトしようぜ イヒヒ》
(ああ、ノッコの散歩でよく会うあの公園の清掃のお姉さん。おばちゃん風体だが、磨けば俺好みのお姉さんに変身まちがいなしだ イヒヒ)
《イヒヒ それ行こう!早く行こう!とっと行こう!》
(まぁ待てオレよ、そう急かせるな、まずはハルカ先生に承諾してもらって、協力を要請しないとな)
《そうだな、俺が雇用主となると問題があるからな》
▽
俺のスケベ心がうずく企みは何事も動きが早い。まずはハルカ先生の名義で隣室3LDKの契約を完了させた。
俺は、ずいぶんと増えたキーボード専用の部屋を設けた。ちょっとしたスタジオだ。もちろん防音処置を契約が済むと真っ先に施した。
そんな準備が確実に進む間も、俺の作曲活動は続いていた。
ケラウズランブラには、俺への作曲依頼が殺到していたのだ。
それもそのはず、俺が手がける曲は軒並みチャート一位を例外なく獲得するからだ。
昨年の夏のミオ姉さんのシングル曲を皮切りに、他のシンガーも含めてこれまで七曲続けて一位を獲得している。もうちょっとしたスターだった俺。
(まぁ当たり前さぁ、なんせどれもこれも全米チャート入りのパクリ曲ばかりだからな)
自身の個性を吹き込んでいるとはいえ、パクリ曲の数々から得られる収入は半端ないものになっていた。
印税こそまだ振り込まれてはいないが、驚愕すべき金額になっているはずだし、作曲代金やアレンジ料などでも莫大な金額となっていた。
それを使っての引っ越しに続いて、いよいよ新人スカウトの場に挑むため、俺はいつものようにノッコを連れて児童公園に散歩にでかけたのだった。
◆
六年生になっての最大の驚きは、オキョンだった。俺が生前ワールドでみた美女子高生姿が六年生にしてやってきたのだ。
春休みには、祖母のいる博多に単身行っていたらしく、六年生となって久々に登場したオキョンに俺は、正直驚いた。
短くした髪は、ウェーブかかり女らしさを演出し、急に伸びた身長は大人感を演出していた。
彼女は、何を博多で得たのか、ゴールデンウィークには再び行ってしまった。
▲ 心内会議 ▼
《オキョンの奴、俺にも何も話さずだな》
(可愛いなぁ、響華。あれ何か企んでいる姿だよなぁ)
《ここらで勝負に出た、いたいけな少女といったところか》
(用心するよ、俺好みは、本来響華的な控えめな和な女だ。ここで、心許せば、リクに目がいかなくなるかもだ 笑)
《待て待て、俺好みはカレンのような、陰で悪態つきながらも淑女のように振る舞うことができる、悪役令嬢だろうが 笑》
(そうなのか?)
《そうだろう、悪役令嬢の逆手を取って物にするのが俺好みだろう。忘れたのか、ナース藤村咲子と別れて心傷の俺が付き合い始めた、あのお嬢様のことを》
(忘れるものか、栗橋理恵さんことリンリン。俺に初めて不倫をさせた一つ年下の人妻モデル。あの電話に俺は驚いた)
《ああ、理恵ママからの電話だよな、あれには死ぬほど驚いた。「うちの娘には夫がいるんです」》
(ああ、即死だったけど、別れられなかった。ズルズル続いたな。もしかして俺が生前に一番愛した女性かもしれん。確か両親にも紹介したよな、結婚相手として)
《ああ、不倫と知っても、なお別れられずに親に紹介して逆転を図ったけど、モラル負けしたんだよな俺は・・・》
(そうそう、エッチの相性もよくて本当に仲良くやっていたのに夫の介入で、俺は逃げ出してしまったんだよな、まだ続けられたのに・・・)
《彼女の面影をカレンに見てるよな俺ヨ》
(そうなのか?言われてみればそんな気もするが、時系列が逆だろう、華怜の面影を理恵さんに追ったんだ)
《違うな、面影を追うほど生前ワールドでは、俺とカレンの仲はよくなかったぞ》
(ああ、たしかにそうだな、にしても重いぞ、そろそろ限界だ、オシッコ漏れそうだ・・・)
▽
「おい、華怜さん、いつまでそうしているつもりだ、重いぞ」
ゴールデンウィークを前にした誰もいない篠崎宅の華怜らしいカレンの部屋で、俺はリク顔負けのミニスカート姿が可愛い華怜に襲われた。
「今日はね夜まで誰も帰ってこないの」
少しばかりはしゃいだ声の華怜に俺は、入室するさますぐにベッド押し倒されて胸に顔を埋めるままにされたのだ。
膀胱の上にも体重がかかり、俺の尿意が急成長するが、そこは我慢してなすがままになるしかなかった。
こいつには本当に三五の件では世話になり、俺にとっては大恩人なのだ。
マジで感謝している華怜だった。
いろいろわだかまりもあったが、こいつの三五への献身的な態度にいくら感謝してもしきれないと思っている。
「翔介君、キスして」
甘えた声でのこの要求にも応えるしかなかったのだが、
《おい俺ヨ、わかってるよな、キスしない条約。俺は復讐ゲームのプレーヤーでしかないんだぞ。あのあいつへのキスを思い出すんだ!!》
制御の声が心内から響こうとも、華怜の身近に迫ったその顔が、なんだか懐かしい理恵さんのと重なり思わず、本当に思わず、昔の習慣が蘇ってしまった。
俺は華怜の上へと位置を変え、なんと一つ年下の人妻モデルにしていたようにスカートの中に手を入れて太腿を弄りながら、濃度高いキスをしてしまったのだ。
その手の感触を楽しんでさえもいる。
(しまった)
と思いはしたが、衝動的行動はそうは簡単に止められない。理恵さんとの濃厚なエッチを思いだし、俺はついには華怜の耳元から首元にも唇を這わせ始めた。
《おい俺ヨ、もういいだろう、こいつはリンリンじゃないぞ、足の感触も違うだろう》
オレの呼びかけに気をしっかりさせた俺。
だが、華怜の甘い吐息に、またも理恵モードに陥ってしまったが、太股蹂躙中の右手がレース生地の感触まで味わい侵入してはならないラインを超えチクッとした感触で現実に戻れたのだ。
俺は、いつの間にか、ブラウスのボタンを全部外し肩からはブラジャーの紐を落としフックにまで外していた。
(やべぇ~)
露わになりそうな胸の膨らみを俺は慌てて自身で剥ぎ取ろうとしていたブラウスで隠しながら飛び起き、そして太々しく、
「これでどうだ、今日はここまでだ」
そう言って、何もなかったかのように振る舞い華怜を眼下においた。
そしてここにきた本題を切り出すために姿勢を整えた。だが、不覚にも短すぎるスカートから赤の花柄鮮やかなブラとお揃いの黒レースの下着が見えてしまい、ドキッとしてしまう。これまで見慣れたリクのとは違い妙に生々しく新鮮に思えてしまったのだ。
「華怜はやっぱりそういう大人ぽい下着が似合うな」
動揺を隠して褒めることで呼吸を整えた。たとえ ここで、「エッチ」と言われ責められるようともリクで免疫ありの俺には、通用しない。
逆に、「そうかなぁ」とか言いながらスカートを大ぴっらに自らあげてきても、やはりリクのせいで動揺は生じない。
そもそもドキッとしたのは華怜に魅了されたのではなく理恵さん錯覚の延長だと気がついてもいた。
でも華怜の立ち上がった後の姿に、俺は免疫がなかった。
スカートの裾をキッチと直しながら立ち上がったその華怜の肩からは外されたブラと一緒にブラウスまで脱げ落ちてしまったのだ。
露になった二つの膨らみを華怜は慌てて隠すではなく、なんとも恥ずかしそうにハニカミながらも両手を後ろで結んで俺の前に立ってみせたのだ。
ここで俺は動揺を隠し、(まだ早い、もう少し後に見せてもらうぞ)なんて今日の本題の駆け引きを考えながら、
「何をしているんだ」とブラウスを羽織らせ隠すべきを隠した。
「翔介君に見せる為に選んだんだよ」
明らかに隠したことでホットした感を流しての新たな台詞に適合させるために、スカートの横フックまでも自ら外してきたのには俺はただただ驚くしかなかった。
《オイ俺ヨ、スカートまで脱がしてどうすんだ!この事態を早く収束させろ!!》
(わかってるよ・・・でも、どうやって?)
《臨機応変だろうが、スィラブマスターーともあろうものが、このぐらいの事、さっさと処理しろよ!》
恥じらいながらも勇気を振り絞っている感が半端でないその表情に、可愛さを感じてしまいう。だが、オレからの呼びかけもありリクプレーヤーとして自覚も蘇り、華怜に対して恥じるべき行為をしてしまったと自己嫌悪に陥ってしまった俺だった。
「ありがとな、僕の為に・・・素敵な姿をじっくり見せてもらったよ。そのバラ柄のレース、いい感触だったしおまえにピッタリだ、とても似合ってるよ」
目を逸らさない褒め言葉の後には俺が自らスカートのフックをしっかりしてやったのだ。そして、俺はここで、この後に展開する本題に向けてのかけ引きを有利に進める為にスィラブマスターぶりを発揮する事にした。
俺は華怜のデスクチェアーに優雅に腰をおちつけ、華怜を前に引き寄せ、
「華怜の下着姿本当に素敵だったよ、ありがとな・・・そうだ、もう一度しかっかり見せてくれないか」
と依頼したのだ。
この台詞は、スィラブ大学生編で登場するランジェリーを一緒にショップで選んだ後の自室イベントで最も高得点を得る台詞だ。
あまりの予想外の台詞に動揺するヒロインの姿は、ゲーム上でもわざわざ動画になっていてそそられたものだ。
(さぁ華怜どうくる、「いやだぁエッチ」で逃げるか、それとも無言で逃げ出すか、どっちでもいいぞ、俺がこの後に持ち出す本題をクリアしやすくなるのはどちらでも同じだからな)
実は、この台詞の使いようはスィラブ上でも注意がいる事で有名だ。
「華怜、もう一度しかっかり見せてくれないか」
の後に「頼む」を付けてしまうと最高得点は得られない。
この、「頼む」を加える事で、自らスカートを上げるか脱ぐかして相手に見せる行為に、自発性よりも依頼性が反映されて表情のハニカミに、(頼まれたから仕方がない)という諦め感に似た依頼感が混ざるのだ。
スィラブで頻繁に出てくる【興醒め減点】というやつで、ここは自発性だけでランジェリー姿を見せる姿を引き出してこそ最高の恥じらいのポーズという事で最高得点となるのだが、
「もう一度見たいの?」
この華怜の甘い声での問い返しで、ゲームの流れはガラッと変わってしまった。
【立場変え】これはスィラブでも難易度が高い離れ技の一つで、俺が頷く事で、主たる立場が逆転してしまう面倒なものだ。
この「もう一度見たいの?」が、華怜が俺をじらすためのもので、やはり恥じらいながらも下着姿を見せてくれる結果は同じだが、それをされるとこの後の本題に響くので俺は、首を振った。
「いや、もういいよ、しっかり目に焼き付けたからね、ありがとな」
そう言ってギューして、主変えを防いだのだ。イニシアティブを手放さなかったという事だ。
ガッカリする姿を隠しているがバレバレの華怜に向かって俺は、
「すまんな僕さぁ、修学旅行に行けなくなった」
と本題をいきなり切り出してやったのだ。
理由は、ありもしないピアノのコンクールという事にしたが、本当は、修学旅行なんて行く時間が惜しかったのだ。
仕事も勉強も踊りも絵画もどれもこれも時間が欲しかったのだ。そろばんの昇級テストもあるし東京から来客予定もあった。
六年生になってクラスの副委員長になっていた華怜にクラス委員長の俺が抜ける事で負担がかかるのを踏まえて事前に知らせたのだが、「つまらない」を連発して泣き出さんばかり。
ところがドッコイ俺は、スィラブマスターだ。
「なぁ神戸で自由時間があるんだろう、華怜の可愛いおニューのこれ見たいな」
俺は、ここで華怜の肩からブラウスを落とすのと同時にスカートめくりあげじっくり見るだけでなく、バラ柄を指先でなぞった事で反論をやめさせたのだった。
◆
昨年のコンペで勝ち取った、サウンドトラックの仕事は、はかどらない。他人任せの演奏は、どうもシックリこないのは当たり前、楽譜だけ渡してすませるには限界があった。
そこで、俺は、自分で機材を買い込み、五年生の最大イベント課外授業を三五ショックのせいにして休んで、あのハルカ住まいに間借りした部屋であくせくレコーディングしたものを東京に送り再現させていたのだが、それでさえもピンとこない。
小学生ながら東京に日帰りをした事もあったが、とにかく時間が足りないのだ。
そして急ピッチでハルカルームの隣にスタジオを作ったが、なんせ小学生だ。昼間は授業があって時間は取れないし、土日は習い事が目白押し、どうにもならないタイムスケジュールに俺は修学旅行で潰れる二日間を有意義に使うため行かないと決めた。
この決定に母さんは賛成、父さんには反対された。
「ハルカ先生の課題が忙しんだよ」
これで納得、母さんとは違い父さんは、「思い出は大事だぞ」そればかり。
俺は、そこで必殺の台詞を父さんにボソッと呟いた。
「ミゴッチのいない修学旅行なんて・・・」
これで父さんに俺の偽の気持ちが通じたようだ。
俺は、ここでの三五の使用法は間違っていても、自分の運命が変えられない戒めとして髪を伸ばす事をしないと誓い、
「母さん、僕は出家した身だと思って髪をこの先も毎日剃って下さい」
そう頼んでいた。
(三五すまんな、助かった)
父さんが折れた事で、俺は修学旅行を休む事が決まった。
◆
ハルカ先生に変わる俺の代理人が決まった。
これまでどおり、ハルカ先生は加羅家の庇護下にあり専属の家庭教師だが、俺の取次などの業務は、俺がスカウトした二児の母親に決まった。
案の定、メイクして面接に現れた彼女は、俺好みだった。
ノンメイクでも第四位にランキングしていた俺の、秘書は、坂之下由紀さん、本来の俺と同い年の32歳だった。
彼女との出会いはノッコといつも訪れていた児童公園での事だ。
夏場の暑い時でも汗まみれでトイレ掃除から、公園全体の掃除まで休まずつづけていたので顔見知りになり、俺の当時のクラスメイトだった坂之下早百合のママさんであるのも判明する。
「この事は、黙っていてね」
広島に嫁いできた関東人の彼女は、夫を事故でなくした未亡人だった。
保険金など夫の実家に吸い取られた事で困窮してしまい、しかたがなく仕事を探したが、病弱な息子を抱えるために家から離れた場所での職場は無理で、時間的に融通がきく、公園清掃の仕事をしているとの事だった。
日に十カ所を受け持っているらしく重労働だが、急な呼び出しにも対応できるらしい。
「どうして黙ってないといけないの」
俺の素朴な問いに、
「あの子が嫌がるのよ、私がこんな仕事をしているのを」
悲しそうにそう答えた。
俺は、怒りに震えた。
「バカな、母親が必至で働いているのを娘が蔑むものか、もしそうなら坂之下がおかしいよ」
俺の憤りを怯えたような顔をして見つめる由紀さん。それでも、優しく、
「ありがとね、さすが加羅君ね、話は早百合からいろいろ聞いてるわ」
すぐにごまかすのだ。
坂之下早百合は俺と小三までは仲良かったが、転生した四年生からは、縁がなくなっていた。
今でこそ生理仲間としてリクとは仲良くしているが、当初は華怜の命とはいえ、リクイジメに加担していたのだ。
リクと仲良くなっても以前のように俺の前に現れなくなったのは、由紀さんと俺が出会ってしまったのを知ってしまったからだろう。
(公園清掃人のおばちゃんが私の母親)
これがばれるのを恐れて俺には近づかなくなったのだ。
現に、俺は由紀さんとノッコと公園の木陰でジュースを差し入れて一緒に飲んでいたときも早百合は母親の姿を見かけて一度は寄ってきたが、俺が一緒だとわかると遠ざかっていった。
そんな坂之下早百合ママを俺の秘書としてスカウトしたのだ。
条件は一つ、
「僕の事を絶対に他所で語るのは禁止」
としたのだ。
そして俺こそが、今を時めく園田翔でありシンイチ・ミゴである事を伝え、日中は俺のスタジオ兼ねる事務所での様々な業務を任せた。
最初こそ、ハルカ先生からの引継ぎがあったが、元はOL経験者すぐに業務内容をマスターして前任者以上に活躍してくれる事になる。
依頼内容の整理から、スケジュール調整に、締め切りまでのカウントダウン。依頼先からの入金確認から必要な物の買い出しから東京にも日帰りでできあがった楽譜やジャケ画を届けに行ってもらう事もあり、様々な業務は多忙を極めた。
車の免許は持っていたので、事務所車を新たに購入し、俺の送り迎えも業務に加えた。
舞の稽古は庚午で、フランス語は橋本町で英会話は紙屋町と遠かったが、これで時間の短縮に成功する。
リクには、早百合ママである事は内緒にしたが、すぐにばれてしまう。参加日で挨拶した事があるからだが、
「ハルカ先生の助手だよ」と紹介する事で、納得させたが他言禁止を徹底した。
こんな状況に一番喜んだのは、早百合だろう。
毎日美しく装って出かける母親に、自身も自信を取り戻したように学校でも元気になったのだ。
これで憂いなく仕事ができるわけではない。
俺の本当のスケジュール管理は、何もかも話して知る事になったスズが仕切ってくれるようになっていた。
由紀さんとも仲良くなり、俺の秘密を三五との会話内容で知ったスズを俺は唯一の相談相手にしていたのだ。
三五にも隠さず話していた分野もあるが何もかも愚痴も含めて秘密なく話したのはスズだけだ。
俺がリクへの復讐を誓っている事や転生者である事までは話してはいないが、リクをトップモデルに仕立てる計画は全部話した。
なんせ、スズは今やほとんど我家の住人なのだ。
父さんと母さんは二人してよく客としてホルモン屋に出向くが、酔っ払いばかりのガラの悪い店という印象は、「スズちゃんに相応しくない」という事になり尚子さんも了解したので、店の休み以外は我家で過ごすようになりクローゼットと客間をスズの部屋に改装までしてしまったのだ。
そればかりじゃない、父さんが会社の若い連中をホルモン屋に連れていったところ、俺とスズとノッコを京都まで車で送ってくれた、森久さんが尚子さんに一目惚れしたとかで二人の仲はきっゅうそく急速進展中というのも理由に加えられた。
スズの爺ちゃん文吉さんを訪ねていくのは何も両親ばかりじゃない。習い事の帰りにバスを途中下車してふらりとホルモン屋の暖簾をくぐる事が俺にもあったのだ。
爺さん、どうやら酔った母さんから聞き出したらしく、俺がビール好きなのを知ってホルモンとビールを出してくれるんだ。
そこでの爺さんの演技は細かく、冷えたビールグラスの脇にはノンアルコールビールの缶が置いてあった。
これで俺もいっぱしの客気取りで堂々とビールが飲めたのだが、量は相変わらずの350㎖が限界だ。それ以上はのまないしのめなかった。
憂さ晴らしの場所に愚痴が言える相手まで見つかった六年生の走馬灯ワールドでの生活は、新聞記事を見れば、先に予告する事で避けられる事件ばかり。
一家斬殺事件にしても、事前に知らせる事で・・・なんて考え出すとどうにもたまらなくなり、悔しさが溢れてくる。
だが、それ以上の思考は、もう許されない。
以前であれば、まだ頭痛が発生しなかったレベルでも警告を発するが如く簡単に頭痛が起こるようになっていたのだ。
(なんてこった)
これまでの経験で、俺の発想の行きつく先までお見通しのようなのだ。
その代わりにリクに関するアイデアはいくらでも浮かんでくる。
(そうだ、今度フランス語の帰りにこの夏の水着を選んで買ってやろう。今年はビキニデビューだ!)
そんなどうでもいい事はポンポンと浮かんでくるのだ。
そして何よりもリクをモデルにして着させる服となるといくらでもデザインが浮かんでくるのだ。
こうして、俺はパクリ術チートフォンを利用して『JAPAN新人デザイナーファッション大賞』に応募する作品をスズにだけ見せてERIERI編集部に応募した。
それとは別に、スズが、(どうしても)なんて言うから、大手アニメスタジオMAKITAには自分の発想で生まれたパクリなしのリク服をヒロイン衣装として応募要項に応じて送ったのだった。




