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あいつは俺の仇!  作者: 方結奈矢
第二部 五年生編
29/58

スズテレ


  「母さん、スズの着られる可愛い水着ある?」


 三五だけじゃない、スズも海経験がないのが判明して連れて行くメンバーに加えた。


 昨夜から、我が家の客となったスズ。


 大勢での食事を大喜び。


 デザートのケーキに大喜び。


 夜になって庭での花火を大喜び。


 ノッコと一緒も大喜び。


 興奮冷めやらぬ事からなかなか寝付けないスズを相手にビール会を辞めてまでテレパシー実験を俺の部屋で始めた。


 結果は家庭用のWi-Fiを想像してくれたらいい。

 アイコンタクトが通信の始まりとなり、近距離なら一緒にいなくても会話は可能だった。感度も悪くない。


 だが、互いの存在を認識できてもアイコンタクトがなければスイッチONにはならない。


 OFFにするのは簡単だ。語り掛けをしなければなんら通じる事はないのだ。

 

 要するに俺が木村佐和子とのエッチでふしだらな事をいくら思い浮かべていてもスズには読み取れないという事だ。


 逆に、スズが腹を壊すほどのプリンパラダイスを思い浮かべていても俺には何も伝わらないという事だ。


 (翔がね、前にビール飲みてぇ~、て言ってたのは伝わってたよ)


 笑いながらスズはそんな事を俺に伝えてきた。


 アイコンタクトがなくても、心の叫びは聞こえるようだ。その機能が、俺がスズを愛おしく思う気持ちを伝えてたようで、心開いてくれたらしい。


 俺は、ベッドをスズとノッコに譲り、眠りにつくまで、スズが大好きなジムノペディを子守ピアノとして弾いてやった。


 ♪~  


 5分もいらなかった。スズの寝顔を確認すると俺は机につく。まだやり残した課題があったからだ。


 翌朝は、ラジオ体操のため6時に起床。ノッコの散歩を兼ねて近所の公園に向かった。


 このラジオ体操イベント、うちの姉たちには無縁で、リクもその仲間入りしている。でもスズは朝から元気で、ノッコともう駆けっこをしている。


 午前の涼しい時を俺は有意義に使う。

 

 自室の窓を全開にして、ハルカ先生の課題に飽きたら作曲作業に飽きたらデザイン画の稽古に飽きたらそろばんの練習に飽きたら習字の稽古に飽きたら、またハルカ先生の課題に戻る。


 とにかく集中力が切れたら取り組む分野を変え、休む間もなく朝食と昼食を挟んで夕方まで部屋を出る事がない。


 リクもそれをよく知って、母さんについて様々な稽古をするが俺の邪魔はしない。


 スズもその間、俺の代わりに母さんの手伝いをしたり、ノッコと話し込んだり、リクを応援したり、宿題を俺の横でやったりとそれなりに忙しく、姉たちの相手までしてくれる。


 俺と同じで姉たちも愚痴をスズにはこぼしやすいようだ。


 この日は、昼食後、スズがお昼寝を開始すると俺は、ルーティンを崩して夏の炎天下、Cマーク鮮やかな赤いキャップをかぶり後ろ髪垂らして東京バナナの配達を始めた。


 三五宅⇒オキョン宅⇒カレン宅


 夕方戻ってくると、シャワーを浴びて一休み。そしてスズとノッコの散歩だ。


 どうやら今宵もスズは泊まるようだ。


 俺は、この午後にあった事をつぶさに散歩しながらスズには話した。


 三五が海企画を大喜びした事。

 オキョンとのトラブルの事。

 篠崎が俺の頼みを聞いてくれた事など、なんでも話したのだ。


 そしてある提案をスズにした。


 (なぁスズ、おまえ心通じさせて、俺の家族とも会話してくれているけど、そのスキルを使って、クラスの連中とも色々話をしてみたらどうだ)


 (う~ん、無理だよ)


 即答だった。


 (どうしてだぁ、俺の友達や家族とは打ち解けているじゃないか、その範囲を広げてみたらどうかという話だよ)


 (う~ん、翔、無理なんだ)


 (無理なのか・・・なぁ、やってみないとわからないだろう。こうやってテレパシーを使うんじゃなくて普通に話すんだよ口を動かして)


 俺がこの話をスズに持ち出すのは、声を聞いた事がないのもそうだが、もっとスズに友達ができればいいなと思ったからだ。


 リクには、もうそんな友達がいる。今日の午後からは、クラス女子たちと、どこぞへお出かけのようだ。


 スズにもそんな付き合いをしてもらいたかった。


 (翔、うちねぇ、喋れないんだよ)


 (えっ、喋れない?ウソだ、さっきもノッコと笑ってたじゃないか)


 (うん、笑うとかの声は出せるけど、しゃべれないの)


 (どうして、そんなつまらないウソをつくんだ。スズらしくないぞ)


 俺は少しばかり怒ったように言った。


 (ウソじゃないよ。うちね、耳が聞こえないの。だから自分の声が聞き取れないから、何を声にしているかわからないの)


 (スズ、ウソがバレバレですね~おまえはいつも俺の演奏するピアノを聴いてるじゃないか)


 (うん、そうだよ。最初は不思議だったんだ。四年生の時にね、音楽室からピアノの音が聴こえてきたことが・・・)


 (俺と知り合う前じゃないか、アイコンタクトもないのにどうやって聴いていたんだ)


 (きっと、翔がいつも心で弾いていたから聴こえたんだよ。ビールが飲みてぇ~と同じなんじゃないかな)


 (心で弾く?先生のピアノとかは聴こえていないのに俺のだけ聴こえるということか)


 (うん、そうだよ)


 ▲ 心内会議 ▼


 《これは、どういうことだ俺ヨ、スズが冗談を言っているとは思えんぞ》


 (ああ、本当だとしたら、俺は・・・)


 《おい、泣くなよ、スズが悲しむじゃないか》


 (だな、ここは泣かずに我慢だが、どうして俺と知り合う前に俺のピアノだけが聴こえたんだろう?今なら俺はスズに聴かせるため意識して音を奏でているから、他人の会話を、俺を介して理解できているのと同じで聴こえているというのは理解できるが・・・)


 《そんなこともわからんのか俺ヨ》


 (ああ、全くわからん。俺以外の奴もピアノは弾いていたぞ、先生も音楽室で、まさかその演奏の質とか言わんでくれよ、そんな理屈は通らないからな)


 《スズが言ってたじゃないか俺は心で弾いていたと》


 (心を込めてという意味か?)


 《違うぞ!いいか俺ヨ、ここは先生の弾くピアノと俺が弾くピアノの違いをその曲で理解したらいいんだ》


 (曲でかぁ・・・あっ、そうか!そういうことか、そうかそうか、俺が音楽室で弾いていた曲は、コンクール前なら課題曲だったが、スズが聴いていたのはコンクール後で、弾いていた曲は俺の曲ばかり)


 《そういうことだ、先生たちは自分の曲なんか音楽室で弾きはしない。楽譜を追うだけだ。俺はたとえチートにしろ自分で完成させなければならない曲もしくは完成させた曲だ。楽譜を追うのではなく心でイメージして曲を奏でていたというわけだ。そこをスズはしっかり捉えて初めてピアノの音を心で聴けたわけだ。これも一種のテレパシーなんだと思わないか》


 (なるほど・・・俺が心でイメージして奏でていた曲はスズの心内にダイレクトに響いていたわけだな)


 《あ~ビールの下りと同じというわけだ》


 ▽


 (ということは昨夜の子守ピアノは無意味だったのか・・・)


 (どうして?ジムノペティを弾いてくれたの覚えてるよ。あの曲を教えてくれたのは翔じゃない)


 (聴こえていたんだな、昨夜のピアノ。それでもスズは何も聞こえないというのか?)


 (翔、うちね、昔ね、お父ちゃんからいっぱい、いっぱい叩かれたの。それである日ね、最初は右の耳がキーンって音がして聞こえなくなっちゃったの。それでも左耳は聞こえていたんだけど、また叩かれた時に左耳もキーンでダメになっちゃって・・・)


 (スズには俺の奏でる曲は聴こえるんだな)


 (うん、そうだよ。翔と出会う前から、翔の弾くピアノだけは翔の心を通じて聴こえてきたの。それと同じで、翔の家族とか、友達なら翔を通してお話ができるの)


 あああああああ、何かと腑に落ちたような気がする。スズは俺という媒介を通してでないとコミュニケーションが取れないのだ。


 (そうか、わかったぞ、スズ。だったらこれを便利に使おうじゃないか)


 俺はスズの話に泣き出したくなったが、涙をこらえて、道端だったが強くスズをギューして前向きな話を始めた。


 (俺は、スズの媒介役をもっとうまくやってみせるよ。もっとスズにいろいろ伝えてやるからな)


 なんて言いながら俺の頭は別の事を思いついていた。


 (なぁスズ、実験第二弾だ。今から俺が思うことがおまえに伝わるかの実験だ)


 俺は、いつもポケット単語帳を開き、目を通して歴史年表の一つを思い浮かべた。強くイメージしてだ。


 するとスズは、


 (ダビンチは知ってるけどマキャベリーにチェーザレ・ボルジアは知らないよ。新大陸をアメリカと名前がついたのがこの年なんだね、1506年に・・・日本では彗星の出現が記録されてるんだね。雪舟って誰?)


 俺がイメージした通りをそのまま見たのだ。


 そして俺は、スズが疑問とした部分の答えを丁寧に解説する作業もイメージして伝えた。


 うまくいった。


 (これこそ、宇宙人の産物かもな、情報伝達の速度が早いよ、圧倒的だ)


 (宇宙人の産物?)


 (広大な宇宙空間を移動する彼らにとって会話によるコミュニケーションは役不足なんだ。俺たちだって伝えたいことを言葉で伝えるのは難しいだろう。それに時間がかかりすぎるんだ。いいか、俺がイメージしたスズの色はこんな色だぞ)


 俺は鮮やかなオレンジ色をイメージしてみせた。


 (明るいオレンジ色だ)


 (伝わっただろう、それもすぐに)


 (うん、よくわかったよ)


 (今度はスズが逆に何かイメージしてみろよ)


 (うん・・・・)


 (おう、そうかおまえの家の冷蔵庫に置きっぱのプリンが気になるんだな。大丈夫だ賞味期限はまだあるし、おまえの爺ちゃんとママが取るわけないだろう)


 (本当に伝わるね、凄いね)


 (ああ凄いぞ、スズ、俺たち!)


 (うん、うちたち凄いね)


 スズの会心の笑顔は俺の大好物!最高に美味かった。


 俺は興奮して、俺の知識のオンパレードをスズの脳に少しずつだが、徐々に量を増やしていくと、どれもこれも理解できたのだ。


 (ジムノペディは、エリック・サティが作曲した曲で、うちが好きな一番は、3/4拍子のゆっくりと苦しみをもってなんて指定されているんだね)


 俺たちは、この機能を使いこなすために、この日はずいぶん夜更かをしてしまった。


 そしてこの日の晩、スズを抱きながら寝るが、スズが見た夢までも俺にダイレクトに流れこんできたのには驚いた。


 (こいつ、まだこんな悪夢を見るんだ)


 スズが父親とおぼしき酒酔いの男から、激しく殴られているあまりにリアリな内容だった。


 だが、救いがあったのは、そんな見るに堪えないシーンにおいて俺がノッコを連れて颯爽と登場してスズを助け出してしまうシーンがあった事だ。


 恐怖顔から穏やかな表情に変わった事で起こすのをやめた俺は、翌朝のラジオ体操は二人しておさぼりを決め込んだのだった。



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