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あいつは俺の仇!  作者: 方結奈矢
第二部 五年生編
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スズ


 こんなにつまらない夏休みを迎えるなんて思ってもいなかった一人の少女がいる。


 島波鈴、10歳の小学五年生だ。


 彼女は、事情あって極度に人を恐れる傾向にあった。人見知りとはまた違うコミュニケーションが苦手な人種だ。


 人が嫌いなわけじゃない。人が寄ってこないように見えない壁を作るわけでもない。


 人とのコミュニケーションがうまく取れないのは、他人に自分をしっかり認識してもらえないからだ。


 意図せずに自身の存在感を消してしまうのだ。


 学校に通うのは苦ではない。イジメられる事は、その存在感のなさからないし嬉しい事がたくさんあるからだ。


 先生に声をかけてもらえると嬉しかった。


 きれいになったウサギ小屋で、皆に囲まれたウサギが逃げ出して自分の足元にやってくると嬉しかった。


 給食もなんでも食べられるから好きなメニューだったら嬉しかった。


 プリンがある日は特に嬉しかった。


 休憩時間に音楽室に行くと、初めての音!素敵なピアノの演奏が聴けるのも嬉しかった。


 (誰が弾いてるんだろう?)


 長い髪を後ろに束ねたとてもきれいな男の子が、ピアノを弾いていた。


 たくさんの女子がすぐに集まってくるので先生の許可をもらって音楽室を立ち入り禁止にしていた男の子は、部屋すみのスズの存在には気が付かなかった。


 (上手だな・・・)


 見惚れていたその男の子とは、五年生になって同じクラスの同じ班になった。加羅翔介だ。


 この男の子、これまでの誰とも違い、スズを見つけるのがとても上手かった。それもそのはずだ。自分の視界にスズがいないと、


 「スズ、おいで」

 すぐに手を差し出して、不思議にも心内に響く大声で呼ぶからだ。


 スズは呼ばれると差し出された手に自分の手を差し出していた。


 からみつく手の感触、温もり、とても心地よかった。


 そしてどこともなく引っ張りまわされては、いろんな人たちとのコミュニケーションに付き合わされるスズ。いつのまにか初めての友達ができていた。


 音楽室の片隅で隠れるように聴いていたピアノだって、いつも横に並んで座って聴けるようになったし、スズの為にいろいろ弾いて聴かせてくれる事もあった。


 ウサギ小屋だって、初めてウサギが抱けたし、ブラッシングをしたり、爪を切ったりと世話も手伝った。


 いろんな本を読んでくれたり、いろんな話をしてくれたり、愛犬と遊ばせてくれたりと加羅翔介と一緒にいると嬉しい事ばかり・・・スズは気が付いた。


 (これは嬉しいじゃない・・・)


 そう、スズは初めて祖父にいつも言われていた、「楽しい事はなんだい?」の意味がわかった。


 加羅翔介がスズに与えてくれたことは、どれもこれも初めての、楽しい事だったのだ。


 これまでなかった新しい感情“楽しい”をいっぱいくれる加羅翔介の友達や家族、特にノッコが好きになった。


 好きになったら、皆たくさんの“楽しい”をくれる事にも気が付いた。


 ノッコとは特に()が合いとても楽しい時間を過ごせる。


 でも・・・せっかくの夏休み、加羅翔介と会えないのがスズはとても寂しく思ったし、つまらないと思った。


 これも初めての事だった。


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