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あいつは俺の仇!  作者: 方結奈矢
第二部 五年生編
21/58

企みの舞台


 この日、俺の目覚めは、なかなかいいものだった。


 あくまでも偶然だが、リクの胸に顔を埋めノッコの寝返りパンチで目覚めたからだ。


 この女、勝手な決め事をいいことに必ず週末ばかりか祝祭日前も俺の部屋に泊まりやがる。

 

 ウッディーのTシャツと下着パンツだけを寝巻きにしてだ。


 確かにその姿のリクは、可愛い!誰がなんと言おうとも・・・


 だが、所詮それだけで、リクの胸に顔を埋めて心地よさを感じても、それは犬臭するノッコの身体に顔を埋めてグリグリするのと同じ喜びでしかない。


 ある意味、女を感じるよりも肉球と同じで高尚な趣味かもしれない。俺はリクの匂いが心地よく好きになっていた。


 最近、増えた台詞がある。


 「リクゥ〜おまえの匂いを嗅がせろ〜」

 追いかけ回すと、あっちも頻発NEWワード、「エッチ!」を持ち出してくる。


 ◆


 我家には鬼の鉄則がある。寝巻き姿で自室を出るのはご法度だ。起きたら即着替えだ。(トレイは例外)


 姉さん達は、バミューダパンツだがリクは、デニムのショートパンツ姿が定番でキャップを被りノッコの散歩にも当然のようにそのままリードと俺の手を握り付き合ってくれる。


 「いつも仲がいいわね」

 近所のおばちゃん連中に冷やかされるのを喜ぶリクだった。


 散歩を終えると朝食前にもう一仕事、ノッコのブラッシングは毎朝夕行事だ。


 その後にノッコのスベスベ感触を楽しむように体を撫でてやると舌を出しながら気持ちよさそうに目を閉じてリラックスしてくれる。


 リクは、それを羨ましがり、自分にもしてとばかりノッコの横に並んでワンワンポーズをとってくる。


 そこで俺は、ノッコ同様に背を撫でてやるとリクは、目を閉じて俺の手の動きを感じてリラックスしてくる。


 姪っ子達の思い出は遠のくばかり。この一連のリクへの所作に俺の方が慰められているのを自覚していた。


 ◆


 俺はあの日、小学校裏山の神社の境内で響華を思わずギューしてしまった。そこに姪っ子がいたからだ。

 

 どうやらそれが響華に自信をつけさせたらしい。


 あれから響華はわだかまりなくリクとも以前にも増して友人として付き合いを深めてくれている。


 だが、困った事にこれには補給がいるようだ。


 この女、勝手な決め事をいいことに俺に毎日ギューそれもハグじゃなくて強いやつを求めてくるようになった。


 この行為をリクに承認をもらったのは俺じゃない、響華自身だ。


 リクから、


 「オキョンちゃんを毎日ギューしてあげて」

 なんて頼まれたのだ。


 もちろんリク公認なら造作のない事、人目をはばかるが、俺は響華と手を繋いで語らい、ギューを続けた。


 だが、スズのように気軽とはいかない。響華はいちいち顔を赤らめて目を閉じてせつない声を可愛く漏らすからだ。


 時には、背後から驚かすように突然ギューをしてやると照れながらも一段と喜んでくる。


 交換条件があった事に俺はすぐに気が付いた。リクの手繋ぎ登下校が復活したからだ。響華を前にしてもはばからないものに。


 (本当にいいのか?)


 そんな思いもあったが、そこは無視する事にしたのだった。


 ◆


 「夏休みの初日が土曜日なんて、なんだか損した気分だね」


 なんてほざくのは社会人経験のないリク。今日は華怜姉ちゃんの誕生会の日だ。


 約束の正午前に篠崎邸に到着すると、もう参加予定の面々は勢揃い、俺がドベだった。


(これでも早めに来たんだが・・・)


 地元、芸州新聞の記者の華怜パパまでも参加する会場入りすると、華怜が驚いたような顔をしてきた。


 「どうして翔介君が、ここにいるの?」


 すかさず解説にしゃしゃり出るのは、美弥子さん。華怜の四歳上の姉、今日で15歳になるなかなか見応えのある黒髪美少女だ。


 「私が呼んだのよ、華怜が喜ぶと思って、ねぇ翔介」


 親しく呼び捨てにされて俺は上機嫌に、


 「美弥子さん今日はお招きありがとうございます」


 手にしていた大きな赤いバラの花束を渡した。


 「あら翔介、プレゼントなんかいらないって言ったのに」


 予定外の誰よりも豪華なプレゼントに驚く美弥子。


 「気持ちですから」


 「じゃあお礼ね」


 美弥子は俺の頬にキス一つ、チュとしてくれた。


 「いいなぁ〜羨ましいぞ、この小学生」


 下手な合いの手を入れてくるのは、美弥子のボーイフレンドAそしてBまでも、


 「もう顔、洗えないね」


 なんて調子を合わせてくる。


 「美弥子が話してた年下のカレシってもしかしてこの子のこと」


 ことさら俺に注目を集めようと女子友CとDが騒ぎだす。それにつられてE・F・Gの女達が俺を取り囲んで、


 「可愛いわね、翔介君だったわね、お歳は?」


 なんて完全年上目線で俺を見下ろしてくる。


 「11歳です」


 俺も調子を合わせて初心(うぶ)ぽくはにかんでみせた。


 プレゼント渡しも済むと、恒例のケーキロウソクイベントを行い、バースデーソングを音専高生Aのピアノ伴奏で皆で歌った。


 その間も美弥子の横で悲しそうな顔をする華怜がいた。


 「翔介、あなたピアノが弾けるんですって、何か弾いてくれると私、嬉しいなぁ」


 宴もたけなわ、甘い声の美弥子に俺は頷いた。


 「わかったよ、でもあのお兄さん音専の生徒なんでしょう -ーー えっ~とピアノのお兄さん、先になんか弾いてよ」


 俺は美弥子の一級上のボーイフレンドAの方を見つめた。彼は音楽専門高校の生徒でピアノを専攻しているという。


 「僕が先に弾くのかい、別にかまわないけど・・・でも僕の後だとキミが弾きにくくなるぞ」


 (こいつどこかで見たことあるぞ・・・)


 俺は考え、すぐに思い出した。


 (なんだこいつ、あのキャベンディシュじゃないか)


 髪型こそ違えど、生前ライフで熟読していた()()作品のバラを咥えたキザ男に似たA、喋り方までも似ていた。


 俺はその酷似を大いに喜び、その奏でを期待した。


 この白いピアノは美弥子の為に買ったものらしいとわかるのは、これ見よがしに彼女の美しく装ったスタジオ写真が二枚も上に飾ってあるからだ。


 美弥子はどうやら今日の会の締めに自ら何かを弾くらしく楽譜が用意されている。


 さてキャベ君が、大きなカバンの中から楽譜を取り出し、静寂の中で奏ではじめたのは『乙女の祈り』だった。


 ♪~


 魅力的でロマンチックなメロディーが好まれるが、大嫌いな曲だし、おまけにその演奏ときたら・・・(−_−;)残念でしかなかった。


 拍手が大きく起きた中で、Aは得意げな顔をして俺を見つめてくる。


 (おい、そのドヤ顔はなんだ?もしかして今の演奏に満足してるのか)


 「露払いはしといたよ真打の登場だ。さぁきみの番だよ」


 余裕綽々でAは、俺に席を譲ってきた。


 そして譲られるままに俺は軽くAに会釈して間髪入れずにベートヴェンのシンフォニー五番をリスト版で弾いてやった。


 ジャジャジャジャーン


 ♪~


 聞きなれた有名フレーズ曲。

 七分少々の一楽章を暗譜で完璧に弾き終えると拍手は起きない。起きるはずがない。歴然とした演奏力の差にAは震えている。


 「音専のお兄ちゃん、僕、音専に憧れてるんだ。(ウソです)今度はちゃんと弾いてよ。あんな駄曲じゃなくて、そうだバッハなんかどう?聞かせてよ」


 俺はここでイギリス組曲の第一番を奏でた、見せつけるように。二分弱だ。


 ♪〜


 「さぁ音専のお兄ちゃんの番だよ」


 Aは顔を青くして、


 「僕は、バッハは専攻していないんだ」


 言い訳をしてくる。


 「どうしてウソつくの?お兄さんのカバンの中、バッハばかりじゃん。イギリス組曲練習中なんでしょう」


 俺はピアノから離れてAの空いたままのバッグから書き込まれたイギリス組曲の楽譜を取り出してわかるように鼻で笑ってやった。そして美弥子の側で、


 「あのお兄さん下手すぎ。ピアノ専攻なんてウソだよ」


 微笑み、ジュースを口にした。


 しらけきった場を和ますかのように、今度はBが笑顔で俺に挑んできた。


 「きみは、ピアノは上手いんだね。勉強はどうなんだい。何が得意なの?」


 このB、美弥子と同い年の名門男子校、学習院中に通うエリート君なんだそうだ。


 「僕の得意な学科は全部だよ」


 本当の事を無邪気を装い言ってやると、すぐにこのBは、


 「ねぇ、キミは、幼稚園の『稚』に、『い』、と書いてなんて読むかわかるかい」


 『稚い』


 なんて俺を幼稚と言わんばかりにA4で準備されたそんな問題を出してきた。


 早速にチャレンジャー達がこの問題に挑み始めた。


 「ようちい」


 (バカだなこのC)


 「おさない」


 (おまえのことだD)


 華怜両親も考えるが答えはでない。


 「キミにはわかるかい」


 「簡単だよ、お兄さん、()()()()()だろう」


 俺は幼く答えると、このBに火が付く。


 『転寝』『徐に』『琴線』『焼べる』『木耳』『感ける』


 次々に準備された問題を出してくるが俺は遠慮なく正確に返してやる。


 「うたたね」「おもむろに」「きんせん」「くべる」「きくらげ」「かまける」


 そして俺が反対に幼いを演じたままに問題を出してやった。


 俺は自分のバッグから筆ペンを取りだし『稚い』の裏に、


 「()()()ってなんと読みますか」


 達筆な字で皆に見えるように書いて見せた。


 回答はない。


 「なんだ、美弥子姉ちゃん、このお兄さん本当にあのガリ中生徒なの、バカじゃん。()()()()が読めないなんて」


 俺はそれこそ甚振るがごとくBに近づき、


 「お兄さん、マジでガリ中なの?」


 あからさまに疑ってみせたところBは怒ったようにカバンから教科書と問題集を無造作に取り出して俺に見せてきた。


 学習院中の生徒にとって“ガリ中”は侮蔑用語と知っての俺の挑発にまんまと乗ってきたのだ。


 俺を難しいテキストで圧倒したいという考えはそれこそ稚い行為だ。


 俺は木下進と名前の書かれた総合問題集を選び何気にページを開と、そこには悪戦苦闘のあとが残り、どの教科もまんべんなくやり込んでいる。


 だが、


 「お兄さん、やっぱりバカでしょう。これ間違ってるよ」


 俺はどこまでも無邪気に数学の平方根問題の一つを指差してやった。正直言って、この程度の問題、ハルカ先生の弟子の俺にしたら中学生レベルって・・・中学生かぁこいつ・・・


 そこはそこ、さすがは学習院中、俺の指摘にすぐ気が付いて、


 「あっ」


 慌てて訂正を試みるが解けやしない。そこで俺は、目の前で解説しながら丁寧に解いてやった。


 「あっ、そうか・・・なるほど」


 それ以外にも、英語の間違いも指摘し丁寧に関係代名詞の使い方を解説してやった。


 さらにBがまだ習っていないのか手付かずの後半ページの数学問題までも解いてやる。


 この一連の流れで、場は完全にまたしらけることになる。というのも俺があからさまに大きなため息をついて、


 「バカばっかり、何が音専でピアノ専攻だよ。マジで僕の幼稚園時代の方がこのお兄さんよりよほどうまかったよ。それになにがガリ中だよ。アホじゃんこのお兄さん、小学五年生に習うようじゃ終わってるね」


 おもいきり笑ってやったからだ。


 いたたまれないAとBは早々に逃げ出していった。この場に踏みとどまる勇気もなかったようだ。


 この時点で美弥子の目論見は完全に水泡に帰した。


 今日の会に俺を呼んだのは、華怜のお気に入り男子であるところの俺を、皆の前で恥をかかせる事が目的で、華怜を笑う事こそが狙いだったのだ。

 

 それを事前に察知したのは華怜ママ沙也加さんで、美弥子の会話中の電話から推測したらしいんだ。


 (やるじゃん名探偵沙也加、推理は当たっていたようだ)


 なんせ俺と沙也加さんがグルなんて美弥子に想像できるはずもなく敗戦色が濃くなると、


 「あなたのカレシ、やるじゃない」


 当初から顔色悪くしての演技が、なかなかの役者ぶりの華怜に向かってそう言って敗北宣言をした。


 美弥子の企みを知って逆手にとった俺の勝利という事だ。


 美弥子の女子友C~Gも、俺が睨め付けると、俺を辱める何かを準備しているはずなのに披露する前に今度は自分たちがターゲットにされかねないと逃げ出してしまい会は予定より早くお開きになった。


 一人残された今日の主役の耳元で俺はつぶやいた。


 「ファンシー塚本のおばちゃん元気かな」


 顔を瞬時で青くする美弥子がそこにいた。


 (忘れちゃ〜困るぜ俺は元は敏腕記者だったんだぜ)


 なんて心内でほざき、華怜パパを前に思い出したように語り始めた。


 「そういえば、先日、美弥子姉ちゃんがそこのファミレスで言ってましたよ。今通ってる中学校には寮があって、本当はそこに入りたいんだって」


 「そんなこと言ってない!」


 慌てて否定する美弥子を俺は記者目で睨みつける。


 「え〜言ったじゃん。それとも僕の聞き間違い?」


 いくら中学生といえども俺の脅迫ぐらい認識できるはず、


 「言ったよね、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ」


 やっと頷いた美弥子の背後から、場を静観していた沙也加さんが驚いたかのように、


 「まぁ本当なの、ごめんなさいね、やっぱり美弥子ちゃんには、ここは居心地悪かったのね。ねぇ、あなた、美弥子ちゃんの願いを叶えて差し上げて」


 アドリブな合いの手を入れてくれた。


 「え〜私、寂しくなっちゃう」


 こちらも予定外の台詞を父親に向かって情感見事に吐く華怜だった。


 この美弥子、実は実母の再婚の際に追い出されたわけではなかった。


 もう六年も前の話になるが、9歳の四年生の時に、万引の常習犯として補導され再婚家庭にいられなくなったのだ。


 名古屋の隣、一宮での事だった。


 俺は、この情報をネット上で集めた。

 この時代には盛んに行われていた地区別チャットで、『雛口美弥子』とママさん情報から旧姓で情報を募ったところ、昔を知る奴からファンシー塚本事件情報を得たのだ。


 美弥子は当時から可愛くて評判高い事もあって、記憶していた奴が二人もいた。


 角度を変え今度は、一宮の店『ファンシー塚本』で情報を求めてみたところ、事件の概要情報が集まった。


 それは、万引きが見つかり、逃走する際に店主のおばちゃんを突き飛ばして怪我をさせた少女の事件だった。


  俺は、事が片付き家に帰ろうとしたら、


 「翔介、どういうこと?ちょっとこっち来て」


 美弥子は、いきなり俺の手を強引に引いて二階の自室に俺を引き込んでしまった。鍵までかけてだ。


 「何よあれ!」


 よほど自分の悪巧みが壊れて腹の虫が収まらないのだろうか、そんな思いをぶつけるような怒りの形相をしている。


 「何よと言われても、おまえがバカなことをしでかすからだろう。おまえの男達がバカでよかったよ。あれマジで使えねぇ」


 「私があんたに何をしたというの」


 「あららとぼけるの。誕生日プレゼントの(くだり)から僕に恥かかせるつもりで、何も持ってくるなだったんだよね。でも華怜から赤いバラをリクエストされたから持参した次第さ」


 「なんですって華怜のリクエストですって・・・あの子に今日のことを事前に伝えていたと言うの」


 「もちろん。あの日、おまえと別れてすぐにな」


 俺は携帯を取り出して見せた。


 「いいかぁ、塚本事件は華怜には言ってないけど、今後もし華怜にちょっかい情報が僕の耳に入ったら、マリア中の前でファンシー塚本事件の詳細をビラにして撒くからな、マジで」


 「もうだいぶ前のことよ」


 「おまえバカか、たとえ六年前でも、おまえがやった事実は消えないんだ。なんなら実験してみるか、さっきの奴等、おまえが万引き犯だと知っても友情を示してまた集まってくれるかな?」


 「・・・私は、どうすればいいのよ」


 「僕の要求は華怜の前から消えろだ。二度と現れるなだ。親父に会いたければ外で会え。それができたら僕は、塚本事件だけでなく、おまえが万引き常習犯というのも忘れてやる。もちろん華怜にも口にはしない。どうだ!できるか、二学期からの寮生活」


 「わかった、やればいいんでしょう、やれば」


 「それでいいんだ。おまえの誤算は僕を見誤ったことだ。華怜が惚れた男を舐めんなよ」


 ここで美弥子を心配したパパさんの声が、ドア向こうからしてきたのでバトルタイムは終了した。


 不機嫌顔の美弥子は表情を変え甘えるようにドア外で待つパパさんにすがりつき、


 「パパお出かけしましょう。寮のことで話があるの」

 

 そのまま外出してしまった。俺が階下に降りると片付け中のママさんから改めて、


 「翔介君はピアノもうまいし、中学生の問題まで解けるのね、凄いわ」


 手を握られて感謝されたのだった。


 ここで俺はチラつく胸元から目をそらし華怜の方に向きを変え、今後の友情関係のためにも厳しい事を言った。


 「なぁ華怜、約束守れよ。もう悪巧みはするなよ、二度と。そして何か困ったことがあったら僕が助けるから遠慮なく言えよ」


 涙ぐみながら頷く華怜を見て、思わず、


 (可愛い)


 そう思ってしまう。


 俺は、このあと華怜らしい華怜の部屋に案内され仲直りのギューをやってしまった。


 だって母親から叱られて落ち込んだ時の姪っ子の姿と重なり、そうせずにはいられなかったからだ。


 ▲ 心内会議 ▼


 《オイ俺ヨ、これ必要か?完璧に堕ちたぞ今!》


 (だって可愛いじゃないか、この篠崎、見ろよ俺の胸の中でスリスリしてやがる)


 《あ~あ、頭まで撫でて、ノッコの同類にしやがってこのガキたらしが、オレは知らんぞ》


 (相手はたかがまだ10歳のガキじゃないか、どうにでもなるさ --- なぁ11歳の俺よ、これで()()()さんも満足だろう)


 [()()()、なんてことするんじゃ。華怜ちゃんにこんなことしやがって]


 (何を言ってるんだ、おまえの為にこうしてるんじゃないか、ホレ見てみろ、俺の手がこんな風に篠崎の腰周りをエッチに撫でてるぞ)


 [やめれいや、そんなこと・・・]


 《オイ俺ヨ、悪ふざけはそのへんにしとけ、おバカな11歳君が脳震盪起こすぞ》


 (そうだな)


 ▽


 俺は、華怜とのこれまでのわだまかりを完全に互いに消去したのを確認して部屋を出ようとすると、


 「待って翔介君」


 なんとも大胆にも今度は華怜が、背伸びして俺の唇に自分の唇を重ねてきたのだ。


 ・・・


 《よけれたよな、あれ》


 (よける?あれをよけてたら俺たちにこの先はないよ)


 《別にいいじゃないか、なくたって》


 (あのな~この篠崎は三五の運命変えの切り札だぞ、それに俺の初恋ちゃんだろう。少しは11歳君に配慮してやれよ。今でこそ照れてるけど、将来こうしてなければ後悔で恨まれるぞ)


 《なるほど、ミゴッチと11歳君を持ち出してくるとはずいぶん上等な言い訳だ。その代わり面倒事が一つ増えたことを認識しとけよ》


 (リクかぁ・・・)


 《それだけじゃないぞ、オキョンもだろう》


 (そうなるのか?)


 俺は帰宅すると余すことなくリクに今日の事を報告するために彼女の部屋を訪ねた。いきなりキスされた事もだ。するとどうだろう、


 「華怜ちゃんと仲直りしたんだね」


 そちらを喜んでくれるじゃないか。俺は心底から、


 「リク、おまえって最高だな」


 そう言ってまるで今日の自分を清めるようにベッドに座るリクをギューしてしまう。


 催促がきた。無言で俺の胸から顔を上げて俺を見つめてくるやつだ。


 (目が潤んでるじゃないか・・・)


 《もう、こんなとこは立派に女だな。オイ、ホレしてやれよ熱いやつをな》


 言われるまでもなく俺は、リクに心を込めてキスしてやった。


 それでも少しばかり残る疚しい気持ちを浄化させるためにリクが好きな『In Other Words』をドン・シャーリー風に弾いてやると、ご機嫌顔してくれるリクに満足する俺だった。


 ◆


 翔介が華怜ちゃんと仲直りしてくれた。


 理由は知らない。五年生になってから突然、よそよそしくなった華怜ちゃん。


 一緒にお買い物に行ったり、あれほど仲良くしてくれていたのに・・・


 その原因が翔介と喧嘩したからだと知った。


 元々、翔介と一番仲かがよかったと聞いていた。二人は好き同士だとも聞いていた。


 そこに私が割り込んだ込んだ事が原因で二人は仲が悪くなってしまったとも聞いた。


 でも、そんなわだかまりがなかったかのように仲良くしてくれていた華怜ちゃん。挨拶しても無視されて悲しかった。


 でも今日、翔介と華怜ちゃんが仲直りした事だし、次からは私とも仲良くしてくれるはず。


 翔介にキスした事は・・・許せない?


 元々、翔介と華怜ちゃんの仲を壊したのはイジメられていた私。二人はお似合いで本当に仲良しだったって皆が言ってた。


 私がイジメられてなかったら翔介はこうも私の事をかまってはくれていなかったはずで、華怜ちゃんとそのままうまくいっていたはず。


 私なら怒りたくなるような事だけど、華怜ちゃんは我慢して私とも仲良くしてくれた。


 五年生になってすれ違って手を振っても無視されたのがとても悲しかった。


 きっと翔介の事で恨まれてると思って華怜ちゃんが怖くなっていた。


 でも、キスの事は許せない?けど、二人が仲直りしてくれてよかったと思う。


 だって、翔介は、「おまえって最高だな」凄く喜んで褒めてもくれたから。


 きっとここで私がわがまま言って、華怜ちゃんとの事を責めたら翔介は困っただろうし、私の事を嫌いになったかもしれない。


 でも、私のモヤモヤは・・・あれ?残らなかった。


 あっ、翔介のキスのせいだ。凄く心がこもった素敵なキスで私は上機嫌にさえなっている。


 そして素敵なピアノの演奏・・・『In Other Words』はニューヨークでの思い出の曲で子守歌にママがいつも歌ってくれたいたんだ。


 ありがとう、正直に何もかも話してくれて・・・


 でも、


 「翔介、もう他の人とキスしたらダメだからね」


 玄関先で見送る時にちゃんと言っておいたし、ノッコにも監視役を頼んだんだ。

 

 ◆


 翌日、リクの誕生日プレゼントを買いに行くデートは、大人の俺でもやばかった。


 経験がないわけではないが、水着売り場は色とりどりの女性物ばかりで目のやり場に困った。


 リクにとって今年はリベンジの年らしい。昨年の夏休み琵琶湖で一緒に泳いだが、スクール水着だったので、俺が、よそのお姉ちゃんばかりに目を奪われていたのを、根に持ちバースーデープレーゼントに水着を催促してきたのだ。


 「その代わり僕が選ぶからな」

 この台詞はスィラブからのもの。買ってやる代わりに自分好みを着せるといったイベントもので、女は案外これを喜び高ポイントが得られる。


 篠崎邸で美弥子退治をした翌日のリクとのお出かけは気晴らしになったが、次から次へとショップ巡りはもう大人を思わせるリクだった。


 なんせ見た目は大人、本当は子供ならではの大胆でお気軽なミニスカートに見えるショートパンツ姿は目を引きロリ野郎どもの目を楽しませているじゃないか。


 《危なくね~か》


 (将来のためだ)


 俺が心内会議の末に選んだ選択とは、(人に見られる事に慣れてもらう)だった。


 そしてこの日から俺はデジカメを手にして事あるごとにリクの撮影を始めたのだ。


 最初こそ恥ずかしがっていたけど、試着水着姿にもカメラを向けた。


 試着室を覗ける【男冥利】は、スィラブでは高得点が得られるアイテムだったが、俺はランジェリーでさえも実践済だった事もあり、


 「う~ん、ちょっとこっち向いてみ」


 とか言って鏡越しでなくこちらを向かせマジマジとリクの水着姿をチェックする余裕があった。


 俺が選んだのは、俺好みの赤一色のビキニではなく、サイドオープンのワンショルのブルーの水着だった。


 腰の片側が大胆に露出しているワンピースだが、品よくまとまっている。どうせ来年は成長して着られないから、この夏を楽しむのに限定して選んだ結果だ。


 今年は泊りがけで爺ちゃんが小浜海岸へ連れてってくれる事になっている。そこがデビューの場所となるはずだった。


 ノッコが海で泳げるのかも楽しみだった。というのも昨年は琵琶湖では大はしゃぎだったからだ。


 そして明日からは、いよいよ東京強化合宿ハルカバージョンと題した東京行だ。


 目的はもちろんケラウンズラブラの社長、鳴門さんに同行していろいろ周るのだが、なんといっても最終コンペに残っている遠藤保津監督に直にプレゼンをする事だった。


 『音曲の神様』


 巫女である雨野ウズメさんを音楽神と崇める宮廷音楽家たちの苦悩と葛藤を描く、人気小説の映像化作品で大ヒット間違いなしの続編まで作られたものだ。


 大ヒット間違いなし情報はもちろん俺。なんせ俺も生前に母さんと見に行った作品だ。


 続編は高校生になって当時のカノジョ川村美穂と見に行った。


 主人公の北畠親房は笙の名手。雨野ウズメさんは着ているものを所かまわず脱ぎだす困った女神様で篠笛を吹き、二人の合奏シーンは、クライマックスを飾るもの。その際に奏でる曲こそがコンペの曲だった。


 俺は遠藤監督に何を催促されてもそれに応える準備はできていた。と偉そうに言っても所詮はパクリ三昧で準備した作品ばかりで、負けるわけにはいかない。


 競う相手は、作曲家というよりは、人気バンドのキーボード奏者でありソロ作品も数多くある超ビッグネームの万里生友一(まりせ ゆういち)だった。


 俺は、本来サウンドトラック担当者であったベテランと争う11歳の無名の少年ミューシャンという事になる。


 果たして映画『音曲の神様』のサウンドトラックの仕事が獲得できるのか・・・



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