美弥子
俺の金賞作品が破かれた事件の真犯人として砂子田政四は職員室で吊るし上げにされた。
穏便を主張した俺の意見なんか無視するかのように、
「許せない、こんな子は退学にするべきです」
普段は温厚な美術の吉井愛美先生が、よほど学校初の全国児童美術展での金賞作品が破かれたのが悔しかったのか、できもしない事を口にして大騒ぎしたのだ。
「せっかくの金賞作品を、校長室に忍び込んでまで破くなんて、犯罪者じゃないですか」
砂子田本人とその両親を前にヒステリックに怒る吉井先生。俺のお好みベストエイトランカーだが予想外の表情に驚いた。
うちの母さんもこの場にいたが、セロハンテープで修復された俺の絵を胸に抱き何も口にしない。
裁定者としてこの場で砂子田の処置を決定しなければならない校長といえば口をモグモグさせるばかりで、
(時間の無駄)
俺はそう判断した。
「もういいですよ、吉井先生。破かれた物は元には戻りませんから、この件はもうこれでお終いにしましょうよ。僕は砂子田君の謝罪を受けいれます --- ねぇ母さん、もういいでしょう」
俺はわざとらしく母さんの腕時計を覗き込み、そのまま砂子田両親の手をつかんばかりの謝罪を無視して母さんの手を引いて、学校をあとにした。
◆
劇中の金持ちの令嬢には髪の毛を梳いてくれるメイドが付きものだが、俺には母さんがいる。
不気味に思う息子であっても毎夜のビールミーティングは続けてくれ俺の髪の手入れをしてくれる。
普段は不気味がってどこか他人行儀な母さんだったけど、この時だけは優しい顔をしてくれる。
最近では、姉たちが夢中で読んでいるコミックキャラからポニーテール男版にも理解を示してくれていた。
(ありがとうエドワード・エルリック)
来年から放映が始まる錬金術師に俺は手を合わせた。
◆
父さんの部屋からヘビーなサウンドが漏れ聞こえてくる。どうやらドアが閉まりきっていないようだ。
高校時代はハードロックバンドでギターを弾いていた事から今でも愛聴盤はヘビーなものばかりだ。
「朝っぱらから賑やかだね」
俺は父さんの趣味を継承していた。
それはそうだ、子供の時からドライブで流れる曲は、父さん好みばかりのギターが唸りキーボードがそれに絡みつくといった類のやつだ。
昔、子守歌として父さんの部屋で聞かされたのは、『チャイルドインタイム』イアン・ギランだ。
いつのまにかリッチー教団にも入信させられ、ジョンやドンなどの使徒の虜になっていった俺だった。
姉さんたちは母さんの庇護もあり、正常に育ちノイズ交じりのアドリブソロの洗礼を受けずに済んだが、俺への洗脳は父さんのなすがままだったのだ。
「おう、翔介か、この曲いいだろう」
世間では宇多田ヒカルや浜崎あゆみの歌姫がもてはやされているというのに、父さんがこの朝に聴かせてくれたのは、Nickelbackの昨年に出たばかりのサードアルバムSilver Side Upだった。
(俺的には2005年発売の五枚目のアルバム「All the Right Reasons」の方が好きなんだけどな)
「いいね、最高じゃん」
生前ワールドで俺の愛聴盤でもあったサウンドにリラックスできるが、次に何が起きるかも予想できた。
「あなた、あれほどお願いしたじゃないですか、ノイズを流すときはドアをしっかり閉めてくださいと」
母さんの襲撃だ。
「翔ちゃんも耳を傷めますよ、こんなところにいないで早くいらっしゃい、朝ごはんできてるから」
「母さん、ノイズじゃないよ」
俺はちょうど曲がアルバム二曲目のこの年の洋楽ランキング第一位になる「How You Remind Me」が流れてきたため耳を傾けさせた。
「あら、悪くないわね」
母さんの柔軟性が俺は好きだったし、父さんの歳をとっても趣味を変えないところが好きだった。
◆
長谷部響華と向き合ったのは、学校裏にある神社の境内で下校時に遠回りしての事だ。
脇には、この遠回りを喜ぶスズがいるが、響華と向き合う間は、場を外してくれた。
「翔介君、本当にスズちゃんのことを気に入っちゃったんだね」
響華は、今さらを開口一番に選んだ。
「オキョン、おまえが俺をこうやって呼び出した理由はわかってるつもりだから、その話をしようよ」
「うん、わかってる。翔介君はリクちゃんともう付き合い始めたの」
躊躇なく本題を持ち出してきた。
「ああ、そういうことになってる」
「だよね」
「だな」
響華は俺の誕生会でのリクの公前キスの事を言っているし、未だにショックが解消されていないようだ。
「本当に翔介君はリクちゃんのことが好きなの」
(痛いとこを突いてきやがる)
「もちろんだ」
(好きかと聞かれたら好きに決まってる。ウソじゃない)
「ウソ!私の言っている好きは、ただの好きじゃないんだよ」
(ちぇっ、マジ痛いとこつくな、こいつ)
さすが響華、俺に次ぐ高位成績者、なかなかの切れ者だ。
「オキョンは何が言いたいんだ」
「私は翔介君のことを諦めたくないの。私の方がリクちゃんより翔介君のことが好きだもん」
(諦めたくないのときたか・・・この姪っ子キャラ、随分と大人になったな)
「ありがとうな、そんなふうに思ってくれて正直マジで嬉しいよ」
「本当に?」
(うん?本当だよな・・・本心だ、間違いない)
俺は響華の事が正直好きだった。
もし、リクを仇としなかったなら一番親しんでいた可能性もある。もちろんリク同様に恋愛感情ではない。そんな想いでいくならオキョンママの美智子さんの方が、分がいい。(笑)
「もちろん、本心だよ」
「だったら、いいの。私は辛抱強く待っているから、その時が来るまで」
「その時?」
「翔介君が私の手紙を受け取ってくれた時に言ってくれたことを私は覚えているの。翔介君は、人のことを好きとか嫌いとよくわからないと言っていたことを」
(こいつ鋭いな、頭いいじゃん)
「ああ、言ったな」
「翔介君は、リクちゃんのことを好きと言ったけど、たぶんそれはただの好きで、私が翔介君に持っているような想いとは違うものなの。だから私は翔介君が本当に女子のことを好きに思えるようになったときに、私を選んでもらえるように頑張るの」
(よくわかったな、その通りだよ。俺はおまえらの誰にも興味はないが、可愛く思ってる気持ちにウソはないんだ)
「なるほど、その時とは僕が恋する時のことなんだな。よくわかったよ」
「そうなの翔介君は、今は、誰にも恋してなんかいないのよ、今はね。それと、リクちゃんはいつまでも私たちの前にはいないと思うの」
(なんだって!オキョンはそんなとこまで達観しているのか・・・恐るべし)
「何を根拠にそう思うんだ」
「リクちゃんは、私達とは全然違う別世界の美しさを持っているでしょう、だからクラスの男子だけじゃなくて上級生の男子も隣のクラスの男子からも人気が高いの。あんな素敵な子は、いつまでも私たちの近くにはいないと思う・・・」
「芸能界からスカウトがくるとか?」
「うん、方法まではわからないけど、いつまでも私たちの側にはいないよ。そんな気がするの」
「さすがオキョンだな、その通りだよ。あいつはそんなに長くはここへはいない。長くてあと三年だな」
「えっ!やっぱり翔介君もそう思っていたんだ」
「ああ、思ってたし、そうなるべきだとも思ってる。だから、僕はリクにいろんなことを教え込んでいる最中なんだ」
「それで、ピアノとか・・・やっぱり・・・だったら翔介君は、いずれリクちゃんとお別れすることを知って、付き合い始めたの?」
「もちろんさ」
「でも、そうなったらリクちゃんは、翔介君の手の届かない遠くに行ってしまうかもしれないのに、それでもいいの?」
(うん?この発想・・・オキョンも少女マンガを読んでるな)
「そう願っているのさ、僕はね」
「本当にそれでいいの、リクちゃんが他の人に取られちゃうかもだよ」
(そうはならいよオキョン。俺はそのために日々精進を重ねているんだ)
「だからって、リクの可能性のある道を妨げるのは男じゃないだろう。ここは応援してチャンスが来たら後押ししてやるのが男ってもんだ、そう思わないか」
「男って・・・うん、思う。やっぱり翔介君はかっこいいね」
「リクは今、様々な知識を貯える時間なんだ。いろんな経験と合わせてな。だから僕も頑張って様々なことを吸収してあいつに伝える作業を頑張っているんだ。ピアノや本の世界観とか、この広島のこととか」
「そうだね、翔介君は何もかも手を抜かずにいろんな習い事も頑張っているもんね。私も翔介君の恋に目覚めるきっかけになるように頑張るね」
「嬉しいことを言ってくれるね、オキョン。だからさ、リクの旅たちに協力してくれよ。あいつは俺たちが想像もしない凄い世界に羽ばたくやつなんだ。そういう意味じゃオキョンおまえだって、この先、無限の可能性があるんだぞ。そこを合わせてよく考えてみろよ、何者にもなれるということだ」
「うん、わかった、翔介君」
どうやら胸のわだかまりが取れたようだ。久しぶりに響華のくったくのない笑顔を見られた事に俺は満足して、
(可愛いなぁ・・・)
思わずギューしてしまう。
「あっ・・・翔介君・・・」
「いいか、僕はおまえのことも大好きだし大事だが、今は、それ以上にリクのことを考えないとならないんだ。あいつが羽ばたき旅立つその時まではな」
「うん、私も翔介君を応援するね。リクちゃんに凄い世界を見てもらうために私も協力する」
「おう、心強いや」
俺から離れようとしない響華だったが、そこには当然、邪魔が入る。
「・・・」
おかっぱ頭の割り込みだった。
「わかったよ、スズもギューだ」
俺はスズも強く抱いてやった。
「よしよし、スズ、お前が一番可愛いぞ」
ニヒヒ
ノッコと同じ台詞で俺はスズをなだめる。俺を見上げるスズのいつもの笑顔、俺の大好物だ。
スズの介入は響華に嫉妬してではない。自分にもしてほしいというだけの催促なのだ。
響華もそれがよくわかっているようで笑っていた。
◆
「翔、いったいどういうことだ」
鳴門社長からの電話は、また深夜で開口初っ端から激しい物だった。
「何が、どうしたんです」
寝ぼけた声で応対する、俺。
「貴家楓さんだよ。彼女を俺は見つけ出して、翔介のいう通りに富井監督の前に連れて行ったんだ。そしたら貴家楓さんのオーディションがその場で始まり、またネコの主演が即、決まったんだ。それを説明してくれと俺は言っているんだ」
「富井監督に見る目があったんじゃないですかぁ〜」
「そんな簡単に片づけるな。小磯富美加の後任を巡っては番組プロデューサーが、オファーの取れる女優を山ほど富井監督にぶつけたんだぞ。それなのにどれもこれも首を縦に振らなかった富井監督が貴家さんを一目見るなり、アクションを起こしたんだ。もう明日朝から撮り直しを始めるんだぞ」
「そうですか、またネコは予定通りに製作されるんですね」
「ああ、そういうことだ。ミオのシングルも予定通りだし、富井監督から、俺へのご褒美もいただいた。今後、富井組に出入りさせてもらえることになったんだ。サウンドトラックの仕事を回してもらえるということだ。これもそれも皆、翔のおかげだ感謝するぞ」
「謝意は金銭で示してくださいね(笑)それで貴家さんとは契約できたんですよね」
「ああ、正式にはこれからだが仮契約はすませた。急な話で当分は、俺がマネージャーをすることになりそうだ」
「慣れないことでしょうが頑張って下さいね鳴門さん。彼女は、超大女優になる人ですから大事にしてくださいよ」
「そうなのか、そうなんだな。そうじゃなくて、どうして貴家さんを翔は、ああも強く、それも自信ありげに俺に推したんだ。まるで富井監督に認められるのを知っていたかのように」
(ピンポン大正解。知ってたんですよ)
「僕は貴家さんのファンだっただけですよ」
(ウソだけど)
「翔が彼女のファンだって、聞けばファッション雑誌の読者モデルをチョコッとやっているだけの素人だったぞ」
「その読者モデルの彼女を見てファンになっただけのことですよ」
「翔は女性ファッション誌にも興味があるのか」
「姉が二人いるものでね」
どうも納得しかねる鳴門社長を丸め込み、俺はタイムパラドックスを起こした事でこの先の方針を少しばかり考えなければならなくなった。
▲ 心内会議 ▼
《おい俺ヨ、無謀だぞ、もし歴史の流れを変えるようなことに介入すると、あいつへの復讐計画自体が頓挫しかねない》
(おいオレよ、あまり浅はかなことを言うなよ。遠の昔に俺は歴史に介入してるんだよ。美坂ミオの曲、どれをとっても数年後のヒット曲のパクリじゃないか、それになんのために俺がデザイン画の勉強を始めたと思ってるんだ。俺がリクをミューズにしてのトップデザイナーになるためだろう。どれもこれも俺の歴史にない新しい動きばかりじゃないか)
《オレが言いたいのは時系列に大きな障害をもたらす可能性だよ。またネコの主題歌「In The Evening」 のプロモートに影響が出るからといって、貴家楓を一年も早くデビューさせるなんて、焦りが露骨だぞ》
(あのな、今日はどうしたんだ?おかしなことばかりを言うなオレよ。時系列だって、そもそもリクと俺は仲良しでもなかったし、響華には絶縁され、スズや三五とかは縁もなかったんだ。もう、時系列なんか大きく変わってるんだよ。今さら貴家楓がなんだというんだ。富井監督との出会いを半年早めただけじゃないか)
《そうか、わかってるんだな、ならいいさ。それで、こんな大胆にタイムパラドックスを生じさせた背景は、もちろん俺の運命変えだろうが、ミゴッチのこともあるんだろう。何か延命策でも思いついたのか?》
(いくら考えても何も出てこないよ。あいつの病がいったい何なのか俺は知らないし、三五にも自覚症状がないんだ。体が弱いという認識があるだけで持病なんか知りもしない。三五ママだって知らないんだ)
《突然の発病からの死をミゴッチは迎えるというわけか。早めに病院を勧めても・・・》
(手遅れだろうな。何らかの病を早期発見で助けるつもりなら一年前は最低条件だ)
《無策ということか》
(策ならあるさ。俺は策の一環として貴家楓の運命も変えたんだ。もしかして三五の運命も一緒に変えられないかと思ってな。華怜とのデートだって三五の歴史にはないことだったし、ここまでのあいつとの思い出、何もかも生前ワールドではなかったことばかりだろう)
《なるほど、貴家楓の運命変えのどさくさにまぎれて、ミゴッチの運命が変わっているかもしれない可能性か》
(そうだ、俺はそこに賭けてるんだ。三五が発病しないという運命に変わっていることを。だからノッコだって前みたいに避妊しない、子供を産ませてやろうじゃないか)
《ノッコはともかくミゴッチのことは祈るしかないな》
(そういうことだ。ここは、周りのいろんな運命を変えて三五の運命もついでに変えてしまう作戦なんだよ)
《タイムパラドックスを俺の周辺全方位に放つという作戦だな》
(そうだ、だから俺自身の運命も変えたんだ。俺は、もう新聞記者にはならない。作曲家となりデザイナーを目指しているわけだ。そしてリクへの復讐の後に成仏するんでもなく生前ワールドに戻るんでもなく、30をこのワールドで超えてやるのさ)
《なるほどな・・・ここは、うまくいくことを祈ろうじゃないか俺ヨ》
(ああ、今は祈るしかないんだよ)
▽
◆
俺は夕暮れ迫る、そろばん教室の帰り道、ノッコと一緒のところを突然、見知らぬ年上少女から声をかけられた。
「あなたが加羅翔介君?」
姉達が通う清泉女子学院が名門のお嬢様校なら、こちらは進学校として名を馳せる聖母マリア女子中の制服姿だった。共に偏差値は70近い。
初めて見る顔だが、どこか面差しが華怜に似た男子ならだれもが二度見したくなるようなストンと落ちる黒髪がピュアな美少女だ。
「そうですけど」
「ごめんね、突然声をかけて。私は篠崎美弥子、華怜の姉よ」
(やっぱりだ。恐怖の(仮)悪女キャラ)
「こんにちは、華怜ちゃんのお姉さん」
俺は正体を隠すため小学生を装った。
「僕に何か用ですか?」
「妹が学校でお世話になっているという加羅君にお礼が言いたくてね、それで今日はここを通ると華怜から聞いていて、待ってたの --- どうして初対面なのにわかったか不思議そうね、これよ」
この前、仲直りの際に一緒に華怜ママに勧められるままに華怜とならんで一緒に撮った写真だ。
「華怜たら、この写真を部屋に飾っているもんだから、借りてきちゃった」
いたずらっ子のように幼い笑顔を見せる中学生は魅惑的だった。
「そうですか、それでわかったんですね」
どこまでも無邪気に笑ってみせる俺だった。
「それで加羅君、今から少し時間あるかな」
美弥子は俺を近くのファミレスに誘ってきた。
▲ 緊急心内会議 ▼
《これはなんだ?》
(なんだろうな。そろばん教室の帰り道に待ち伏せなんて尋常じゃないぞ、情報源は本当に華怜なのか?)
《どうだろうな・・・それでどうする俺ヨ》
(ここは様子見しかないだろう)
《だな、まずは話を聞こうじゃないか》
▽
「加羅君、いつも妹がお世話になっているんですってね。本当にありがとう」
美弥子はファミレスで向き合うとまた丁寧に頭を下げてきた。オーダーは、「好きな物を」と言われたんで喉の渇きもありドリンクバーからオレンジジュースを二つチョイスしてきた。
「それでわざわざどうかされたんですか、華怜ちゃんのお姉さん」
どこまでもガキを装うのは相手を油断させるためだ。
「あのね、7月20日なんだけど」
「土曜日ですね」
「ええ、その日のお昼間に我家で私の誕生会があるのよ、どうかしら加羅君にも出てもらえないかな」
俺はすかさずスケジュール表を取り出した。
(20日?翌21日はリクの誕生日でデートの約束ありだが、20日なら問題はないはず。東京行は22日の月曜日からだし問題はないな)
美弥子の要請に夕方からはハルカ先生の授業があるが昼間なら問題はないとわかると、俺は頷いた。
「いいですけど、どうして僕を?」
「華怜へのサプライズゲストよ、どうかな?」
「サプライズですか・・・わかりました。そういうことなら喜んで出させてもらいます」
「まぁ、加羅君ってしっかりものなのね。わかっていると思うけど、これはサプライズだから華怜には内緒よ」
「わかりました」
「それからプレゼントなんていらないから気にしないでね。加羅君はゲストなんだから」
「わかりました」
美弥子は、用が済むと、俺への質問を色々してきたが自分の事も話してくる。
「華怜のママは妹のママであっても私の本当のママではないの。だからね、華怜は、凄く私を昔から気にかけてくれるのよ。そこで今回は私が、華怜が喜ぶゲストを密かに招待しようと考えて加羅君をあんなところで待っていたの」
朗らかに笑う姿は美しくどこまでも魅惑的だ。
どうやら美弥子は、俺が、篠崎宅に行った事、華怜ママと話した事などの情報はないようで、華怜とそのママとの二人の会話から俺の存在を割り出し、こんなアプローチをしてきたようだ。
そして、別れ際には俺の手を取ってきた。
「またね、今日は楽しかったわ。翔介って小学生には思えないね」
なんて、長く話し込んだ事で親しくなり、呼び捨てもOKしたのだった。
俺は、「デヘヘ」なんて照れてみせてやった。
(何かある)
俺の勘はそう訴えた。
▲ 心内会議 ▼
《間違いなく何かあるな》
(あるな、それで何があると思うオレよ)
《可能性は二通りだな》
(うん、一つは純粋に妹おもいの良い姉説だな)
《ああ、俺にずいぶん親切にしてくれたな、色気過剰だったが》
(ああ、あのフレンドリーな行動を色気と取るなら本当に過剰だった。もし、本当に11歳の俺だったら・・・)
《のぼせてたな、カレンとは雰囲気の違う美少女だもんな》
(そうだろう11歳の俺よ)
〔デヘヘヘヘヘ、ええの、華怜の姉ちゃん。きれいじゃのぉ~〕
《ダメだこりゃぁ、完全に持っていかれとる》
(これを計算してやったとしたら・・・)
《それが二つめの可能性だ。何かを企んでの色仕掛けということになる》
(さてさて、どっちだろうな。ここは、沙也加さんと相談だな)
《だな》
▽
俺は美弥子と別れてすぐに華怜ママの沙也加さんに連絡をした。
(華怜にはサプライズということで口止めされたが、華怜ママは口止めされていないからな)
したばかりの約束をこうも簡単に破る言い訳を弾き出し、ドキドキ沙也加さんへの初電話をしたのだ。
「えっ、美弥子が翔介君に・・・」
「何かあると思って連絡しました」
「間違いなく20日のお昼にはあの子のお友達、八人を呼んで誕生会をすることになっているけど、翔介君のことは聞いてなかったわ」
「だったら僕は、行かない方がいいですかね」
「いいえ、美弥子はボーイフレンドを三人呼ぶとか言っていたけど、そのうち二人はよく知ってる子よ。でも、あとの一人は内緒なんて言っていたわ。だから、」
「内緒が僕ですね。だったら美弥子さんが言うように僕は華怜さんへのサプライズゲストかもしれませんね」
「どうかしら・・・あの子が華怜に配慮するなんて・・・少し華怜と相談してみるわ。今日は連絡ありがとね加羅君、明日、連絡するわね」
俺は沙也加さんの親しみある最後のトーンに心蕩けさせながら電話を終えたのだった。
(さて美弥子の下調査でもしておくか・・・)
元は新聞記者ならではのその方法にも考えがあったのだった。




