俺の復讐方法
ホッとしたのも束の間、俺は宇津伏リクへのミッションが失敗に終わった事を思い出すと、もうどうにもやるせない気持ちで涙が出てきた。
元のポジション復帰はご破算だし、木村佐和子との愛車RX7での修善寺温泉ドライブ旅行も流れた。
おまけに彼女にミッション失敗を報告しなければならい現実が頭を重くした。
(しかたがない、一報をいれて謝るか・・・その後は、彼女の前から消えよう)
俺は、スィラブの美学を実践することにした。即ち【未練】はなしだ。
女にしたら価値無しが断定した男に情けをかける理由はなくなる。間違っても、
(もしかして、まだ・・・)
なんて幻想は抱いてはならないのがスィラブプレーヤーの掟だ。
女は冷たく冷酷な生き物、敗者に笑顔はない。
それにしても、俺は、宇津伏邸前を逃げ出して実家に向かって走っていた時に、間違いなく出会いがしらでパトカーに跳ね飛ばされたはず。
(どうして痛みがないんだ)
身体検査と木村佐和子への連絡のために俺は起き上がった。
スマホの充電はMAX。
時刻は朝の6時前。
二つの窓を全開。
悪いはずの気分がそう悪くない。
爽快感すらある。
庭からは犬の鳴き声。
昨日の朝となんの変わりもないはずだったが、それが大きな勘違いだとすぐに気がついた。
(あれ~?)
ここは、俺の部屋に間違いないが、昨日までと大きく違っていたのだ。
まずは俺が寝ていたベッドが、ビックリマンシールが懐かしい高校生の時に買い替える前のベッドに変わっていた。
壁の金賞絵画作品の代わりにあるカープカレンダーも背番号18佐々岡真司と背番号7野村謙二郎の二人が4月の表紙であり、そこには『2001年平成13年』とあるじゃないか。
足下には、マンガにゲームそして脱ぎ散らかされた服が散乱していた。
俺は慌てて部屋のドアを開けて洗面台の鏡に自分を映した。
(長ぁ!)
そこには紛れもない見覚えある女のように長い髪の小学生時代の俺の姿があった。
俺は自室に急いで戻り、パンツの中を覗いた。
(小ちゃ!生えてない!?)
この状況を俺は急いで分析した。そして思い出したのだ。
(そうか、俺はパトカーに跳ね飛ばされて意識を失くす直前に祈ったんだった。どうせ死ぬなら転生させてくれって・・・)
そうなのだ、俺は、様々な転生者の顔を思い浮かべ願ったのだ。
「どうせ死ぬんだったらハーレムワールドに転生させてくれ~」
なんてわりと気軽に願った結果が今朝の俺の姿だったが、スマホを持っているとこをみると何か事情がありそうだ。
(ガイド役の神様はどこだ?)
そんな思いが、
「どこですか〜神様~この状況を説明して下さい、お願いしま~す」
小声だがはっきり声にして宙を探し回ったが、何も変化はなく壁に掛かったここだけは変わりない時計の、カチコチカチコチ刻む音だけがした。
ここで俺は一つの考えをはじき出す。
(俺は死んだ。たぶん間違いない。でも今の俺はこの時代にないスマホを持ってここにいる。ここは走馬灯ワールドなんだ)
と。
人は死ぬ間際の刹那に自分の過去を振り返るというではないか。
俺はそれを思い出し、今は走馬灯ワールドの中にいて本当の俺はパトカーに跳ね飛ばされて宙をクルクル超スローで舞っている最中なんだと思った。
(にしても遅くねぇ、この進行速度・・・)
時を刻む音に、外からは犬の吠える声に鳥たちのさえずりまでも聞こえる。
(走馬灯ってこんな感じなのかぁ・・・)
俺はここらへんで、なんとか納得して今の状況を、
“走馬灯ワールド”
と決めつけた。
ここで俺は現状把握に努める。今日は、西暦2001年4月6日の金曜日の朝だ。
(うん?死んでから二週間も経過してるのか・・・)
どうやら壁に貼られた予定表から今日が新学年の始業式らしい。
(今日から俺は、小学三年、いや四年生ということか・・・どうして走馬灯ワールドは四年生から始まるんだ。俺の記憶はもっと小さい時からあるぞ)
などと疑問はあれど、次に手にしていたスマホの確認だ。俺はリダイヤルで電話を掛けると階下の電話が鳴りだした。
(そうだった俺は死ぬ間際に電話したのは3月23日。家にいた父さんに助けを求めたんだ)
電話は使えることがわかったが、Googleは使えるのかと早速画面を開きニュースを確認すると、俺が死んだ3月23日の翌日、24日のニュースがあった。
そこには、宇津伏リクの自宅前での惨劇騒動が報じられていて、俺は、『変質者』とされパトカーに跳ね飛ばされて即死とあった。そして、
『まったく知らない人で、昨日の深夜にも姉が犬の散歩をしているときに近寄ってきたらしいです』
宇津伏リクの弟トオルのコメントはなんとも情ないものだった。
(やっぱり俺は死んだのか)
ショックは変質者にされた事もあり大きかったが、Googleは使えることがわかり、本来の性能は何も損なわれていないことがわかった。
(でも待てよ、走馬灯はただの思い出を振り返るだけのはず。なんで俺は、こんな思い出にない行動が勝手にできるんだ)
この謎を解明するために、俺は行動を始めた。
まずはチートすぎるグッズ、スマホを辞書のハードケースの中に充電器ごと隠して部屋を出て顔を洗い、昔見慣れたよく女に間違われた顔とにらみ合った。
そして着替えだ。
脱ぎ散らかしているやつは論外、クローゼットにあるのも短パンばかりのセンスの悪い服ばかり。しかたがなくタンスの奥からチノパンとポロシャツを取り出し着替え、長い髪は輪ゴムで束ねて階下に降りた。
「どうしたの?こんなに早くそんなよそ行きの格好をして」
朝支度の母さんの驚く声に、父さんまで近くある自民党の総裁選挙の候補者四人が並ぶ紙面から目を外し、驚くような顔で俺を見てきた。
(勝つのは小泉さんだよ)
テレビ番組からはB'zのultra soulが軽快に流れている。
「えっ、ああ、犬の散歩に行ってくる」
俺はたしかに窓を開けた時に庭から犬の鳴き声がしたのを聞き逃さなかった。
(にしても父さんも母さんも若いな。まぁ当たり前かぁ、ここは20年前の世界だもんな)
「どうしたの翔介?犬の散歩なんて」
奇異なものを見るような母さんの目を見て、この時代の俺のポジションを思い出した。
俺は超わがままだった。
孝行息子にはほど遠く、手伝いはギャラが発生しないとしないタイプでそのくせねだるべきは徹底してねだったクセの悪いガキだった。
俺の部屋の溢れんばかりのガラクタがそれを証明している。
「母さん、おはよう。今日から僕は四年生だよ、もう少しで10歳じゃないか、少しばかり成長してみせるさ」
こんな台詞を吐いたのは、当時のあまりにもだらしない生活態度を散らかり放題の部屋を見て思い出したからだ。
俺は、早速、庭に出るとそこにはあのラブラドールの子犬ノッコがピョコピョコしていた。
「ノッコ、ノッコじゃないか、おまえ、もう来てたのか!」
俺を見るなりピョコピョコ飛びつてきた子犬のノッコを俺は強く抱きしめて、
「ごめんな、本当に何も話せなかったし、何もしてやれなくてごめんな、本当におまえに寂しい思いばかりさせてごめんな」
俺の匂い付きのシャツの中で死んでいったノッコに涙して詫びたのだ。
そんな俺の涙をペロペロ舐めて喜ぶノッコと目が合うと記憶が刺激され俺は思い出した。
ノッコが俺の家にやってきたのは、小学四年生になる前の春休み。長姉、寛美の中学入学祝いだった。
肝心の長姉は、ウンチ始末ができない事から次姉も同じ理由で散歩はしなかった。俺だって時々だったし、結局、母さん、ときには父さんの仕事になったのだ。
(これからはノッコの世話は俺の仕事だ!)
この状況だけで、俺はこの走馬灯ワールドに来られた事に満足したが本心は、
(あ~どうせ再現してくれるんなら中学生、それも三年生からがよかったのに)
なんて思ったのだ。
というのも当時、久我里美という初めてカノジョができたとかイベントも多く、誤解から別れてしまった事など含めて、
(もっとうまくできだろうに)
などと以前から女々しく思っていたからだ。
だけど、こうやって我家にやってきたてのノッコと再会できた事に俺は本当に喜んだ。
「さぁノッコ、散歩に行こう」
U^ェ^U サンポ・サンポ・サンポ・サンポ・サンポ・サンポ・サンポ・サンポ
(にしても、俺はどうしてこの時代にいるんだ?)
と改めて思ったのも、
(ノッコの事を後悔していたからか?)
とか自己分析を始めたからだ。
でも俺は、ノッコに引っ張られて自分が死んだ事故現場に差し掛かると、明確にあの木村佐和子データの内容の一部を思い出す。
『宇津伏リクがニューヨークから日本に帰国したのは9歳の小学三年生の時。最初は東京住まいだったけど、四年生になる春には広島に引っ越していた』
(ということは、今日が宇津伏リクの広島デビューということか?)
俺は、跳ね飛ばされた際の鈍い音、「グシャ」を思い出し、どこかうずくような感覚まででてきて、死亡した現場を左折して坂を下り宇津伏リク邸の前に差し掛かった。
あの監視カメラ付きの高い塀はなくキンモクセイの垣根が外からの視線を隠しているが、中の様子はよく見えて、早くも洗濯物を干す母親の姿があった。
俺は、そんな眺めを目にして、あの屈辱的な宇津伏リクからのあつかいと、変質者にされた記事を思い出し怒りが沸き上がってきた。
(くそ!宇津伏リク、おまえには必ず復讐してやる。あいつは俺の仇だあいつは俺の仇だあいつは俺の仇だあいつは俺の仇だあいつは俺の仇だあいつは俺の仇だあいつは俺の仇だあいつは俺の仇だあいつは俺の仇だあいつは俺の仇だあいつは俺の仇だあいつは俺の仇だ)
後々にまで影響してくる事など知らぬまま念じるように復讐を誓ってしまった。
その誓いに応えるように湧き起こってきた自身の呼びかけに従って最初の心内会議を開いた。
▲ 第一回 心内会議 ▼
《復讐の誓いをしっかり聞き届けたぞ俺ヨ!それであいつにはどんな復讐をするんだ?》
(もちろん再起できないぐらいの強烈なやつだ!俺は、宇津伏リクのせいで30前に死んだんだ、ここは鬼復讐でいいだろう。問題は具体案だが、何か妙案はないかオレよ)
《そうだな〜ここはあいつが苦しめられたというイジメに俺も加わって、自殺にでも追い込んでみたらどうだ。スィラブの新作がプレーできなかった恨みは万死に値するからな》
(お~お・・・スィートときめきLOVE社会人編のリターンズがプレーできるのは、このままだと20年後じゃないか、いや待てよ、俺は発売日目前に死ぬんだったな・・・くそ!もしかして生涯新作はプレーできんということじゃないか、自殺なんて手ぬるいぞオレよ)
《そうだな、自殺させたぐらいじゃ木村佐和子との修善寺温泉ドライブ旅行の分までの憎しみは消化できんぞ》
(お~お・・・修善寺温泉旅行に伊豆の海・・・紫のビキニ姿・・・確かに自殺じゃ手ぬるい、もっと残酷な手段が必要だ。でも、待てよ・・・ここ走馬灯ワールドだろう、復讐とかできるのか?同じ人生をただ傍観するだけの可能性だってあるぞ)
《それはないぞ俺ヨ!こうやってノッコと散歩できているじゃないか。このワールドは俺の意思が反映できるんだよ》
(それじゃ走馬灯とは言わんぞ)
《かもしれんが、そこは今どうでもいい。この先、検証していけばこのワールドのしくみは自ずと判明してくるはずさ。それより今はあいつへの復讐方法だろう》
(復讐方法か・・・まずはあいつに絶望感でも与えてやるか)
《絶望したあげくの自殺か、それいいんじゃねぇ。だったら、あいつは俺の記者としての依頼を断っただろう。ならば、記者としてあいつの芸能生命を奪って絶望させてやるてのはどうよ》
(芸能生命を奪うか、でもどうやって奪うんだ?あいつは取材嫌いだしそのプライベートは深く秘められていたじゃないか。どのマスコミも宇津伏リクのプライベートを取材したことはないぞ)
《そんなの簡単じゃないか、超えるんじゃなく内側から破るんだよ》
(内側から?そんなんできるんか?)
《そのために必要となる、あいつを貶めるネタを、これから時間をかけて集めるんだよ》
(なるほど、そういうことか!宇津伏リクと親しくなってそのネタをこれから集めるわけだな)
《そういうことだ。今日この日にオレがここに存在している理由は、あいつの広島デビューデーだからだろう。それは俺に、「復讐をしろ」という意味なんだよ、きっとな》
(なるほど、宇津伏リクは俺の仇ということだな)
《そういうことだ》
(俺のこの時代の存在理由をノッコとの再会だけではなく宇津伏リクへの復讐のためと位置付けるわけだな。それで具体的にはどうするオレよ)
《そうだなぁ~まずは小学校時代の喫煙写真からでも手にいれておくか、飲酒でもいいぞ》
(タバコを右手に左手に缶ビール姿だな。遊びふざけの写真でもネタにはなるし、イメージ阻害には役立つな)
《もっと強烈なのはロリ野郎どもが涙して欲しがるようなあいつのロリエロ画像だろうな。これだと公開されると恥ずかしさから自殺に追い込めるぞ》
(それは嫌だな、俺はロリが大嫌いなんだ)
《バカやろう、俺はあいつに殺されたんだぞ!スィラブに木村佐和子を思い出しただけでも、腸が煮えくり返るぞ、それぐらいしてやらないと気が済まんだろうが》
(それもそうだな。となればあいつと再会する今日は大事な日だな)
《そうだよ、重大なミッションだ!あいつに気にいられかつ仲良くなって、あいつがエロ姿を晒せるぐらい親しくならなければならないということだ》
(小四の俺って・・・たしかぁ~宇津伏リクとは隣の席だったけど、付き合いはさほどなかったよな・・・)
《確かに・・・というよりあいつ、クラスの誰とも親しんでなかったんじゃねぇ、女子たちとも》
(まぁいい、スィラブマスターの俺なら小学生のガキ一人手なずけることなんかちょろいもんだぜ)
《よし、まずはあいつと親しくなって復讐ネタのロリエロ画像集めだ。そしてあいつがパリに移住する13歳までの約四年間であいつがモデルとしてブレークしたとたんに奈落に突き落とせるだけのネタを集めるんだ》
(よっしゃぁ!)
▽
こうして俺の宇津伏リクへの方針、
“復讐してやる!”
がノッコとの最初の散歩の道中に決定した。