黒幕
明日から三学期末のテストが始まろうかという日曜日の朝、リクは俺の部屋でベッドに寝そべりノッコの肉球を嗅いでいる。
「なぁリク、今朝のリクのパンツの色、黒だろう。青い水玉の」
俺はハルカ先生からの宿題をしながらそう問いかけた。
慌ててノッコの足から顔を外したリクは、飛び起きて俺の前だというのに自分のスカートをたくし上げて中を覗いて確認する。
「うん、そうだよ、どうして翔介、知ってるの?今日は私、見せてないよ」
「ああ、見せてもらってないし何回も言ったけど、どんなに可愛いパンツでも、もう絶対に僕にそうやって見せてくれるなよ。それでもどうして僕が、リクのパンツの色を今朝も当てられたのかわかるか?」
「わからないよ、どうして?ノッコに聞いたの」
「ノッコに聞いた?」
「だってノッコすぐに私のスカートの中に顔を入れてくるもん」
「たしかにそうだな。でもノッコから聞いたわけじゃないぞ。リク、おまえのパンツが見えたからだよ、わかるか、見えたんだ。あれほど何回も、いや何十回も注意しただろう、絶対にスカートの中を見せるなと。それともリクは僕の言っていることが理解できないおバカさんなのかい。もう五年生になろうかというのに」
「え~見えたの・・・ごめんなさい」
「いいか、リクの脚は長くてきれいで短いスカートはよく似合うけどな、パンツまで見せたら絶対にダメだ。もし、この先、中を僕に限らず誰かに見られたらおまえとは絶交するからな。この前のように一日じゃなくてもっと長くだ」
「翔介、絶交は嫌だよ。この前の一日絶交したとき私、嫌だった」
「嫌だった?この場合は辛かっただろう」
「辛かったです」
「辛かったなら、スカートの中を誰にも見られるな、いいな」
「ノッコも?」
「ノッコもだ。どうしてだかわかるか」
「ノッコが翔介に教えるから?」
「違うな。ノッコがリクのスカートの中に顔を入れる時に他所に見えるからだ。今朝だって僕がリクのパンツの色を知っていたのは、ノッコがリクのスカートの中に顔を入れた時に見えたからだ。ということは、他所からも見えるということだろう。わかった?」
「うん、わかった、気をつけるね」
「わかればいいけど、それでリクさん、今朝はどうしてブラジャーをしてないんだ」
「えっ・・・だって、今日はお休みだし・・・ブラジャーきついし・・・」
「きついのか・・・でもなリク、もしノッコがきつがるからといって首輪を取って自由にしてやったらどうなると思う?」
「ノッコの首輪を取ると・・・喜んで走り回るよ。公園で翔介がしてるじゃない」
「その通りだ。もし公園でない場所でノッコの首輪を外したらどうなる?」
「う~ん車とぶつかるかも・・・」
「だな、危険なんだよ。だから普段はいつもノッコには首輪をして広い所でしか、それも僕がいる所じゃないと首輪は外さないんだ。それと同じでリクがブラジャーを外すと危険なんだ」
「危険?車」
「違うよ、エッチな男子やおじさんたちがリクのおっぱいを見たり触ったりしようと近づいてくるからなんだ。そいつらは車よりも危険なんだ」
「でもね、クラスの皆はブラジャーなんかしてる子はいないよ。六年生ぐらいからするんだって」
「だな、でもリクはその素敵で高い身長と同じで皆より成長が早いから、もうしないといけないんだよ。生理だって他の子はまだだけど、リクはもう初まっているだろう。リクはうちの舟入の爺ちゃんも勘違いしたように、中学生それも三年生ぐらいに見えるし、高校生でも通るかもしれないんだ。だから、ノッコの首輪と同じで我慢してブラジャーをしないといけないんだ」
「うん、わかった。でもノッコは、自宅や公園で翔介が一緒の時は首輪を外して自由に走り回ってるよ。だったら私も翔介と一緒で翔介のお部屋だったらブラジャーしなくてもいいよね」
「そんなにきついのかブラジャーって」
「うん、きつくて動きにくいの」
「慣れの問題だろうと思うが・・・そうか、わかった僕と一緒でこの部屋に限り、慣れるまではしなくてもいいけど、どこかへ出かける時はしてもらうからな。だからちゃんと持ってくるんだぞ、わかったな」
「うん、わかった」
リクの完成形の身体を俺は知っている。
(木村佐和子データより)
身長/180㎝・バスト/86㎝・ウエスト/62㎝・ヒップ/88㎝・カップサイズ/C・靴のサイズ/25,5㎝・股下/93㎝の51,6%
いわゆる9頭身というやつだ。
現在は10歳だが身長は既に165㎝はあるし、胸の膨らみも十分にある。
「いいかリク、パンツを見られるとかおっぱいを覗かれるとか、女の嗜みがないとエッチじゃない人からは嫌われるんだからな」
「翔介はエッチじゃないの?」
「僕は・・・」
返答に詰まる俺。
スィラブプレーヤーは例外なく皆エッチ。いや、男は皆エッチ。リクにエッチな目を向けられないのは、趣味の問題。
「僕は、リクにはエッチじゃないぞ、だからリクを守れるんだ。わかったな、今日の約束を絶対に守れよ」
俺は、リクの小指と強引に結び指切りをした。
◆
「舟入の爺ちゃん」俺の父方の祖父だ。
広島市内西区観音町に本社がある父さんが社長を務める商品加工会社、㈱KARAの会長だ。
本社と天満川を隔ててある舟入町に住んでいることから「舟入りの爺ちゃん」となるわけだ。
高校時代のカノジョ川村美穂と爺ちゃんちの近くのラブホテルに入るのを目撃され、後日、「ホテル代の足しにしなさい」と言って万札握らせてくれた話のわかる陽気な爺さんだ。
今では会社は父さん任せで朝からゴルフ三昧の日々を過ごしている。
その爺ちゃんに呼ばれて姉さんたちと正月にリクを連れて顔を出した際も、「年上のカノジョを作ったのか」えらくリクの事を褒められて、姉たちには5千円しかなかったお年玉を、俺にはこっそり1万円くれたし、リクにも5千円くれた気前のいい爺さんだ。
その爺さんの口利きで家賃を安くしてもらったハルカ先生の新居が決まった。
これまでどおり我家からそう距離はなく気軽に通えるが、前とは違い、アストラムラインの駅にも近く、大学に通いやすくなった五階建ての賃貸マンション永見ビルの五階だ。
大学までの交通費に3LDKと広くなったマンションの礼金・敷金・家賃などの必要経費は全部、俺が獲得した示談金から賄われた。
コンビニのバイトはやめてもいいように俺たち三姉弟の家庭教師代だけで生活できる金額を支払うことになった。
家財道具も新調され洗濯機も乾燥機付きが手配された。これでずぼらなハルカ先生も人らしい生活を営んでくれるはずだ。
「お母さんから聞いたよ、全部、翔介君の計らいなんだってね、ありがとうね翔介君」
「それで、ハルカ先生、僕のお願いの件について考えてくれた?その返事を聞きたくて今日は来たんだ」
俺はハルカ先生の新居を訪れていたが、油断大敵、もう部屋が散らかり始めている事から、台所の片づけをしながらの話となる。
ここ永見ビルは時代の先取りペットOK物件ということもあり足元にはノッコがいる
「もちろん翔介君の代理人になる話はいいけど、具体的には何をするのかな」
「ハルカ先生、そこにある封筒の中にあるUSBメモリをパソコンで開いて僕の演奏した曲を聴いてよ。一緒に入っている楽譜を見ながらね」
「えっ、翔介君の演奏?あ~ピアノね。昨年のコンクール私も見に行ったけどすごく素敵な演奏だったよ。全国大会に出られなかったのは残念だったね」
「ああ、その話はもういいよ、それより早く聴いてみてよ」
しばらくすると買ったばかりのパソコンに接続したスピーカーから俺のチートなオリジナル曲が流れ始める。
♪~
聞き惚れるハルカ先生とノッコ。いつの間にか俺の足元からハルカ先生に寄り添っている。
U^ェ^U ♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~
「なんて素敵な曲なの。どの曲も音楽はよくわからないけど完成度が高くて、いろんな曲調があっていいじゃない。もしかして?この楽譜からすると翔介君のオリジナルばかりなのね」
「そうだよ、全部僕のオリジナルなんだ」
(チートな半分ウソです)
「翔介君の飛びぬけた頭脳は勉学方面だけじゃなくて、音楽の方面にもあったのね」
「そういうことです。そこで先生には、今、聴いてもらった音源と楽譜をここに送ってもらいたいんです」
俺は国内最大大手のレコード会社ヴィクセンの住所のメモを渡した。
生前ワールドならYouTubeにUPする方法でもいいかもしれないが、この時代のYouTubeはまだまだ発展途上の段階で売り込みには使いものにならない。
「それぐらいお安い御用よ、でもそれぐらい翔介君にもできるよね」
「差出人の名前はハルカ先生にして住所はここにしてください。そして連絡先のメアドと電話番号もハルカ先生の携帯でお願いします」
「どういうこと?」
「それが代理人ということですよ」
「そういうことか」
「そういうことです。先生にはわからないでしょうが、その楽譜からの曲は凄い曲ばかりなんです。レコード会社が有望な歌手に歌わせたいようなものばかりなんです。先生が手にしている楽譜には歌詞も付いていますからね。そこで僕はその楽譜を売ることで発生する権利金の交渉を含んだ諸々の交渉をハルカ先生にお願したいんです。もちろんギャラは支払いますよ。僕が得る金銭の10%は先生の取り分です。かなりの金額になるはずです」
「私にできるかな・・・」
ここで迷うハルカ先生の為に俺は、この先のプランをハルカ目線で語ってきかせた。
「先生が地元の塩釜に戻ったからといって開業資金はどうするんですか?県や市を当てにしているんだったら、開業は難しいでしょう。それに奨学金の返済はどうするんです。いくら国立の医学部とはいえ、かなりの金額になるはずですが、返せますか?返すとなると卒業後に医者としてどこかに勤務しないとなりませんよ。かなりの年数になって、いつになったら島に戻れるんでしょうね。いいですか僕のプランでは・・・」
説得時間はそんなにかからなかった。
「わかったわ、コンビニのアルバイトのことを思えば代理人として動くことなんか大変じゃないわよ、是非やらせてもらうね。となると翔介君の部屋があの六畳間になるわけね。一番隅の部屋だし音も気にしなくていいわけだ」
「そういうことです。事務所だと考えてください。電子ピアノとか僕用のパソコンとか楽譜の送受信用のFAXだとか色々買いそろえていきます。もちろん普段はハルカ先生も使ってもらって構いませんが散らかさないでくださいよ。それに先生が今いる、そこ一応リビングですから。そのために応接用のソファまであるわけで、普段は勉強スペースとして使ってもいいですけど来客時には立ち退いてもらいますからね。それからハルカ先生名義の僕専用の銀行口座を開設してもらいます」
「うん、わかった、翔介君のお手伝いを恩返しだと思ってしっかりやらせてもらうね。でも、どうして翔介君のお母さんに頼めば代理人なんてやってくれるでしょう?」
「ハルカ先生の子供が、もし僕だったらどう思う。自慢それとも怖い?」
「えっ、どういう意味?」
「うちの母さんは、ギリギリのところで戦ってくれているんですよ。ハルカ先生とは付き合いがまだ浅いから、僕のことを知らないでしょうけど、昨年の今頃の僕は普通のそこらへんにいる少年だったんですよ」
「うそ、翔介君は、突然変異なの?」
「まぁ、そういった感じで、母さんは誰にも相談できずに新しくなった僕と向き合ってくれているんです。そんなところに今度は音楽的才能なんか見せつけたら、健全な精神状態を維持できるかなんてわかったもんじゃない」
「なるほどね、翔介君はお母さんから不気味がられるのが怖いんだ。その気持ちわかるよ、私がそうだったから」
「えっ、先生も?」
「うん、私は島で生まれ育った漁師の娘なのに、勉強が飛びぬけてできてたのね。だからガリ子なんて呼ばれて周りの子とかに相手にしてもらえなかったし、本ばかり読んでいる私を両親も怖がっていたのよね。もちろん表面上は優しかったけど」
「味方はいなかったの」
「いたよ、お爺ちゃんとお婆ちゃんだけはいつも私の味方でね、なけなしのお金を出してくれて大学に進学させてくれたのよね」
「その爺ちゃんと婆ちゃんのためにも早く医者として島に戻らないと」
「そうね、グズグズしている暇はないわね。とにかく出来ることはなんでもするからね」
こうして下北ハルカの名前で無事に俺のオリジナル曲は大手レコード会社ヴィクセンの、この時代まだ無名だった名プロデューサー後町健司宛に無事に送られたのだった。
◆
3月1日には、博子姉は無事に小学校を卒業した。
入試に合格して寛美姉の通う私立の中高一貫のノートルダム清泉女学院中等部に通うことになる。
二人とも制服に目がくらんで清泉中を選んだ事を俺は知っていた。
卒業生に俺を暴行した連中の名前が欠けていたのは言うまでもなく、後日、形式的に卒業させてもらった元々イジメっ子として悪評高かった六人組の未来は暗い。
俺の事件をきっかけにこれまで口を噤んできた連中が、「私もイジメられた」「僕も理由もなく突然殴られた」「私も脅かされて下敷きを取られた」「僕もランドセルを三階から投げ落とされた」と次々に証言を始め、それが新たに新聞沙汰にもなり近所に知れ渡ったせいで、引っ越していくやつもいるというし、父親の職場で不都合に働いたケースもあるという。
なかでも示談をまとめあげた市議会議員の間宮さんの息子は豪林と並んでリーダー格であったのも知れ渡り、選挙区内での不祥事という事もあり暗い影を落とした。
この六人組が俺を襲った理由は、彼らのお姫様、宮郷愛莉と俺が家に通うほどの仲であるという事と、もう一つは、リクにあった。
リクもまた評判高い存在だったようで、俺は六人組にしたらアイドルともいうべき二人を手中にしているように見えたのだろう。
俺は、たしかにリクとは仲がいいし、音楽部の部長で学校のアイドル宮郷さんとも仲はよかった。
リクとはいつも一緒だし、宮郷さんは放課後音楽室で歌の伴奏を依頼され、博子姉からも頼まれた事から引き受けていた。
ところが、彼女は本気で歌手になるという夢があるらしく、この年の一昨年に開校したばかりの、あのアフターズスクール広島のオーディションが近々あるらしく休日にまで、「私の家でも伴奏をお願い」と協力を求めてきたのだ。
これも博子姉の頼みもあって引き受けたが、ここからが肝心、この話を俺がしたのはリクだけなのだ。
博子姉と宮郷さんにはこの件を、人気者と仲良くする妬みを恐れて口外するのを固く禁じたにも関わらず六人組の耳に俺の宮郷邸訪問のスケジュールが入って俺を襲ってきたのだ。
(いったい誰が奴らに情報を漏らした?)
ここが問題になってきたのだ。
俺は、リクには、
「ノッコを連れて六年生の宮郷さんちにピアノを弾きに行くけど一緒にくるか?」
本当はついて来られると邪魔だったけど、いつもの通り誘いはかけた。
でもリクは、宮郷さんに配慮してではなく、もちろん俺の思惑を察したわけでもなく、俺の部屋でピアノの練習をしたいとの思いからノッコと待つという選択を下した。
おかげで俺は、久々に愛車を出動させて軽快に下り坂を飛ばして宮郷宅まで行ったのだ。
この了承を俺は、それがリクの決定事項と都合よく決めつけ、あと二回も、「ちょっこらピアノ弾きに行ってくるわ」気軽に言って宮郷邸に通っている。
リクは雄弁ではない。俺以外とは、今でも自分から話しかけることはまずない。
ただその性質から、聞かれた事には素直に答えるという特性を持っているから、リクは、誰かに俺の行動を問われ素直に答えたとしかあの六人組に情報が漏れた理由を思いつかない。
まさか、リクの口から俺が宮郷宅に通っている情報が漏れるとは思わず、油断して口止めしなかったのだ。
▲ 心内会議 ▼
《俺のせいだな》
(ああ、リクに口止めしなかったのは、あいつに口止めの理由を説明する煩わしさもあったからな)
《愛莉を人気者として特別視するような理由をあいつには言いたくなかっただけだろう》
(ああ、宮郷愛莉は人気者だから俺と二人で歌の練習することは黙ってろ、なんてリクには言えなかったんだ。リクは妙なとこで引っ掛けてくるからな。人気者と二人で仲良く過ごすリスクを語るとなると宮郷愛莉をこの俺までも実は特別視してるんじゃないかと絶対に勘繰ってくるんだ。そしてたぶん付いてきただろう)
《だな、そうなれば愛莉に申しわけが立たなかった。あそこまで打ち込めたのは恥を俺にだけは晒す覚悟あればこそだ》
(そうなんだよなぁ〜リクはそんな微妙な感情のあやをわかってくれないから、俺と宮郷愛莉は特別な関係だとか絶対勘繰ってきたよなぁ)
《だな、するとあいつのことだ、妙な空気を流して愛莉の邪魔をしてあそこまでの完成度には至らなかっただろう》
(ああ俺と宮郷愛莉、あの時は二人してトランス状態だったからな。正直リクについてこられたら邪魔だった)
《まったくだ、隠し事をしないウソをつかないは時として不便な縛りだよな》
(だからこその方便なんて言葉だろう)
《なぁ俺ヨ、あいつの口止めをしなかったのはミスとしても、あいつがベラベラと俺情報を誰彼無しに流すか?》
(リクの特性を考えろよ)
《そうか・・・あの素直さ・・あいつは誘導尋問にすぐに引っかかるな》
(ああ、あの素直さがデメリットになるケースだ。その辺も嗜みに続いて教育しないとならないな)
《いや、そこはほっとこうぜ。オレ、あの素直さ好きだな》
(オレがそれでいいなら俺もOKだ。それでリクの話では、宮郷宅を俺があの日の15時に訪れるという話をしたのは長谷部響華と篠崎華怜の二人だけらしいぞ)
《ということは、だな》
(ああ、あの二人のどちらかが六年男子に俺情報を漏らしたことになる)
《もう、わかってるだろうに》
(ああ)
《まずはオキョンだが、そもそも六年生男子と付き合いはあるのか?登校班に六年生がいるけど女子だし、そんなに仲良くはしていない。それに彼女はどちらかといえば無口なたちだ。ベラベラオレ情報を喋るなんて想像はできないな》
(うん、その通りだ。だったらやっぱり・・・)
《カレンだろうな。登校班に六年生男子いるし、それも、》
(ああリーダー格の豪林顕太朗が篠崎の家の近所だ。あいつら近所の幼馴染で仲いいからな)
《なんで仲がいいことを俺は知ってるんだ?》
(ホレ、おバカな10歳の俺が、篠崎と馴れ馴れしくしていた上級生を覚えていたというわけだ)
《そうだったな嫉妬してたんだよな、あのバカ、上級生男子に》
[なんだと、僕がどうしたって]
(ごめんごめん、おバカな俺よ、なんでもないぞ ーーー ということで、篠崎ルートでの情報漏洩が最も可能性が高いわけだが・・・)
《どうしてだ?どうしてカレンは、俺が襲われるような情報を豪林顕太朗に吹き込んだんだ》
(動機がわからん。もしかして俺、篠崎に嫌われてる?)
[そがぁなことあるか、僕が篠崎さんに嫌われるわけがなかろうが]
(うるさいぞ、10歳の俺よ。篠崎に嫌わる理由ならあるじゃないか、三年の時と違って四年生になってからはリクのことばかりにかまけて篠崎との付き合いが稀薄になってるだろう)
[そうなったんは、おまえのせいじゃろう。あんなデカ女ばかりかまいやがって]
(こいつ俺のことをおまえ呼ばわりしやがったぞオレよ)
《ほっとけガキは。それよりカレンは、どうして俺を六人組に襲わせたんだ?謎だ・・・》
(うん、謎だ。ただの嫉妬からの俺への逆恨みかもな。なんせ篠崎のやつリクのことでは随分と暗躍していたようじゃないか)
《そうだったな。調べてビックリ驚きの事実だった。カレンがリクイジメの元凶だったなんて》
(だからといって、俺が襲われるようなことまで篠崎が仕掛けてくるか?)
《確かに動機が嫉妬からの逆恨みなんて少し考えにくいな、最近は、暗躍するのをやめてあいつと仲良くしてくれてもいたし》
(確かに、以前の篠崎ならまだしも、まさか豪林と近所で仲がいいからといって俺を襲わせるような策を弄するとは考えにくいな)
《ここは直接本人と向き合ってみたらどうだ俺ヨ》
(そうだなぁ・・・)
《そうしてみろよ、そういえば久しくカレンとは面と向き合って話をしてないだろう》
(言われてみればそうだな、まずはそこからだな)
《そこから、そこから》
▽
俺は、あの事件から、学校にはたまにしか行かなかなかった。精神的ダメージを受けたか弱い少年、被害者Aをまだ演じていたからだ。
実際問題、俺は六人のジャリ達に自転車走行中に突然前を妨げられ囲まれても恐怖心は全くなかった。
なんせ中身は30歳の俺なのだ。腕力もあり喧嘩勝負だってしようと思えばできたし、チャリで逃走もできた。
六人組がいくら威勢を張って俺を威嚇してきても笑いが出るほど幼く呆れるばかりだったのだ。
それこそ田んぼのあぜ道を通って、山裾の人気のない所に連れていかれるまでに、
「助けて!強盗だ」
住宅地を通過中に叫べば、どうにでもなったのに、俺はそうしなかったのは、六人に囲まれた瞬間にハルカ基金獲得プランが頭に浮かんだからだ。
(天罰!この悪童たちから金を巻き上げてやるか)
この悪ガキ達のあまりに高い悪評判を知る俺は、そんな考えに至り、二〜三発殴られて示談金を巻き上げる策にでた。
ところが六人組、愛莉とは色が違う人気者の姉、博子に配慮か遠慮かは知らないが俺へのリンチなんて考えていなかったのだ。
ただの脅しで俺に土下座でもさせて、宮郷愛莉から手を引かせようと考えただけらしく、
「われ下級生のくせに愛莉ちゃんと仲良うするなんて生意気なんじゃ」
「そうじゃ、そうじゃ、馴れ馴れしんじゃ。家にまで行くなんて」
むなぐらを掴むが、その程度の事を言って脅かすばかり。
(このままじゃ、一銭の稼ぎにもならん)
との思いから、
・「おまえらバカだろう。バカだな。愛莉がおまえらのことなんか相手するはずないじゃん」
・「鏡見て言えよ。おまえらがそもそも愛莉から相手にされるツラじゃないだろう、このバカが」
・「おまえのテストの点しってるぞ。赤点専門らしいじゃん。愛莉に相手してもらうなんて無理だろう」
・「臭っ!おまえ臭っ臭~っそんなんで愛莉に近寄るなよ、愛莉に伝染するじゃないか」
馴れ馴れしく“愛莉”呼ばわりして罵詈雑言の限りを尽くしたところ、俺の頬と腹にやっと貧弱パンチがやってきた。
俺はここでよろめき、万が一に備えて石を手にした。
いざとなれば石をこぶし代わりに殴り倒してチャリで脱出つもりだったが、大人の俺は別の企みを同時に思いつく。
「加羅!いい気になるなよ」
うずくまってみせた俺に集団による蹴りあげのリンチが始まる中で俺はそれでも立ち上がって、また罵詈雑言。
「おまえらクソだな。下級生を寄って多寡って暴行して、これ犯罪だぞ。まぁおまえらの頭じゃ、そんなこともわからんのだろうけど。これでおまえらの先はないぞ、このバカが!」
「加羅、おまえなんか死ね!」
ここで必殺のショボショボパンチがきたところで俺は石積みで作られた用水路に頭をぶつけたふりをするため手にしていた石を激しく用水路の石垣に叩きつけた。
ガン!
鈍い音と同時に俺はよろめきながら、「うっ~~~」苦しみの声を大げさにあげ、優しく石垣に変な角度で頭をもたれかけた。
日暮れ時を過ぎていたからこそできた死んだふりだ。
「おい加羅、起きろよ」
演技で白目をむいた俺に六人組は寄ってきたが、どこまでも俺は死んだふりをする。
「こいつ死んだんじゃなぃ」
焦りだす六人。ここでナイスタイミングな助けがやってくる。自分の田んぼでの騒動を聞きつけたオヤジが、
「ほいで何をしとんのじゃ!」
叫びながら懐中電灯を手にやってきたのだ。
俺を放置して一目散に逃げだした六人組。俺はオヤジに助け起こされても、死んだふり。すぐに警察と救急車が呼ばれ救急病院に直行だった。
ちょうどよく頭に傷を負って信憑性もあった事で俺は気を失ったままを演じ続けた。
ただ小便だけは我慢できなくなり、治療と検査が終わってナースさんが部屋を出た一瞬をとらえトイレに駆け込んだ。
そして家族が来るまで寝る事にしたのだった。
学校に行かなくなった俺を自宅に訪ねてくるものは多かった。
リクは当たり前として、毎日、帰宅途中にわざわざ遠回りしてやってくる響華を始め、肇も毎日来るし、律義にも勇や栄太までやってくる。
でも、華怜だけはやってこない。
(おかしいなぁ〜)
そこで、俺はリクを使って実験をしてみる事にした。
「なぁリク、」
◆
私は、とんでもない大きな間違いをしたみたいなの・・・
(どうして翔介君が襲われないといけなかったの。それも幼馴染のケンちゃんが犯人だなんて)
私、宇津伏さんから、翔介君が日曜日の3時からあの六年生の宮郷さんの家にまたピアノを弾きに行くことを聞き出してしまって、それを私はケンちゃんに、
「加羅君が宮郷さんの家にまた行くんよ、宮郷さんに言ってやめさせてよ」
そう親しくお願いしたの。
だって、ケンちゃんは、
「わしのぉ宮郷さんのことが、ええ思っとるんじゃ」「手紙渡そう思うんよ、どげに書けばええかのう」「この前、一緒に帰ったんじゃ」
そんな事をいつも楽しそうに登校中に私に話していたから協力してくれると思ったの。
それなのに・・・
翔介君を宇津伏さんなんかより人気高い宮郷さんに取られないように、しっかり言ってくれるのかと思えば、翔介君を襲うなんてバカなことして最低!
それもいつもの仲間を集めて襲うなんて・・・本当にバカよ!
私は、宇津伏さんの翔介君への馴れ馴れしい態度は嫌いだけど負ける気は全くしていなかった。
でも、六年生の宮郷さんはニコプチ読者モデルの常連だし、地元のテレビ局の歌番組に出演したりして目立っているし、人気もあって油断できない子なのよ。
私でも、
(もしかして負けるかもしれない)
なんて思ってしまって、ケンちゃんに頑張ってもらおうと思ったのに・・・
ごめんね翔介君。
私は、決めたの。
(まずは今回のことを正直に言って謝って、許してもらった後に、この私が、お詫びに翔介君のカノジョになってあげよう)
なんてだ。
翔介君はオキョンとは釣り合わないし、もちろん宇津伏さんにも似合わない。
(似合うのは私だけ!)
四年生になって翔介君となんだか仲が悪くなってしまった原因もやっとわかったんだ。
てっきり宇津伏さんが転校してきたからなんて思っていたけど、一生懸命考えてみれば私のせいだったんだ。
三年生の三学期、私が、登校中にケンちゃんと仲良くしているところを翔介君に見られてしまったからなの。
あの時の翔介君は、手を振る私が見えてなかったのか走って行ってしまったけど、本当は見えていて悲しかったんだとやっと気がついたの。
ケンちゃんに宮郷さんの家に行くのを教えてしまったのを謝って私の気持ちを伝えようと放課後、翔介君の家に行ったけど、
「具合があんまりよくないの、ごめんなさいね」
お母さんに謝られてしまった。
しかたがないと思って帰るためにバス停に向かっていると宇津伏さんが翔介君が一番大事だといつも言っていた犬を連れて家から出てきたのを私は見てしまった。
(宇津伏リク、やっぱりあんたは嫌い、邪魔よ)
外人みたいに図々しい態度から翔介君が迷惑しているのも気がつかないデカ女。
最近、私が親切にしてやっているからといっていい気になっているジャンボ女。
(あいつなんとかしないと目障りよ)
翌日も休みの翔介君の席を休憩時間に訪ねて行って、その隣の目障りリクに私は、声をかけた。
「リクちゃん、翔介君、自宅で何をしているの?元気?私、とても心配なの。うなされたりしてない。傷痛むのかな。ピアノは弾けるの」
『悲嘆』なんて言葉、あんた知らないでしょう。私は、翔介君の事が心配でたまらないのよ。
「華怜ちゃん心配しないで、翔介は元気だよ」
「本当に元気なの、外には出られないの?」
「大丈夫だよ、今日は昼から正伝寺とかいうお寺のクロガネモチを写生に行くんだって」
「本当、よかった。正伝寺に行くんだ。リクちゃんも行くの?」
「私は、場所知らないから・・・」
この口軽ジャンボ、翔介君の情報をまた教えてくれた。
(よし!お詫びを込めて、やっぱりこの私が翔介君のカノジョになってあげよう。それで喜んでもらって全てを許してもらおう)
私は、翔介君にお詫びを言って、カノジョになってあげる事を伝える為に家からそう遠くない正伝寺に放課後、急いで自転車で向かいました。
「やぁ、篠崎さん」
翔介君は、正伝寺境内にあるクロガネモチの大きな木を愛犬と一緒に見上げて写生をしていました。
「体は大丈夫なの、翔介君。どうしてこんな所にいるの、ここは学区も違うし、翔介君の家からは遠いのに」
(あっ目が合った。久しぶりだな、こうやって二人きりで話すの)
「篠崎さんこそ、どうしてここに?」
「私は、この辺は近所だし、よくここへは来るの」
「へぇ~そうなんだ。てっきりリクから聞き出して、ここへ来たのかと思ったよ。あいつ誘導尋問にすぐに引っかかるだろう。素直すぎるんだよな」
(ゆうどうじんもん?)
「うん、本当はリクちゃんから聞いたの、今日、翔介君がここにいるって、それで今日は話があってここに来たの。昨日も翔介君の家に行ったんだ」
「そうなんだ、それはどうも。それでさぁ、僕も篠崎さんに話があって実はここで待ってたんだ」
「待っていてくれたの?」
「ああ、どうしても聞きたいことがあってさぁ」
「聞きたいこと?」
「うん、もうだいぶ前の話になるけど、篠崎さんは、どうして僕が宮郷さんの家に行くことを、近所に住んでる豪林だっけ、あのバカに教えたの?そのせいで僕はあいつらに襲われたんだけど」
「えっ、あっ、私、教えてないよ」
(しまった、どうしてウソをつくの!私のバカ)
「どうしてウソをつくの、僕が宮郷さんの所に行ったことを知っているのは、姉さんと宮郷さんとリクの三人だけだよ。姉さんと宮郷さんには、硬く口留めしたし、リクのあの性格、きみが今日ここに来たように誘導尋問じゃないと、まず自らは口を開かないよ。聞けば、きみはオキョンちゃんと一緒の時に僕のことをうまくリクから聞き出したようだね。僕のスケジュールとか、いろいろを、今日ここにきみがいるように」
(きみって何?よそよそしくない・・・翔介君は何がいいたいの?)
「僕が何を言いたいかわからない顔だね」
私は小さく頷いた。
「僕が言いたいのは、簡単なことだよ。篠崎さんはクズ女だということさ。いいかい、僕を襲った六人組は、示談金として1千万以上の金を支払ったんだぞ」
(クズ女?)
「1千万円以上だ。篠崎さんの知り合いの豪林の親は借金をしてまで支払ったんだ。そして引っ越していくらしいじゃないか。間宮と御木本は受験勉強のすえにせっかく合格していた難関中学校から入学を拒否られて、大泣きしたそうじゃないか。どれもこれも篠崎さんのせいだろう」
(え~ナニコレ?)
「・・・違うもん。私、知らないもん」
「リクのことを陰で悪く言って、うちのクラスの坂之下さんをけしかけてイジメさせたのも、篠崎さんなんだってね」
(あれは宇津伏さんが翔介君に迷惑を顧みずにまとわりつくからじゃない。それを気付かせたかっただけなのに)
「驚いたよ、篠崎さんがそんな悪巧みをするような子だったとは・・・」
(悪巧み?)
「それから栗林正義にも、篠崎さんがいい顔して近づいてリクのことをないことばかり吹き込んでイジメさせたんだってね。僕さぁ、全部調べて知ってるんだ篠崎さんのこと」
(何を言っているの?私は優しい翔介君が宇津伏さんのことを迷惑がっていると思って、遠ざけてあげようと思って・・・)
「なぁ、篠崎さん、リクは僕にとってとても大事な子なんだ」
(えっ?大事な子、それって好きってこと・・・まさかぁ・・・ウソだ!!)
「もし篠崎さんが今後もリクに何か悪さしたら今度は僕がきみを潰すからね。あの六人組のように」
(潰すってナニ?)
「翔介君、どうして・・・私、今日は謝りに来たのに・・・」
「きみが謝るだって、もういいよ篠崎さん。その泣いたふり、僕には通用しないよ。今日、篠崎さんにわざわざここに来てもらったのは、はっきり言っておきたいことがあったからだ」
(私だってそうよ、ちゃんと謝って、はっきりカノジョになってあげるって言いたかったのに・・・)
「この先、リクのことで何かあったら全部、篠崎さんのせいだと思って、潰すからね。これまでみたいに陰で悪巧みしないでね」
「潰すって・・・」
「そうだな、さしずめ、まっぱにしてグランド一周ってとこかな。篠崎さんは、僕の大事なリクをイジメた嫌なやつだからそれぐらいが妥当かな。わかったならもうリクと僕の視界に入るなよ。オキョンちゃんにも僕から言っておくから、彼女にも近づくなよ」
「どうして、どうして、どうして、うちはただ翔介君の為を思って・・・それに謝りたかったのに」
私は、泣きながら逃げ出していた。この悪魔のような事を次から次へと吐く男子から。
◆
俺は、正伝寺で絵画教室の課題の写生に取り組んでいると、案の定、篠崎華怜がやってきた。
思惑通りだ。
当初は、優しく諭し、罪を認めさせ、今後とも仲良くしていくつもりだった。
が、篠崎と目が合うと、記憶が刺激されて何もかも思い出してしまった。消された記憶が何もかも蘇ってきたのだ。
それこそ、俺は、記者魂から調べ上げリクのイジメの陰で暗躍する黒幕、篠崎を以前から知っていた。
だが、それも俺への想いの強さからくるものと可哀そうになり無視して放置していたし、
(そのうち、話をしよう)
なんて10歳のおバカな俺に配慮してやっていたが、俺の蘇った記憶には忌まわしい事件まであったのだ。
この女、六年になって俺の友達のスポーツ少年、轟肇とつき合うようになって、あのシャイな男を自殺未遂にまで追い込んだのだ。
それこそ最初はサッカーの広島選抜ジュニアチームのレギュラーに選ばれた肇に自分から猛アタックしてつき合いはじめたのに、同じチームの年上の中学生と知り合うとさっさと乗り換えてしまったのだ。
シャイで純粋な肇は、初めてできたカノジョを取られた事で堕ち込み踏切自殺を試みる事になる。
間一髪、自転車は大破したが勇気ある留学生によって救われた事件は大騒ぎになった。
肇は、「自殺なんかじゃないよ。練習で疲れてボッーとしとっただけじゃ」なんて言うが、わかったもんじゃない。
(あの悪魔、放置できない)
瞬時に俺は蘇った記憶から、この篠崎を危険人物と見極め排除する事にした結果が、「俺の視界に入るな」だったのだ。
篠崎の動きに牽制をかけるため学校に戻った俺は、学年末テストもオール100点で終えて春休みを迎えるのだった。
だが、俺は五年生になってこの篠崎華怜に頭を下げる事になろうとは、この時には当然、予想もしていなかった。




