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望月。

 望月。


 九月も半ば、宰相の中将は宿直の最中に月が天空にかかる空を眺め物思いに耽る瑠璃の中将を見かけ、声をかけようかとしたが思いとどまった。

 そのあまりにも優美な物腰に気後れしたのもあったが、それにも増してその姿に女性を見るような美しさを感じ、ああ、この珠玉を手に入れる事が出来れば、と、そう懸想するに至り、その想いを募らせて。


 出会う前は自分に勝る者など考えられず、噂で聞き及ぶ左大臣家の子息が出来がいいだの見目麗しいだのというのもそこまで信じて居なかった。

 しかし。

 初めて彼の君を見かけた時、まだ少将になったばかりの彼の心は激しい動悸に見舞われた。

 その美しさ。

 その優雅な様。

 あどけない、そのほおと瞳。

 口唇の形迄素晴らしく、好みであったのだ。


 そして。


 兎にも角にも、近しくなろうと。

 瑠璃の少将が宿直であれば一緒に宿直し、宴があれば合奏し、歌会に至っては連歌を謳う。

 そうしていつしか瑠璃の少将の唯一の親友の座に収まった。


 そこまでは……。よかったのだ。


 自分は男色家では無いと思ってきた。ずっと普通に女性が良いと。今でも瑠璃の中将以外に心が揺れる者がいるわけでは無く、女御らと浮名を流す方が楽しいとは思っている。

 だから。


 これはきっと何かの気の迷いだ、と。

 きっとまばゆい珠のような美しさと噂される瑠璃姫を想っているのだ、と。


 瑠璃姫の面影を中将に見ているのだと。


 そう心に言い聞かせ。


 手が届きそうで届く事のない望月を諦めようと心に決めたのだった。




 ☆☆☆



 気持ちの良い風にあたりながら観る満月は格別だ。


 そうは思いながらも、こうして宮中にいると悲しくなる。


 自分がこんな成りをして普通でない様子が本当は辛いのだ。


 梅壺の女御の艶姿を眺め、着飾った女性達を見送ると、もしかしたら自分がもし普通に育っていたらあっち側だったのか?

 そうも考えてしまうのだ。


 だけれど。


 こうなってしまった事は後悔しては居ても、自由に生きる事ができたことに関しては満足している。


 やはり自分にはああした姫の生活は無理だよな、そうも思うのだ。


 そうして物憂げに月を眺めながらも、姫、瑠璃姫だけはちゃんと姫としての人生を送らせてあげたいな、そんな事も考えてた。


 本当はあたしがもっとあの子の事を考えてあげなきゃいけなかったかな。そうも思う。



 瑠璃姫が吉野に発ったと知ったのは、もう3日も過ぎた後だった。


 彼女がそんなに悩んでると知っていれば、もっとなんとか出来たのでは、そう悔やんで。



 帝が東宮、朱雀院の女一ノ宮の為に瑠璃姫を宮中に、と、そうお考えなのも聞こえてくる。


 まあ女東宮の為の内侍であればそうそう帝に言い寄られる事もないかもだし、あたしも目にかけることが出来るから、あの子のためにも良いんじゃないかってそうも思ってたんだけど。


 そう勧めようと思ってたところでの吉野行き。


 うーん。


 鄙びた吉野で気を落として無ければいいんだけど。心配、だ。

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