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10分で胸キュン恋愛短編集

このバカップル、イライラする。あー!イライラする!!

作者: ニコ・タケナカ

(フッ、こんなものだろう)

僕は返ってきた期末テストを目の前にして満足していた。

得意とする理科、数学は100点だったし、苦手とする国語も90点を取れた。


国語は苦手だ。漢字やことわざなど丸暗記すれば済む問題はいい。だが、文章問題には手こずる。例えば『次の文章で主人公はどう考えていたのか答えなさい』という類の質問だ。

心情なんてその人にしか分からないものなのに、なぜ僕に主人公の考えなど分かろうか?逆になぜそんな質問をするのか先生に聞きたいくらいだ。


しかし、テストなのだし文章の前後からある程度の推察をして回答すれば、そこまで的外れな答えにはならない。

今回はそうやって導き出した答えに、丸ではなく三角が付けられていた。しかも赤ペンで「もっと人の気持ちを考えましょう」と添えられて。

なぜだ?

なぜ先生に主人公の気持ちの合否を判断できる?繰り返すが、心情なんてその人にしか分からないものなのに!


(まあ、いいさ。大学は理系を目指すのだから)

答えのハッキリしない国語と違って、数学はいい。公式に当てはめればおのずと決まった答が導き出せる。そこが理路整然としていて美しい。

勉強の出来ないヤツほど文系を選択するが、僕にはそちらの方が理解できない。ハッキリしないものを勉強したところで答えなど導き出せないのだからイライラする。


オール100点とはいかなかったが、全て90点以上だったから、これで学年トップは確実だろう。

このままトップの座を守り続けるのが僕の高校生活の目標だ。



教室でミスした箇所の復習をしていると、後ろからバカっぽい男女の会話が聞こえてきた。

(どこか他でやってくれ・・・・・・)

テストから解放され浮かれたクラスメイト達はほとんど帰ってしまった。だから静かに勉強できると思っていたのに、これでは集中できない。


「ねえ、国語のテストどうだった?」

「ギリ、赤点」

(ダメだろ!それにギリの使い方がおかしい!)

聞こえてくる会話に、僕は思わずツッコミを入れていた。

確か彼はスポーツ推薦で高校入学し、バスケ部に入っていたはずだ。練習で疲れているのか、よく授業中に居眠りをしていて先生に怒られている。

そんなだから成績も悪くて当然だ。


「ダメじゃん!私もさぁ、ギリギリ赤点回避できたんだけど、88点だった」

(それはギリギリとは言わない)

ちょっと自慢げに話す彼女は学年での成績が、確か中の下くらいだったはずだ。きっとそこそこ良かった国語の点を見せびらかしているのだろう。


「十分じゃないか。オレのテストの合計点より高いぞ」

(終わってるな・・・・・・)

「あと少しで90点に届いたんだけどなー。たぶん先生、間違えてバツにしてると思うんだよねぇ」

(よく言える)

そういう事を言っていいのは、僕くらい勉強をしている生徒だけだ。


「二階から目薬とは、どういう意味でしょう。っていう問題あったでしょ?なんて書いた?」

「めっちゃ、コントロールいい」

(ブッ!!)

僕は予想外の珍回答に吹き出しそうになり、咳払いをしてごまかした。

「ゴホッ、ゴホッ!・・・・・・うっ、んっんん!」


「フフフッ、バカじゃないの?」

バカというより、もうある意味天才的かもしれない。僕には到底答える事の出来ない類の回答例だ。

「じゃあ正解はなんなんだよ」

彼女が自慢げに答える。

「できもしない事の例え」

(お前もバカだ!!)


正しくは、物事が思うようにいかず、もどかしいさま。 また、回りくどくて効果が得られないことのたとえを2階から目薬という。

(否定しといて間違えるな!一番恥ずかしいパターンだからな、それ!!)

聞いているこちらが逆に恥ずかしくなってくる。


「マジか!初めて知ったわぁ」

彼が感心したように言う。

(ブッ!!)

僕はまたも吹き出しそうになったのを堪え、眼鏡を外してレンズを磨くフリをしてごまかした。

(ことわざ問題なんてお前達の為にあるサービス問題だぞ?いったいどこで点数稼ぐって言うんだ?教えてくれ!)


「後で先生に文句言ってこよ。お詫びのおまけで100点にならないかな?」

(やめとけ。恥をかくだけだぞ・・・・・・おまけで100点?なんでそんな発想が生まれる)

バカな奴ほど自分は正しいと思い込んでいるものだ。ちょっと間違えた個所を復習すれば、その間違いに気付けるはずなのに。

それに、同意を求めたいのか自分では調べもしないで、周りに確認しようとする。それではいつまでたっても自分の知識として身につかないだろう。


「お前、国語だけは得意だよな」

「だけはってなによ!」

「なら試してみるか?計算問題な。12×3+55は?」

(小学生か!問題が幼稚!出題にも頭の程度が現れるのか)


「そんなの急に言われても出来るわけないじゃん」

彼女は考える様子もなく、すぐに投げ出した。

(最初から投げ出すな!これだからバカは・・・・・・答えは91)

「ブー、時間切れ。答えは沢山でしたー」

(フッ、フフフッ。いた、いた。小学生の頃、そんな引っ掛けだしてくる奴)

彼の小バカにする態度にイラッとする。


「ずるーい!じゃあ、私も!22×12-130は?」

何を張り合っているのか、彼女の方も知能の低い問題を出してきた。

(計算出来ないだろうって、適当に数字を並べて・・・・・・)

下らないやり取りが続くのかと思ったが、彼の方は自信たっぷりに即答した。

「134!」

「は?適当なこと言ってるでしょ?」

こんな事にテストの復習をする時間を無駄にしたくない。しかし、僕も答えが気になり頭の中で暗算した。

(22かける・・・・・・134。合ってる!?)

彼女も携帯を取り出し計算しだした。

「合ってる!?」


驚く彼女に彼が答えた。

「オレ、バスケやってるから計算得意だし」

「バスケがなんで計算と関係あるのよ」

それは僕も気になる。

「だって、残り時間何秒で得点差はいくつだから、10秒に一回スリーポイント決めれば勝てるとか、逆に何回シュートを打たれなければ逃げ切れるとか試合中に計算してるからな」

納得できなくもないが、理由が脳筋っぽい。


「ふーん、」

(お前も”やるじゃん”みたいな雰囲気出すな!)

彼女から発せられる乙女オーラを背中にひしひしと感じる。


「ねぇ・・・・・・補修あるんでしょ?」

「あーぁ、そうなんだよなぁ。バスケ部、補修があるとその間、練習に参加禁止なんだよ。マジでウザい。せっかくテストも終わって思いっきりバスケ出来るのに」

「ならさぁ・・・・・・うちに来て一緒に勉強しない?」

(オイ、オイ、オイ!恋の実技試験、おっぱじめる気か!?)


彼がすっとぼけた感じに聞く。

「なんで?」

「なんでって・・・・・・夏休みが始まるからうちの両親、私に留守番させて旅行に行くって言ってるんだよね・・・・・・だからさ、その」

(これだからバカは・・・・・・下半身に回った血液、少しは頭に回せ)

「なに?家に1人なの?」

「うん・・・・・・あはは。ほんと、勝手だよねー、子供置いて旅行に行くとか。まあ、私も夏休みゆっくりできるし?空いた時間でアンタの勉強見てあげてもいいっていうか・・・・・・ね」

(どうだかな。本当は家に1人でいられる様に仕組んだんじゃないのか?勉強なんてする気ないだろ)

このままだと彼はバスケどころではない。恋にうつつを抜かして留年もありうる。


しかし、彼からは意外な答えが返ってきた。

「ならさ、図書室で一緒に勉強しようぜ」

「は?」

(は!?)

僕は驚いた。てっきりバカみたいにホイホイ彼女の家に転がり込むものと思っていたのだ。

これだから人の心なんて知りようもない。


彼女が驚いて聞く。

「なんで?」

(そうだ。なんでだよ)

こんな恋の方程式、心情を捉える事に疎い僕でも解けるサービス問題だ。


「だって、図書室ってクーラーガンガンに効いてて涼しいじゃん」

(バカだコイツ)

僕は呆れた。彼は本当のバカだ。


「いや、そうだけど・・・・・・そうじゃないっていうか、」

「ん?どういうこと?」

「だから・・・・・・その、」

「なんだよ。ハッキリしないな」

「うん・・・・・・なんで図書室なの?私のうちじゃ嫌?」

「嫌じゃないけど・・・・・・図書室だと誰かいてくれるから、気が緩まないし・・・・・・っていうか、二人きりだとその・・・・・・」

「え?今なんて?」

(イライラする。あー!イライラする!!お前ら早く付き合え!このお似合いのバカップルが!!)


二人は急に黙ってしまった。

僕は二人の邪魔にならないよう静かに教室を出た。

(今、この状況が二階から目薬って言うんだよっ!!覚えとけ!)

頭では悪態をついていたが、心は晴れやかだった。そっと教室を出た僕の行動は完全に二人の心境を読めていた。この行動は満点回答に違いない。

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