オススメのアイテム
「何かお探しでしょうか」
振り向くと、先日フロイトの服とその他諸々を買った時に対応してくれた恰幅のよい店員だった。
相変わらず樽のような腹を器用に折り曲げて、狭い通路をするするとこちらに歩いてくる。何かを探している雰囲気を察知されたようだ。
「すいません、肉とかを入れておける容器を探しているんですが」
「かしこまりました。具体的な使用用途を伺ってもよいですか?」
「実は狼をテイムしまして」
そう言って右手に持っていた首輪を掲げてみせる。
「先日お見かけしたゴブリンさんに続いて狼ですか。優れたテイム技術をお持ちなんですね」
「いえ、自分なんてまだまだですよ。それで、宿では狼達の食事を確保できないらしくて、ギルドの解体場でホーンボアのモツを貰ってくるための容器を探しているんです」
出来れば金属製で、洗う手間がそれほどかからない形状かつ蓋付きであること、ある程度大きくても聖人の腰袋で運べる点などを伝えた。
「ふむ、ご予算はいかほどでしょうか?」
「うーん、あまり考えていませんね。良いものならば多少値が張っても大丈夫ですよ」
いくら値が張るといっても所詮は大型の鍋くらいの値段に収まるだろう。
「そうですね……お見せしたいものがあるのでついてきていただいても?」
「あ、はい。分かりました」
促されてついていくと、鍋などの調理器具や壺のような保存容器の間を通りすぎた。おそらく俺の求めるものはあの辺りにあったと思うんだが、どこに向かっているんだろう?
そのままてくてくと小鴨のように後に続く。カウンターも通りすぎて、バックヤードに通されてしまった。
こういうところは大口の取引や高価な商品の売買に使われるもののはずだが、いったいこのおじさんは何を買わせるつもりだ?
「ご紹介したいのはこちらでございます」
それは横倒しになった冷蔵庫のような見た目だった。外観は青の混ざった白で金属製の箱型。天板のような板が扉になっている。形式としてはチェストフリーザーによく似た形だ。
「これは?」
「白銅にフロストタイガーの骨を極少量混ぜ込んで作られた保冷の魔道具ですよ」
「げぇ、魔道具!?」
思わず触ろうとした手を引いて後ずさった。
この世界の詐欺師の三種の神器がある。
貴族の証書、贋金、魔道具である。
全て価値が変動するものかつ、迂闊に偽物だと騒いで本物だった場合、おっかない権威に睨まれるものだ。
具体的には貴族、国家、そして魔道ギルドである。
この3つのどれかに目をつけられた場合、素早くその国から逃げおおせなければ人生が詰む。
特に魔道具は、原則として魔道ギルドしか販売を許されていない物であり、いかに中古品でも本物にろくに動かない偽物だといちゃもんをつけてしまえば、懲罰部隊すら送り込まれかねない。あとめちゃくちゃ高い。
その恐ろしき魔道具が目の前にある。庶民向けの商店にまで流れてくるようなものなら目玉が飛び出るほど高くはないと見たが、それでも鍋を買いにきた客に勧めるものではない。
「おや、どうされました?」
「い、いや、いきなり魔道具が出てくるとは思わなくて」
「ああ、そういえばお客様は商会のご子息でしたな。価値もお分かりになると」
「あれ、自分そんなこと言いましたっけ」
「商人にとって腕と耳は生命線ですからね」
ここまで会話が進んで自分の出自についての話題が出た時点でようやく、この店員の腹の内が読めてきた。
事前情報として俺がグレイ商会の3男坊だという事実を掴んでいて、もしまた入店することがあれば多少高価なものでも買わせられると踏んでいたんだろう。
「あの、俺が欲しいのは保存用の容器でしてですね、保冷の魔道具は無用の長物といいますか、牛刀で鶏を捌くようなものだと思うんですが」
「いえいえ、これはお客様の目的に合わせたものですよ」
そういうと店員はこの商品を紹介した意図を説明し始めた。




