宿酔の朝
宿が静かなのは快眠できる反面、起きるきっかけがないことを意味する。
宿に帰った後、フロイトをベッドに叩き込み少しだけ狼の様子を見た後、体も洗わず服だけを脱いでベッドに倒れこんだ俺は、少し寝坊気味の時間に目を覚ました。
現在は1階の酒場スペースに降りてきているが、あまり飲まなかった俺はともかく、フロイトは大分辛そうだ。
「大丈夫か?」
「アルジドノ、オレハココデシヌノデスカ……」
「安心しろ、二日酔いで死んだやつはおらん」
「コノジゴクハイツマデ……」
「とりあえず水飲んで寝てろ、昼には体調も戻るだろ」
「スミマセン……」
俺は普通に日替わりを、フロイトはたっぷりの水と塩分補給としてスープを飲ませた後、部屋に戻るように指示する。
出来れば体も洗ってほしかったが、まだ行水は馴染みのない習慣だろうし、体調が悪いのに無理矢理やらせて苦手意識が出来ても困る。
昨日宴会の中盤に話した今日の予定は、午前中は二日酔の為使い物にならないであろうロベルトさんとフロイトを宿に押し込んで、午前中に各々の用事を済ます。
その後は冒険者ギルドでおちあってその後の流れを決める事にしてある。
俺の午前の予定は、狼達関連で埋まっている。先ずはとにもかくにも食糧の確保だ。
昨日は定食3人前くらいの金額を払って狼達に肉を食べさせてもらうようお願いしていたが、馬屋の世話人はかなり怖い思いをしたようだ。
いくらテイムされていると分かっていても、元野生の狼と一緒の部屋に入るのはかなり度胸がいるだろう。
狼達もまだ人間自体を警戒しているのか、吠えはしないがかなり脚に力が入っていたようで、いつ飛びかかられるか恐々としたようだ。
「おーい、昨日は眠れたかー?」
裏手の厩舎にある、狼達用に借り受けてあるスペースに入る。2頭は身を寄せあうように丸まっていたが、俺が入ってくると同時にこちらに寄ってきて体を擦り付けてくる。
「元気そうで何よりだな」
「ウォフ」
「よーしよしよし」
とりあえずスキンシップとして撫でまくる。
2頭とも全く見知らぬ場所に連れてこられて不安だったろうが、とりあえずこちらを信頼してくれているのは嬉しく思う。
それが使役術の影響だったとしても、拠り所があるのは精神衛生上良いことだ。
「そういえば名前を決めたんだ」
ずっと狼達と呼ぶわけにもいかないので、この場で教えておこう。
使役術の影響で、人の言葉をある程度理解できるこの子達ならば、教える意味もあるはずだ。
「お前達の名前はオスの方をカイ、メスの方をリクとする」
「ウォン!」
「よろしくな」
以前ソフィアさんとも話した前世の神話からとるというアイディアは非常に良かったが、如何せんこの世界には転生者がいる。
スコルとハティとか、ゲリとフレーキとかの神話に出てくる狼や犬の名前を付けると、なんとなく気恥ずかしい。
夜営中の警邏を任せるので前世の軍の3区分、陸海空から2文字を貰うことにした。
「よし、じゃあとりあえず解体場に行ってモツを‥‥いや、入れ物が無いな」
早速ホーンボアのモツを貰いに行こうと思ったが、保管するための容器を持っていないことに気付いた。
出来れば長く使い続けるためにも、金属製の蓋付鍋のようなものがあるといい。まずは買い物だな。
狼達を連れて街を歩く。
俺の左右を少し遅れてついてくるカイとリクは、周りに人が少ないこともあって不安よりも好奇心が勝るのか、しきりに辺りを嗅ぎ回っている。
目的地のオリバー雑貨店は相も変わらず盛況で、数名いる店員が慌ただしく店内を見回っている。
狼達を店の前に待たせて店内に入る。
昨日門番の憲兵さんに言われた通り、首輪かなにかで飼い犬もとい飼い狼であると示さないと、まるで店の前で屯する野良犬のように見えてしまう。
犬用の首輪は、ベルトなどの革製品がおいてある区画で手にすることが出来た。街のなかで犬を飼う理由は殆どが番犬としてなので首輪も大型の物がスタンダードだ。
愛玩用の小型犬は富裕層のものであり、こういう庶民向けの商店にはそれ用の首輪は置いていない。
『かわいい』だけで犬を飼えるのは、経済的に余裕のある証拠である。
次に欲しいものは、狼達の食糧確保のための保存容器だ。金物のコーナーにあるだろうかと周りを見回しながら歩いていると、店員に声を掛けられた。




