東方の味
とりあえず、エールで口を潤してから料理に取りかかる。大皿に盛られた料理を手持ちの木皿に取り分けていく方式は、ここいらでは見かけないスタイルだ。
メニューの中華っぽさも相まって、前世の中華街を思い出す。そういえばどことなく装飾も、飾り鋲や窓の装飾などが中華っぽい。
どこかで中国文化を持ち込んだ転生者がいたのかもしれない。
とりあえずは冷めないうちに炒め物から頂こう。各皿に付いている大きな匙で炒め物をより分けてみると、肉や野菜が油を纏ってきらりと輝いて見えた。
食欲を抑えきれず、急いで口に運べば強烈な塩気と脂の旨味、食べ慣れぬ香辛料の風味が渾然一体となって押し寄せてきた。
辛みはそれほどでもないが、スパイスの刺激と材料の旨味が上手にマッチしていて酒が進む味だ。エールで口のなかを流し、さてもう一口と皿に手を伸ばしたところでフロイトが食べていないことに気が付いた。
「どうしたフロイト。食べないのか?」
「イエ、アノ‥‥」
「さっき話して思ったが、こいつは徹底的にお前の配下としてやっていこうと思ってるようだぞ。主として仰いでいる人のメシを横から奪えねぇってことだろうよ。あんまり理解は出来ねぇが」
そう言うとロベルトさんはフロイトの木皿を掴み、炒め物をドカンと山盛りによそった。
「遠慮する気持ちも分かるが、この店は大皿から取り分ける形式だからな。次からは自分でよそえよぉ、足りなくなったらまた頼むからそんなに心配すんな」
「ハイ、アリガトウゴザイマス」
ロベルトさんに助けられてしまったが、この忠義というか遠慮がちとでも言えるフロイトの性格は日常生活で多少矯正できるといいとは思っている。
勝ったものに敬意を払うゴブリンの性質と使役術の効力、更には元来の性格も関わっているようだが、あまり遠慮されても支障が出ては意味がない。まぁ急がずやっていこう。
ロベルトさんによそってもらった炒め物とエールで幸せになっているフロイトを横目に、今度は饅頭を食べてみる。
ダンジョンに出現する魔物、ダガーラビットの肉を使った饅頭は皮が薄く、イメージ的には饅頭というよりも小籠包の方が近かった。
一口サイズだが、たぶん中がめちゃくちゃ熱いのでスプーンで食べる場合は注意しないと……
「あっふぁ!?」
「あ、ソフィアさん!? エールで熱さを和らげてください!」
気を付けようと思った矢先、ソフィアさんが熱々肉汁トラップに掛かっていた。
小ぶりなサイズ感なので、一口でつるりと口に入れたんだろうけど、中で皮を破った瞬間に熱々のスープが弾けたみたいだ。
「あ、あついのね。熱湯をかけられたみたいだったわ」
「蒸し料理は総じて中の方が熱いですよ」
「気を付けるわ……」
「火傷しませんでしたか?」
「多分大丈夫だけど……これはもう少し冷めてからいただくわね」
どうやら火傷は免れたソフィアさんだったが、多少饅頭に苦手意識が出来てしまったようだ。エールをちびちびと飲んで口を冷やしている。
俺も頂いてみたが、確かにスープが熱い。
肉汁に香味野菜の旨味が溶け込んで非常に美味しいけれど、とにかく熱い。正直、前世の中華街で食べたものよりも上に感じるが、それは料理人の腕だろう。
それからも優しい味のスープに癒されたり、フロイトがどんどんとエールを奢ってもらったりしていると、先ほど頼んだ鶏の丸焼きが運ばれてきた。
「おまたせしましたー! 丸鶏のパリパリ焼きです!」
彼女の持つお盆には、鶏の他にも刻んだ野菜や黒っぽいソース、それにケバブに使うピタパンのような物が一緒に乗せられている。今更だがあんなに持って重くないのだろうか。
「ありがとうよ、んで、これはどう食うんだい?」
「はい! モモの部分はそのまま切り取って食べてください! 他の部位はそれぞれ皮は薄く切り取って、身の部分は好みの大きさに解してから薄パンに野菜とソースと一緒に巻いて食べます!」
聞いているだけでも美味しそうだが、ロベルトさんが早速解体に移る。滅多にないがこういう祝いの料理は、目上の者が取り分ける決まりだ。
冒険者なので解体は慣れたものなのか、あっという間にモモ肉が外されてしまった。そのまま俺とフロイトの皿に下ろされた。
「いいんでしょうか、2本しかないモモの部位をもらってしまって」
「おう、おっさんはもうモモの油がキツくてな。ソフィアもどちらかといえば、油が少ない方が好みだったよな?」
「ええ、こちらは気にしないで食べて。あなた達の方が小さいんだから、しっかり食べないとダメよ」
何だかパーティ結成が決まってから、距離が近くなったというか弟のように扱われている気がする。
モモ肉に齧り付きながら、そんなことを思った。
その後も宴会のように酒と料理に舌鼓をうち、夜がふけていった。
店を出る頃には呑みすぎでフラフラになったフロイトに肩を貸し、明日の昼頃ギルドでの待ち合わせを決めてそれぞれの宿へと戻った。




