お薦めの店
「どうやら無事に手続きできたみたいね」
「流石に割符を渡してお金を受け取るだけなので、失敗のしようがないですよ」
そう気軽にソフィアさんと会話する横で、少し居心地が悪そうに話しかけて来るロベルトさんの姿があった。
「よう、坊っちゃん。改めて昨日ぶりだな」
「はい、あの時は話しかけてくれてありがとうございました。あれのお陰で肩の力が抜けました」
「いやいや、こっちこそ助かったわ」
「えっと‥‥?」
お礼を言われる意味が分からず戸惑っていると、ソフィアさんを横目でチラリと見て顔を寄せてきた。そのまま耳元で囁かれる。
「さっきも言ったがよ、ソフィアの相手をしてくれてありがとうよ。二日酔いで潰れたまま放置していたら今頃どんな目にあってたか分かんねぇ」
「そんなにですか?」
「ああ、アイツは怒ると母ちゃんそっくりになるんだよ。そこは受け継がなくてよかったのによ」
「聞こえてるわよー」
耳元で、囁くような声で話していたのにも関わらず、3歩ほど離れたソフィアさんにそう言われ、ロベルトさんの肩が跳ねた。
「せっかく仲良くなった男の子に有ること無いこと吹き込むなんて、悪い父親ね」
ソフィアさんの声や語り口はとても優しく、あくまで父親に対する親愛を感じさせるものだが、顔に絶対零度の微笑を張り付けている。これはけっこう怒っているやつだ。
「坊っちゃん腹減らねぇか? そうかそうか腹ペコか。それならいい店を知ってるから連れていってやろう。安心しろおっさんの奢りだから。さぁいこういこう!」
過去の経験からか、それとも冒険者の勘働きかは分からないが、ソフィアさんの声が聞こえてきた時点でこの場からの撤退を決めたようで、俺の肩を叩くとそのまま足早に歩きだしてしまった。
「まったく。旗色が悪くなるとすぐに逃げの一手なんだから」
「まぁまぁ、それよりも着いてきましょうよ。見失うと面倒ですよ」
西日が延びはじめ、だんだんと夜の帳の影がちらつく時間帯。街は仕事帰りの人々で混み始めていた。
音に聞こえた王都の人津波ほどではないが、ともすれば先を行く大きい背中を見失いかねないとフロイトを連れソフィアさんと3人、足早にロベルトさんを追いかけた。
たどり着いた店はあまりここいらでは見かけない建築様式で、飾り鋲が打たれた柱はどことなくエキゾチックな雰囲気すら感じる。
名物とおぼしき料理の絵が書かれた看板には店名が書かれているようだが、達筆すぎて逆に読めない。
「いらっしゃいませー!」
ロベルトさんに遅れること数歩、扉を通った俺たちを出迎えたのは嗅いでいるだけで腹が減るいい匂いと威勢のいい挨拶、それに賑わっている店内の喧騒だった。
「おう、こっちだ」
最初こそソフィアさんの顔色を窺っていたロベルトさんだったが、機嫌が直っているのを見てそそくさと空いているテーブルを確保した。俺の母にも男衆は頭が上がらなかったように、何だかんだと家庭内の地位は女が高いのかも知れない。
「ようこそ、東方飯店『龍ノ舌』へ! ご注文はお決まりですか?」
「とりあえず酒を4杯と、適当にツマミになるようなのを何品か頼む」
「かしこまりましたー!」
東方の民族衣裳とおぼしき服装に身を包んだ店員の女の子が注文をとって店の奥に消えていく。
店構えと同様にここいらでは見かけない上下一体型の衣服を着て、襷で振れる袖を纏めている姿は快活で、店の活気を表しているように感じる。
「ああいう子が好みなの?」
「いや好みって……どう見ても手伝いの子供じゃないですか。頑張ってるなって見てただけですよ」
「まぁ流石に幼すぎるわよね。まぁ……そういう嗜好の知り合いもいるけど」
「それは犯罪なのでは?」
元気に働く10歳くらいの女の子に邪な目を向けた疑惑を振り払いながら、そんな話をする。
この世界の常識、というか大体の宗教では男女問わず子供は守るべき存在である。
労働は許容されるが、アレな意味で手を出せばとんでもない罰を食らう。バレれば捕まって神前裁判にかけられ、権力を使って逃げ切れば神罰が下る。
ある日突然行方不明の領主の部屋に塩の柱が出来上がる事件があり、その領主の日記から『お楽しみ中に頭に変な声が』といった内容が発見され、人には言えない趣味を持つ貴族達を震え上がらせた。
なお、歴史や文化は鑑みられており、男児が10歳で結婚する文化がある地域や、歴史的に早婚な歴史を持つ国家などではこの神罰は確認されておらず、違う地域でも『純愛ならセーフ』という神託が下った例もある。
余談だがその地域で信仰されている風の神は幼い女神を口説き落として妻にしたことで有名である。
ちょっと加筆しました。
ロベルトさんとの挨拶が1回目とも受け取れてしまうので、会話文を修正しました。文章の内容に変化はありません。




