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「ソフィアさん、これからなんですけど一緒にご飯食べませんか? 今日のお礼も兼ねて奢らせてください」
もう少し気の効いた誘い文句を引っ張り出せれば良かったのにと言ってから少し恥じたが、ともあれ女性を食事に誘うというハードミッションをこなした自分を内心誉めながら、ソフィアさんの返事を待つ。
「城門を通った時にもそんな話をしたし構わないけれど、やっぱり父さんも同席することになるわよ? 2人ともお店知らないでしょう?」
「あ、それは大丈夫です。これからのことも話したいですし」
「あら、親への挨拶はまだ早いんじゃないかしら」
そうこちらに話をふる彼女の目には、嗜虐的な色が宿っていた。
「い、いや、これからのって言うのはパーティに関しての話で‥‥」
「ふふ、知ってる」
「この手の話は本当に慣れてないんです。勘弁して貰えませんか」
「私もあんまり意地悪するつもりはないんだけれど、反応がいちいち大きくて楽しくなっちゃって。ごめんなさいね?」
そんな風に揶揄われながらギルドに戻る。
正直に言えば、街の中を何度も往復するのは手間に感じてしまうが、これには冒険者と依頼主との顔繋ぎの意味もあるのだろう。
例えばだが、薬師からの薬草採取依頼を数多くこなせば指名依頼を受けることも出来るかもしれない。
またそこで顔を売れば、横の繋がりがある他の業者にも認知されて仕事がしやすくなるだろう。
情報商社もネットもないこの世界では、縁故や顔繋ぎの信用がかなり重い。
外様の冒険者がこの街に馴染んでいくためにも、依頼はこまめに受けておいた方が得策かもしれない。
ソフィアさんと取り留めもない話をしながらギルドに戻ると、中には仕事終わりの冒険者の姿が増えていた。
「じゃあ報酬を受け取ってくるので、ロベルトさんに確認を取って貰ってもいいですか?」
「ええ、でも私が付いていかなくても平気かしら」
「先ほどやらかしたばかりで信用は無いかもしれませんが、流石に大丈夫です」
「じゃあお願いするわね」
そう言い残すといたずらっ子のような笑みを浮かべてソフィアさんは父のいるテーブルに向かっていった。
冷静に考えると、ロベルトさんは朝から晩までギルドの酒場スペースに居座っていたことになり、客としてはかなり迷惑な部類のように思える。
俺は俺で依頼の完了を報告するためギルドの受付に向かった。
先ほどはスムーズに出来た受付の処理も、人が増えた今では数人の列が作られていた。
「はい、割符を確認しました。これで依頼は完了となります」
「ありがとうございました」
ギルドに報告するとはいっても、割符を渡して依頼料を受け取るだけなので手間もなくあっという間に終わる。
この割符は本当に良く出来たシステムで、依頼主はギルドに成功報酬を事前に納め、代わりに割符を受け取る。
冒険者は依頼を受けて、達成して初めて割符を受け取ることができギルドで依頼料を手にできる。
例え冒険者が依頼に失敗しても、ギルドには違約金の支払義務はなく、また依頼主側が依頼料を出し渋ろうとも割符があれば、事前に預けた依頼料から払われる。
このシステムの最も優れた点は、何をどう頑張ってもギルドは取りっぱぐれる可能性が無いことだ。
事前に預けた依頼料に手数料が含まれる以上、もし冒険者とのトラブルで依頼を取り下げる場合でも、手数料は帰ってこない。
なので基本的には依頼を取り下げる人は少ない。塩漬けの依頼になろうとも、いつかは達成されるかもしれないのだから。
ギルドも信用問題に発展する為あまり古い依頼を放置はしないので、それとなくできそうな冒険者に振られ、依頼は達成される。
そんな自らが損をしないようなシステムを組めれば、実家の商会もさらに発展するのかと夢想していると、ロベルトさんと話が付いたソフィアさんがこちらに向かってきているのが見えた。




