砥石納品 2
「どうでしょうか」
「ふぅむ、こいつぁ‥‥」
グロウさんの岩を撫でる指先が止まる。
近くで表面を凝視したり、手触りを確認する様はまさしく職人といった風体で、砥石の品質を見極めようとする様は渋くてかっこ良く見えた。
「誤解しとるかもしれんが、使えるかどうかはパッと見じゃ分からんぞ」
「へ?」
どういうことだろう?
「まず、この石の質はまず間違いなく欲していた砥石の質のものだ。よく選別できてるな」
「あ、はい。それは選んできましたんで」
「次に大きさだが、これくらいの大きさならば円砥石にも加工できるだろう。まぁ、仕上げ砥の円砥石は需要ないがな」
「質も大きさも問題ないなら、何が分からないんですか?」
質も大きさも問題ないならば、それは依頼品の質も判断できるのではと思ったが、なにが分からないんだろう。そう聞こうとすると、グロウさんは先手を打ってこちらの疑問に答えてくれた。
「分からねぇのは中の目だ。俺は石屋じゃねぇから石目を表面から読むなんて技術は無ぇしな」
「えっと、じゃあ納品は使えるかどうか分かってからになるんでしょうか?」
「いやいや、そんなわけねぇだろ。お前さんだって槍を使っていないのに、金を払って買っていくだろう?」
グロウさんの主張、というか常識的にはこの手の冒険者への納品依頼では、依頼物が持ち込まれた時点で依頼主が物の良し悪しを判断しなければならない。
例えば薬草類の納品でも、実際に効果があるか判別できるのは薬品に加工した後だが、薬師は薬草のままの状態で薬効の有無や、採取後の状態を鑑みて冒険者に依頼料を払う。
翻って今回の場合、依頼された砥石の納品は質と大きさに問題はなく、中の石目を読めないのは依頼主側の問題なので、この場で依頼は達成されたと判断される。
「それにしても、砥石ってこうやって確保するものなんですね」
「この街にも石工屋はいるが、砥石の加工はともかく販売はしてくれねぇからな。大口の商人から買うか、冒険者ギルドに原石の採取依頼を出すしかねぇんだ」
「それで今回の依頼を出したんですね」
「荒砥は買った物でもいいが、仕上げ砥は刃の切れ味に直結するからな。俺はずっとここいらの森から取れた砥石を使っているから変えたくなかったのさ」
そう言って出した砥石の原石を端に寄せていくグロウさんだったが、ふと一昨日見た弟子っぽいテンパってた息子さんの姿が見えないことに気付く。
「そういえば、息子さんは何処かに出掛けてるんですか?」
「あいつなら奥にいるぞ。この前の遣り取りで少し慣れたと思った接客がガタガタなのが分かったからな。ちょっと時間をやることにした」
「それは‥‥すいません」
「謝る必要はねぇよ。まぁ本人も落ち込んでたが、これも経験だ。一人前になる頃にはこなせるようになるさ」
客対応は難しい。商会長の息子としては恥ずかしい限りだが、俺自身あまり得意ではない。一通りの礼儀作法は納めたが、1人で接客を任されたらどんなミスをするか怖いくらいだ。
彼の場合、俺のような若い奴で失敗経験を積めたのは良かったかもしれない。こっちの世界にだって、トラウマになるほどキレ散らかす質の悪い客もいるのだから。
「そんじゃこれで依頼は達成だな。割符があるから、持っていってくれ。これをギルドに渡せば依頼達成だ」
「はい、ありがとうございます」
「……特に言うことはねぇか? これで依頼は終わることになるが」
「えっと、はい。大丈夫です」
なぜだかグロウさんが念を押すように訊ねてきたが、依頼達成扱いになるようだし、問題はないと思う。そう答えて割符を受け取ろうとしたが、隣から待ったが掛かった。
「ちょっといいかしら」
ソフィアさんのその声は、今日1番の冷たさを纏っていた。




