砥石納品 1
所変わってグロウ武具店の前、納品のためソフィアさんとフロイトの3人で行き着いた店の中には、商談中の冒険者がいた。
狼の2頭は街歩きに不慣れで辛そうだったので、先に宿に寄って借りた厩舎に入ってもらった。
まさしく棄てられた仔犬のような目で見つめられた時は罪悪感を覚えたが、ひとしきり撫でられた後は寝藁の上で落ち着いたようだった。
「ここですね。グロウ武具店」
「知り合いの店なのよね?」
「はい、フロイトのグレイブもここで買わせてもらったんです」
店構えは相変わらず武骨の一言で、飾り気のない大きな看板に店名が彫られている以外は店と示すものもない。花でも飾ればとは言わないがもう少し建物自体に装飾があってもいいように思える。
そんな良く言えば硬派な店構えに相応しい、ゴツい体躯の冒険者との商談が終ったようで、玄関に向かって移動し始めた。
「じゃあ、またくるよ」
「おう、今度は砥ぎじゃなくて新調を頼むぞ」
「勘弁してくれ、うちはそんなに金満じゃないよ」
「ま、とりあえず気ぃ付けろよ」
客として来ていたとおぼしき冒険者を見送るために外に目を向けたグロウさんは、入っても良いかとタイミングを伺っていた俺と目が合い、少し困惑しながら招き入れた。
すれ違う冒険者はこちらにちらりと視線を落としたが、こちらが会釈するとそれを返すように顎を引き店を後にした。
「一昨日ぶりだな、どうした? 槍に不具合でも出たのか」
「こんにちは、グロウさん。この店で買ったものは全部十二分に働いてくれています」
「そうか、そりゃ良いな。武具は使われてなんぼだ」
グロウさんの困惑したような態度は、こちらがクレームをつけに来たと勘繰ったからのようだ。
初級冒険者というものは金がないので、買ってすぐに武器を壊してしまえば、あっさりと生活が詰む。
なので無理筋だろうとなんだろうと、買った武具屋に押し掛けて、不良品だなんだといちゃもんをつけて新品に交換なり返品なりをもぎ取ろうと必死になる。
無論大体の破損の原因は、まともに刃も立てて振れない剣筋で床をぶっ叩いたり、槍の柄をそこらの棒よろしく梃子に使ってへし折ったりと10割自業自得の場合が殆どだ。
「特にあのグレイブは活躍してます」
「そうか、なによりだな。そんで今日は別嬪さん連れてデートって訳でもねぇんだろう?」
「解体場でも言われましたけど、そんなに違和感あります?」
俺もソフィアさんも武器を提げた鎧姿である以上、ただの冒険者パーティにしか見えないと思うんだけど。
「うーん、どっちかと言えば嬢ちゃんの方が保護者に見えてな。知り合いの子のお使いに付き合っているって感じだ」
「当たらずとも遠からずですね……」
「んで、デートでも武器の不具合でもねぇなら、なんの用があって来たんだ?」
「あ、そうだ。ギルドで砥石採集の依頼を受けたんです。そうしたら、納品先がグロウ武具店でして」
「おお、そうか。そんで物は‥‥そういや袋持ちだったな、どんぐらいあるんだ?」
「一抱えくらいの岩が9個くらいあります」
そう伝えると店の奥、工房の隅に案内された。近くには平板に加工された鉄材とおぼしき物が詰み上がっている。恐らく資材置場なのだろう。
「ここにだしてくれ、とりあえず質を確認したいんでな」
聖人の腰袋をひっくり返して床に添えると、中からでかい岩が出てくる。
手を突っ込んで取り出すのに比べて、何度やっても不思議な感覚に襲われるが、便利な機能なので深くは考えず使っていこうと思う。
さっそく床に並べられた岩をグロウさんが確認していく。
適当に選んだわけではないが、はたして幾つが使用に耐える砥石と判断されるかは分からない。




