熊の買取とこれからのこと 2
しかし、感情とは滞積するものだ。
例え自身の収入が跳ね上がろうが、探索の安全性が担保されようが、しっかりと俺への不満は募る筈である。
それは負い目とも嫉妬とも取れよう。
自身の躍進の根幹を、他者が握っているというのは夢と希望に溢れた若い人格が許容するのは難しい。
考えが纏まらず悶々としていると、声が掛かった。
「おう、考え事遮って悪いんだがな、解体も終わったから買値を伝えるぞ」
「え、あっ、す、すいません」
「はっは、気にすんな。若けぇやつは考えすぎくらいで丁度いいんだよ」
「いえ、せっかく解体の手順を見せていただいたのに‥‥」
「まぁ、うちの若衆がやったら拳骨が落ちるが、お前さんはあくまで解体の依頼人だからな」
「ほんと、すいませんでした」
どうやら熊の解体を見学させてもらっている最中に、思考が飛躍し、考え事に足を取られたようだ。
好意で学びの機会を得ることの値打ちは、計り知れないことを充分に知っているだけに、この失態はあまりに不甲斐ない。
「そんで買値なんだがな、皮を5万2千の肉を4万に、熊胆が3万でどうだ? 解体費やらをさっ引いて11万5千ゴルディンになるな」
「ホーンボアとそこまで変わらないんですね」
「まぁ、この街はホーンボアの肉が出回ってるからな。熊肉が高値で売れれば、危険度相応の値段もつけられるんだが」
「ホーンボア、美味しいですもんね」
危険度で言えば、未だに出会ったこともないブレイドホーンボアを上回るとの噂もあるこの地方 の熊は、そこらの魔物よりもよっぽど強い。
しかし、それに比例するように肉は固く、あまりおいしく食べられるものではない。使われるは主に安価な煮込みとかだろう。
然るに猪の倍ではきかない量の肉塊だとしても、1頭分の半値にしかならないのだ。
そして熊の胆が予想よりも大分高い。もし次に熊を狩ることになっても解体せずに持ち込もう。
「ではそれでお願いします」
「おうよ、これが買取の木札な」
「それで、あのぅ……2つお願い事があるんですが……」
「おう、なんだ?」
「まず、猪の内臓を分けてもらえませんか?」
「は? あんなもんどうすんだよ」
そう訝しむボールドさんに、今回の森の探索のメイン目的を伝えた。
狼を2頭解体場の外に待たせてあると教えると納得したようで、大体は部屋の隅の平箱にそのまま無造作にブチこまれているから良いところを持っていっていいと許可をもらえた。
その中のものならば今日中に仕留められた獲物のモツなので、鮮度的にも問題ないだろうとのことだ。後で持ち帰る容器を調達しなければ。
「ありがとうございます」
「まぁ価値の無いものだからな、食えねぇし薬にもならねぇし、嵩が減って嬉しいぐらいだ。ここにモツがないってタイミングはたぶん無ぇから気軽に来いや」
「はい、これからもよろしくお願いします」
「そういや頼みごとは2つって言ってたな。もう1個はなんだ? 金なら貸せねぇぞ」
貧困に喘ぐ初級冒険者にはあまり笑えないであろう冗談を言うボールドさんに、革工房の商会を頼む。
「その首輪は拘った物をつくりてぇのか?」
「テイムモンスターだと分かればいいですし、そんなことはないですけど」
そもそも首輪なぞしたこともない狼達だ。あんまり凝ったゴテゴテとしたものは辛かろう。
「じゃあ普通に商店で売ってるぞ」
「そうなんですか」
「大店なら、ベルト類として首輪用に誂えている物はおいてある筈だ」
革製品と同じ括りとして売り出されているようだ。昨日フロイトの生活用品を揃えに行ったオリバー雑貨店に行ってみよう。
ボールドさんにお礼を言って解体場を後にする。
職業柄、5月からの時期は非常に多忙になってしまいます。従って、投稿のペースが落ちることが予想されますので気長にお待ちください。m(_ _)m




