熊の買取とこれからのこと 1
その後も熊の解体を見学させてもらった。
冒険者のように1本のナイフで全てを解体するのではなく、さまざまなナイフを使い分ける姿は、まさに職人であった。
「これから骨から肉を外す作業もあるが、だいたいこんなもんだな」
「解体をじっくり見るのも久しぶりだけど、やっぱりどこも手際は段違いね」
俺に付き合って見学していてくれたソフィアさんも、似たような感想を抱いたようだ。
「まぁ、こっちはバラすプロだからな。そっちは仕留めるプロだろう?」
「それもそうね」
「ボールドさん、ありがとうございました」
「おう、それじゃあ買取の話に移るか」
解体の途中に見えるが、先に大まかな金額でも教えてくれるのだろうか。熊の買取額はいくらになるだろう?
偶発的に出会ったものだし、テイムの副産物のようなものだが、ホーンボア1頭よりは確実に強かったので、出来れば高値が付くと嬉しい。
「前のホーンボアと同じように、部位ごとに値段を教えてやろうか?」
「えっと、熊はそんなに数を獲れるわけでもなさそうなので、大丈夫です」
「そうか、まぁお前さんの場合、聖人の腰袋があれば、いちいち解体しなくてもそのまま持ち帰れるからな」
「また仕留めたら解体に持ち込みますね」
「おうよ。そんじゃあ後でざっくりとした内訳だけは伝えるぞ」
「よろしくお願いします」
そう言ってボールドさんは解体の作業に戻った。どうやら部位の値段を知りたがった場合、解体しながら教えてくれるつもりだったようだ。
解体の続きを眺めながら、これからの進展について思いを巡らせてしまう。
今回は理由があって森に分けいったが、あくまでも俺はダンジョンメインの冒険者としてやっていくつもりである。
もちろん冒険者としてはダンジョン以外の仕事も出来たほうがいいのだろうが、自分は探索について全くの素人だと実感したところだ。
戦う訓練を積んだし体力も付いた。知識だって出来うる限り集めたつもりだった。
でも全く足りていなかった。
正直ソフィアさんがいなければまだ森の中だろう。日があるうちに街に帰り着けたかも怪しい。
戦士とも猟師とも違う、冒険者という職業の知識や技術はやはり実家での訓練だけでは不十分だったようだ。
この問題の対策としては、数多の初級冒険者のようにどこかのパーティーに見習いとして加入し、経験を積むのが王道だと思うが、自分の職業がそれを難しくさせる。
サモナーはまだいい。多少戦力強化に金は掛かるが行動の制約が少なく、他の先輩冒険者に随行するのにも障害は少ないだろう。
しかしテイマーの場合は、泊まる宿の選定から食料の確保にモンスターの世話までと、あらゆる面で作業量が多い。
それをこなしながらパーティーの雑用まで行うのはあまり現実的ではない。
ましてや俺の場合、両方の技能を伸ばしていきたいという願望があり、金が掛かり時間がない初級冒険者と成り果てている。
これでは見習いとして受け入れてくれるパーティーは望み薄だろう。
さりとて同じ初級冒険者同士でパーティーを組むのも憚られる。
冒険者になろうとするものは、大体が3男以降のあぶれ者だ。
後継ぎの長男、予備の次男程度はまだ結婚もでき大事に保護されて家財を継ぐことが出来るが、それ以降の兄弟達はその家の裕福さにもよるが、あまり充分な装備や資金を有して独立しているとは言えない。
農家や職人はもとより、例え冒険者の子供でも俺のようにモンスターの配下を従え装備を買い、宿の手配まで行える資金的余裕があるものはいないだろう。
言い方は悪いが、装備に資金と訓練に割けた時間まで、全てが隔絶しているのだ。
俺のように余裕のある初級冒険者など、同じような商会の倅か、騎士や貴族の子息による道楽冒険者くらいのものだろう。
そもそもそれが出来るほどの裕福な家に生まれたら、冒険者に身をやつす必要もないのだが。
無論、向こうは俺の参入を歓迎するだろう。
多少の不公平感を無視させるほどの力が聖人の腰袋にはあるし、実際にパーティーを組めば俺から資金援助を受けることも夢ではない。




