聖人の腰袋
門番の憲兵さんにお礼を言って、城門を後にする。
しかし首輪か、革細工を扱っている店は知らないので、どこかで知り合いを頼って探さなければいけない。
「ソフィアさん、この街で革の工房とかに心当たりとかはありませんか?」
「さっき言われてたことよね? 残念ながらこの街には馴染みのとこがないのよねぇ」
「そうですか……とりあえず解体場に向かいましょうか」
父親の故郷が近いとはいえ、この地方にくるのはソフィアさんも初めての事のようだし当然か。
やはりここは解体場のボールドさんをあたってみよう。日々魔物の皮が集まるあの場所ならば革工房との繋がりもあるだろう。
熊の解体もあるし、やはりこのまままっすぐ向かう。
歩きながらいくらで売れるだろうかと皮算用していると、ふと大切なことを思い出した。
「そういえば報酬の割合とか決めてませんでしたね」
「要らないわ、今日は無理やり付いていっただけだもの」
「そうはいきませんよ。労働と報酬はセットですから」
彼女の要望で一緒に行くことになった森の探索だが、少なくとも熊を売った利益は半分で分けなければならない。
事前に割合を決めていたのならともかく、取り決めもなしに倒したのなら折半するのが冒険者の流儀だ。もちろん戦いに貢献した者についてはだが。
「慣例に習って報酬は折半にしましょう」
「気にしなくていいのに」
少し不満げに話すソフィアさんは、こちらを援助するつもりで報酬を断っているのだろう。
いくら装備が整っていて資金が潤沢そうでも、所詮は駆け出しの冒険者だ。収入の面では彼女に遠く及ばないだろう。
初級冒険者と中級冒険者との差はそれだけ大きい。
しかし、それも聖人の腰袋を計算に入れなかったらの話だ。
はっきり言って、積載量の上限は冒険者の収入に多大に影響を及ぼす。
それは農民よりも、商人よりも、貴族よりも顕著だ。それはダンジョンの構造に原因がある。
たしかに広いダンジョンだが、持ち込める運搬道具はせいぜい荷車程度でそれ以上の積載量は望めない。
それはどんなに強い魔物を倒し、価値のある物を得ても持ち帰る量に限りがあることを示している。
だからこそ、冒険者にとって聖人の腰袋は成功の証となる。俺がホーンボアで稼げたように、価値のある部位を全て持ち帰れれば収入は10倍ではきかないのだ。
ちなみにだが聖人の腰袋という名前の由来は、ダンジョンの発生による混乱期に協会が率先して、ダンジョンから見出だされたこの魔法の袋を買い集め、食料を袋に積めて魔物蔓延る各地を巡り配り歩いたことに由来する。
人々の目にはいくらでも食料が湧き出す神の奇跡のように映り、ダンジョンの発生により、神は我々を見捨てたという終末論の拡散を防いだとも言われている。
それもはるか過去のことだが、今でもその当時の自らの命を省みず、人々の希望となった協会の聖人達に感謝を込めて聖人の腰袋と呼ばれている。
「分かったわ、それじゃあ今晩奢らせて?」
ソフィアさんはこの短い沈黙の中で何かを思い付いたらしく、愉しげに食事のお誘いをしてきた。
「奢りはともかく、夕食はいいですね」
「そうでしょう。いい場所は知ってる?」
ムフーと決して小さくない胸を自慢気に張るソフィアさんは、年齢よりも少し幼く見えて少し親近感が湧いた。
「この街のお店は知らないんですよねぇ、来たばかりですし」
「私も詳しくはないのよね。お父さんに聞いてみましょうか、さすがに回復している筈だしね」
街を歩きたどり着いた解体場は相変わらず明るかったが、昨日は気付かなかった血の匂いに満ちていた。この臭気に気付かないとは昨日は平気なふりしてかなり緊張していたようである。
フロイトと狼達には入口脇で待機してもらう。武装したフロイトと一緒なのでテイムされた狼だと認識してもらえるだろう。
その作業場の中でボールドさんを見つけたので、近寄っていく。幸い手は空いているようだ。




