狼の立場
帰り道は順調だった。
そもそも森を出た段階でかなり街との距離が近く、問題が起こるはずもなかった。
これだけ近いと魔物の脅威が街を襲わないか心配してしまうが、さりとて森を拓いてしまえば低所得層の燃料やら食料の供給源を断つことになる。
煮炊きにも薪を使う世帯が多いこの街は、森で拾い集められた薪を主な燃料としている。
ガスコンロのような魔道具も普及してはいるが、やはり高級品で燃料となる魔石も薪より高価なので、使用できるのは中流以上の所得層だけだ。
森を開拓してしまえば、利用できる土地は広がるかもしれないが薪を産み出す森は遠のき、必然的に燃料費は上がるだろう。
たしかに魔物の脅威は森から生じるものが多いが、森を遠ざければこの分だけ森は獣や魔物のテリトリーとなる。
近場にあるこの森の浅層はいわば魔物との緩衝地帯なのだ。ここならば脅威の影も薄く、比較的安全に採集作業に当たれる。
城門までたどり着いた。
あいかわらず門の前には列ができ、門をくぐれる順番を待っている。ひとつ前に並んだ男は歩きで行商をやっているらしく、大きな背嚢を背負って並んでいた。
重そうであるが、あの大きさだと降ろしてから背負いあげるのも一苦労なのだろう。待機する者が思い思いの態度で列に並ぶ中、背筋を伸ばしてただ重さに耐えている。
そんな気を張った姿であるが、後ろに並んだ俺たちを一瞬振り返り、驚愕の表情で二度見していた。
歩きで行商を行う商人の商売相手は小さな村などである。キャラバンを組んだ商人たちが立ち寄らないような開拓村や、主な行商のルートから外れてしまった僻地の村に商機を見いだし、需要のありそうな物を売りに行く。
えてしてそのような場所にある村の周りは人の領域ではない。そもそも人の数が少なく、動物や魔物の脅威を退けるには力が足りないのだ。
そんな場所で恐れられているのが、ゴブリンと狼だ。どちらも群れで行動し、囲まれてしまえば逃げるのは容易ではない。
狼はまだいい。食料などをばら蒔けばそちらに意識が行って逃げ出せるかもしれない。
しかし、ゴブリンは人間を逃がせば討伐隊を組んでこちらを殺しにくることを理解して、執拗に追いかけて殺そうとしてくる場合がある。
前の商人が驚いた顔をしたのは、そんな行商人の悪夢のようなセットが後ろに急に現れて、しかも行儀良く入門の列に並んでいたからだろう。
列が進み、落ち着かなそうにソワソワとしていた商人が門の中に消え、俺たちの番がやってきた。
「森に探索に行っていた冒険者です。こちらはテイムした配下たちです」
「‥‥はい、確認しました。どうぞ」
2人いる門番の片方に話しかけて、首から下げた冒険者証を鎧の下から引っ張り出して見せる。
壮年の番兵の視線はこちらの冒険者証を一瞥した後、俺の全身を一通り眺め、フロイトや狼達を確認した段階でこちらに入門の許可を出してくれた。
もう1人の番兵に誰何されていたソフィアさんも無事に通ることができ、とりあえず解体場に向かおうとすると、後ろから声がかかった。先ほどの番兵さんのようだ。
「ああ、その狼達だけれど一目でテイムされていると分かるように、首輪かなにかを付けたほうがいいな」
「首輪ですか?」
あまり首輪をしているテイムモンスターは見たことがないが。
「ほら、パッと見て狼は犬に似ているだろう?はぐれたときに駆除されてしまわないように、テイムされていると分かるようにしておくんだ」
たしかに犬にしても狼にしても、このサイズの牙を持つ生き物が街に入り込んだのなら、憲兵も対処せざるをえないだろう。
殺してしまうかはともかく、お互いにとって良くない結果を招きそうだ。




