森を出る
「ソフィアさんもアイディアを出してもらってもいいですか?もしくはそのまま名付けでも」
「あら、私でもいいの?」
「はい、せっかくですし」
狼の名前で思い付くのは、牙や爪などの意味を込めたファングやバイト、それにクロウなどだが少々捻りたい。
というのも、俺のネーミングセンスは微妙だからだ。
シルトやフロイトもこちらの世界にある英雄譚の登場人物からの引用で、その名前に負けない進化を遂げてほしいという願いを込めた。
ソフィアさんもさすがに名付けの経験は無いらしく、少し困ったように切り出した。
「そうねぇ。男の子と女の子でしょう? 兄妹か番いかはまだ分からないけれど、対になっている名前なんてどうかしら」
「あ、番いみたいですよ」
魔力パスから伝わってくる感情は、2頭の間にあるのが兄妹愛ではないことを告げている。
「対の名前はいいアイディアですね、そうなると神話に出てくる竜の双子とかでしょうか」
「うーん‥‥あ、そういえばグラム君は転生者なんでしょう?」
「え、はい。そうですが」
なんか、急に話が跳んでしまったようだが、なんだろう?
「前世の神話からとってみたらいいんじゃないかしら」
「えっと、何でですか?」
「神話に登場する名前をいただいて名付けをする親も多いけれど、さすがに狼に付けているといい顔されないかもしれないのよ」
まあ、分からない話でもない。こちらの神様は人々の生活に根差しているどころの騒ぎではないからだ。
前世の感覚で言うと日本人の感覚が邪魔して分かりづらいが、キリスト教圏でペットの犬にヨシュアとかイエスとかつけるようなものかも知れない。
気にしない人は気にしないが、怒る人は烈火のごとく怒るので避けたほうが無難だろう。
しかし、神話で対になっている存在は多くとも、ぴったりなものとなると心当たりがない。
対と言えば、双子座のカストールとポリュデウケースだが、あの神様は兄弟でどっちも男だしな。
それに、神様の名前をそのままつけるのもなんだか申し訳ないと思う。なんだかんだ俺も信心深いのかもしれない。
「うーん、思い付かないので先に街まで戻りましょうか」
「そうね、ゆっくり考えたほうが良いかもしれないわね」
休憩を切り上げて帰路につく。
来た道を戻るだけだが、行きの行程とまったく違う道のように感じるのは、見る方向が違うからだ。
予備知識として、地形や川などの不変のものを目印として活用すると良いとは聞いていたが、実際にやってみるとかなり難しい。
たしかに、川に沿って歩けば迷うこともないだろうが、自由な探索には制限がかかる。
この森を狩り場とするには土地勘がそもそも足りず、自由に歩き回るには時間をかけて土地を把握する必要があるように思える。
今日は狼のテイムの為に森に入ったが、やはり主な活動はダンジョンでするべきだろう。
考え事をしながらでも歩けるのは、森の中層から抜け出せたことと、先導してくれるソフィアさんのお陰だろう。
彼女のルートは完璧に近く、大きな岩が転がる地帯でも安定した岩を選び、すいすいと進めてしまう。
たしかに冒険者には体力と戦闘力が必要だが、こういう細やかな能力こそが生存へ貢献するものだと思う。
「探索結果は上々。無事に帰って来れたわね」
「はい、ありがとうございました」
ちょうど昼時、季節柄太陽は少し頂点を過ぎた辺りだが、常葉樹の屋根を抜けて平野に出ることが出来た。
これ以上森ですることもないので、このまま街に戻って諸々の処理を済ませようと思う。
ソフィアさんとのパーティーの件も戻った段階で結論をつけようと思う。




