ポーション
とはいえ、森の中では穴を掘ることも難しい。木の根が邪魔だし、何よりここは獣のテリトリーだ。暢気に穴堀りをしている余裕はないのである。
「とりあえず遺体は持っていって、何処かで埋めます」
「それが良さそうね。この子達はそのままでも気にしないでしょうけど、後悔が残らないほうが心に優しいわ」
野性動物に埋葬なんで概念はない。
ここに亡骸を放置して去っても何の感慨も持たないだろう。仲間の死は悲しむのだろうが、弔うという習性は狼にはない。
しかし俺は人間なので、テイムした動物の群れの仲間を放置して帰るのはとても心苦しいのである。
タイミングが悪ければ殺し合っていたかもしれない狼達であるが、肉も食えず皮も価値が低い以上、無理に解体するより埋めて弔ってやるほうが、精神衛生上よろしいと思う。まぁ、エゴだという自覚はある。
シルトは足の傷を魔力を注いで治療した後、召喚を解除して戻ってもらった。
先ほど使用したポーションであるが、召喚したモンスターにも使える。だが、ゴーレムにはそもそもポーションの効果がまるで無いのだ。
その反面魔力さえ注げば、周りの土なんかを取り込んで傷を修復することが出来る。これは土で出来たソイルゴーレムだけの特徴ではなく、物質系の魔物に共通する能力だ。
「よし、それじゃ行こうか」
こちらを窺う狼達にそう声をかける。
テイムした魔物は、魔力パスの影響で人語を解するようになるが、動物には効きが悪いようで細かなニュアンスは伝わらない。
しかし、身振りを加えることで行けや待てくらいの大雑把な指示なら従わせられるようだ。
来た道を戻りだした俺たちの後を追従しだした。
川縁に着いた時点で小休止を挟むことにした。
もともとは休憩を入れようとした段階で、狼の吠え声を聞き駆けつけたので一息つく時間を設けたのだ。
フロイトに水筒を渡しながら、水筒や携帯食料くらいはそれぞれで持っていたほうがはぐれたときでも安心かと考えていると、狼達も川で喉を潤し始めた。
フロイトに先ほども食べたシリアルバーもどきを渡して食べていてもらう。
どうやら初めての森の探索だったこともあって見込みを大きく外し、昼は大分過ぎた時間の帰還となりそうだ。
ソフィアさんもなにやらつまんでいる。
「悪いけど、傷を見せてもらうよ」
俺自身もシリアルバーを咥えながら狼達にそう声をかけ、ポーションをかけた場所を観察させてもらう。
思ったよりも怯える様子のない大柄なほうの狼の毛を掻き分け、熊に抉られたであろう傷痕を探るがそれらしい痕跡は、一直線に走った細い古傷のような痕だけだった。
そのまま背中を撫でてやると水を飲むのを止め、ヒュンと甘えたように鳴いて体を擦り寄せてきた。
「傷はあまり痛まないようだね」
「ポーションを使ったのでしょう? あれは使っただけで瀕死の戦士が前線に舞い戻れるだけの力があるから」
「実際に使ったのは初めてでした」
ポーションと同じく錬金術で作られた魔力を遮断する特殊な硝子製の瓶には、中の魔法薬の効力を劣化させない効果がある。
そのために父さんから纏め買いしても平気だったが、流石に5年を過ぎると、効力が半分以下になるようだ。
「出し惜しみはしないほうがいいわね。ケチると高くつくのはどの業界も同じよ」
「肝に命じておきます」
「ふふっ、よろしい」
ソフィアさんは冗談めかして言っていたが、小さな傷を放置して後々致命的な一撃をもらうのは、よくあることだ。
おそらくソフィアさんは、俺が商会の息子だから出費を惜しんで使い渋るかもしれないと忠告してくれたんだろうが、そこの判断を見誤るつもりはない。なぜなら俺は臆病だから。
「そういえば、名前はつけてあげないの?」
「そうですねぇ‥‥」
いつまでも狼達では呼びにくいので、名前は早急に着けてしまいたいところだ。




