お前も家族だ
服従をさせない、つまりは肉体言語に頼らない場合のテイム方法は2つだ。
1つは魔力パスによる説得、簡単にいうと言葉というか念話のような感じで相手を説得するのである。
しかし、この方法は相手の知能が一定のラインを越えていなければ使えないので、魔物でもない狼相手には難しいかも知れない。
もう1つは、ある程度の信頼を得ること。
つまりは懐かれればいい。こちらの方がまだ可能性は有りそうだ。
「グラム君、あの子達をテイムするのよね?」
「はい、やってみます」
「気を付けてね。手負いの獣は狂暴よ」
ポーションを聖人の腰袋から取り出す。
これは魔法薬の一種で、掛けた場所の傷を治す物だ。薬師や錬金術のスキルによって作られ、なかなかいいお値段がする。
聖人の腰袋には、使用期限の長いものを5つ確保しているが、これは出発前に父が仕入れて来たものを殆ど卸値で譲ってもらった物だ。
お金はいらないと言われたが、必要経費だからと強引に渡してきた。卸値でもかなり安くなるのだ。
狼を刺激しないように、ゆっくり近付く。
使役術で魔力パスを繋ぎ、敵意がないことを伝えているが、まったく通じていないようだ。
「暴れんなよ、頼むから暴れんなよ」
少し体の大きな狼が、もう一方を庇うように動く。
親子なのか夫婦なのかは分からないが、痛々しい傷跡から更に血が出てきている。早めに治療しないと不味いな。
メイスはもう腰に収めているので、左手に盾、右手に回復薬の状態でにじり寄っていき、狼の視界を盾で塞ぎながら、薬を傷口に振りかけた。
しゅわしゅわと音を立てて傷が塞がっていくが、何をされたかが分からない狼はこちらに噛みつこうとしてきた。
想像以上の瞬発力に、思わず盾で殴り付ける。
結局こうなったかと嘆息しつつ、怯んで倒れた隙に首を踏みつける。同時に、従わなければ2頭とも殺すという意思を魔力パスに乗せて流し込む。
「いいかよく聞け、お前も今日から家族だ」
マフィアのやり口であるが、一瞬の逡巡の後、狼の目から反抗の意思が消え魔力で狼と繋がるのを感じた。無事にテイム出来たようだ。
もう1頭のテイムは簡単に済んだ。
こちらにテイムされた狼が元気に歩き出したことと、こちらを警戒せずに付き従っている状況に困惑していたようだが、テイムされた狼と鼻を合わせ、多少びくつきながらもこちらの治療を受けた後に改めてパスを繋ぐと、すんなりとテイムできた。やったぜ。
「終わったの?」
「はい、無事にテイム出来ました」
「どっちの子も不安そうに見えるんだけど、大丈夫なのかしら」
「かなり強引にテイムしましたから。信頼関係はこれからです」
不安そうにこちらを窺う狼達からは信頼ではなく、恐怖を感じる。このままではただ力で支配しているだけだ。信頼関係の構築が急がれる。
「撤収しましょう」
目標は達成されたので、この場を離れようと思う。血の匂いに誘われて、新たな肉食獣や魔物が寄って来かねない。
ふと、死んでしまった狼の亡骸が目に入った。この子達はどうしよう。
「どうしたの?」
撤収と言った矢先に立ち止まっている俺に、ソフィアさんの不思議そうな声がかかる
「死んでしまった狼達はどうしようかと」
「そうねぇ、持ち帰ってもいいけど、毛皮くらいしかお金にならないわよ?自分で皮を剥がないと解体費用とトントンで殆ど利益も出ないのよね、狼って」
「そうですか‥‥」
「それに、こう言っちゃなんだけどその子達の仲間を素材にしてしまうのは、信頼関係的には大丈夫なの?」
「多分ヤバイです」
ただの同種や近縁種ならばまだしも、同じ群れの仲間は家族のようなものだろう。その皮を剥がれるのは心中穏やかではないはずだ。
今は分からなくても、魔物化して知力が上がれば理解して、嫌悪されること請け合いだ。




