戦士ではなく狩人
一見有効打に見えた噛み付きだが、その実あまり影響はなかった。
普通の生き物であれば、太股への噛み付きは致命傷になりかねない危険なものだ。
大抵の生物ならば動きが鈍り、大量出血を強いられるのでかなり効果的なのだが、如何せんシルトはゴーレムだ。
血を流さず痛みを感じないその体には、足の一部が削られた以上のダメージは感じられなかった。
それとは反対に熊の方は、口に含んだ土塊を呑み込むことも出来ずに、吐き出すしかなかったようだ。
接近した状態で生じた隙に、シルトの判断は的確だった。
無理に攻撃しようとはせず、両腕を使って押さえ込みにいく。
人間の骨格よりも長いその腕ですら、流石に熊の胴体を回りきることは出来ないと判断したのか、袈裟でも掛けるように熊の首の右側から左の脇の下にかけて、まるで襷のように腕が一周した。
この状態に入ってしまった時点で、熊の勝機は潰えた。
1対1ならば、ここから拘束を解いてまたがっぷり四つの戦いに持ち込めたかもしれないが、残念ながらこちらはチームだ。
シルトばかりには負担を掛けまいと、フロイトがグレイブを構えて突っ込んでいく。
刺突にはあまり向かない形状の刃先が、肺やら心臓が詰まっている胸に、肋骨を避けて突き込まれた。
体重を乗せた突きは、分厚い刃先をものともせず、体の中に潜り込んでいった。
ソフィアさんは後ろに回り込み、足の関節を狙い切り裂いているようだ。的確に接合部を切り取るその剣には風が渦巻いていた。
後方で構えている俺だが、遊んでいた訳ではない。
シルトに指示を出した後は、即座に魔力を練り始め、ソフィアさんの剣にエンチャントウィンドを掛けた。
フロイトのグレイブはそのままでも十分な破壊力があるため、ソフィアさんの直剣の威力を底上げしたほうが良いと判断した。彼女の剣技の冴えを見るに過剰な援護だったようだけど。
肺を貫かれ、足の筋を断ち切られてもなお、血を吐きながら暴れ続ける熊に止めを刺すべく、長く練っていた魔力で呪文を形作る。
それは透き通って見えるが、細長い獣の姿を象っていた。
「行ってこい、鎌鼬」
空をかけるように移動したそれは、シルトの下に潜り込むように押さえつけられた熊の更に下、地面スレスレを駆け抜けると、刃になっているその尾を1振るいした。
荒く憎々しげな唸り声がピタリと止むと、その喉が切り裂かれ血が溢れ落ちる。それが決め手になった。
多少の停滞の後、もはや起き上がることも出来ない熊に歩み寄る。まだかろうじて息はあるが、その喉からは血が泡のように沸きだしていた。
「止めを刺すわ。いいわね?」
「はい、お願いします」
無駄に苦しまぬように、ソフィアさんに止めをお願いする。俺のメイスでは、熊の頭蓋骨は一撃で砕けるかは分からないからだ。
動きを止めた熊を聖人の腰袋に仕舞い込む。
流石に1人では入れられなかったのでフロイトに手伝ってもらったが、際限無く伸びる袋の口は何度見てもシュールな光景だ。
熊は解体場に持ち込んで、余すこと無く利用させてもらおう。熊さんには悪いが、これも生存競争である。
直近の障害は排除したので、狼達に向き直る。
彼らの内の2頭はやはり事切れているようだが、生き残った2頭はまだこちらを睨むくらいの元気はあるようだ。
さて、この2頭をテイムするのは確定路線として、どういう方法をとるのか悩んでしまう。
フロイトの時のようにこちらに襲いかかってくれば、返り討ちにして服従を迫ることも出来るが、今の現状から更に痛め付ける気はさらさら起きない。
となると方法は2つだ。




