あるー日 森の中 熊さんに 出会った
とりあえず、もう良いだろうと判断できる程度には、石を集められた。これでダメなら、更に奥に採取の足を伸ばさなければいけない。
とりあえず少し休憩と腰を下ろしていると、少し遠くから鋭く吠える狼の鳴き声が聞こえた。
全員がパッと立ち上がったが、どうやらこちらを捕捉して吠えているのではないようだ。
ここから取れる行動は2つ。
1つは鳴き声のした方向に向かうことだ。今回の目的である狼がいる可能性が高い。
しかし、先ほどの鳴き声は多分に警戒の色を孕んでいた。このまま向かえば、他の何かと鉢合わせる可能性が高い。
もう1つは簡単で、砥石の採取依頼はこなしたことで最低限の目標は達成したとして、このまま帰ることだ。
正直こちらを選ぶつもりはないが強いてメリットを上げるとしたら、不明瞭な敵と戦わなくて良いことだろうか。
ソフィアさんに目を向け確認をとる。
「このまま鳴き声の方に行こうと思うんですが、大丈夫ですか」
「構わないわよ。そのために来たんですもの」
「それじゃあシルトも召喚して、ゆっくりと近付きます」
音を立てずに忍び寄り不意打ちを仕掛ける選択肢もあったが、そもそもソフィアさんはともかくとして、俺とフロイトには野性動物に気づかれないほどの無音移動は出来ない。
ならば開き直ってシルトを前面に出して、低木を掻き分けながら進んでもらい、敵の意識をメインタンクであるシルトに集中してもらった方が良いと判断した。
全員が武器を抜きはなって森を歩く。
まぁ俺の場合は、盾を持っただけで右手は杖のままだし、ソフィアさんは2本ある剣の片方しか抜いていない。
完全に臨戦態勢なのは、フロイトとシルトだけだ。
ずんずんと枝を掻き分けてシルトが進む。
折られる木々の枝は細いものが多く、多少しっかりした太さのものは、こちらに意趣返しのようにしなった後、鞭のように振るわれる。
「ちょっと間を開けて進みましょうか。戦う前から傷だらけになっちゃうから」
「そうですね」
ほどなくして木立が減り、多少視界が通るようになると、目的の狼達が見えてきた。それと同時に問題も発生したが。
狼を襲っていたのは熊だった。
立ち上がって威嚇するその姿は、大柄な男よりも頭1つ分は大きいシルトの更に上を行き、鋭そうな爪のついた腕を広げている。
周りにいる狼達は殆どが横たわっていて、明らかに致命傷と思われる傷を受けているのは2頭、足を庇いながら殆ど這うように動いて、熊の方を警戒しているのが2頭のようだ。
他の仲間がいたのか、最初から4頭だったのかはわからないが、今ここにいるのはこの4頭だけである。
そんな死に体の狼達を無視するように、熊の威嚇はこちらに向けられていた。
「やる気みたいよ?」
「よし、シルト。前進して押さえつけて」
双方共に引くつもりが無い以上、こちらが受けの体勢を取れば、向こうは勢いを付けて突っ込んで来るだろう。
機先を征するためにも、シルトにはこちらから距離を詰めてもらった。
2つの巨体がぶつかる。シルトはいつものようにノシノシと前進し、熊は四足で突貫してきた。
速力の差は明らかで、それほど空いていなかった距離は一気に無くなり、だいぶこちら寄りで激突した。
初撃は双方に会心とはいかず、シルトの掴みかかった腕は衝撃で弾かれ、熊の体を使った突進は少し体勢を崩させるに留まった。
先に動いたのは熊の方で、1拍遅れたシルトの再度の掴みかかりを潜り抜け、土塊で出来た太股に噛りついた。
あらんかぎりの力で噛みついている顎からミシミシと音がなり、遂には熊の口の形に抉りとられてしまった。




