沢登の苦労
こちらの世界に生まれてから、森に入ったことはなかったので森の中の小川といえば日本で見た清流をイメージしていたが、周りにある黒い岩のせいかやや暗い印象を受けた。
「砥石の採取依頼を受けたのよね?見分けつくの?」
「たぶん大丈夫です。どんなものかは知っていますし」
ギルドで見せられたサンプルは暗褐色の粘土岩だった。
つまりは硬く、目の細かい石が必要なようだ。
当然ながら、小さすぎるものや筋の入ったものは砥石には適さないので、ある程度の塊を見つける必要がある。
とりあえず見える範囲にめぼしい物はないので、上流か下流に向かって進むべきなんだが、狼のテイムもあるので、森の奥方向になる上流を目指していく。
「ソフィアさん、フロイト、動物の気配がしたら教えてください」
「テイムの件ね。了解したわ」
「ワカリマシタ」
川沿いを遡って森の奥へ進む。
勾配がでて大きな岩が目立つようになると、体力はかなりついたはずなのに、息が上がってきた。
「少し休みましょうか」
ソフィアさんは近くの岩場に腰を下ろし、目立たない背嚢から小さな金属製の水筒を取り出した。
「すいません」
「初めての山歩きなんでしょう?最初はみんなそんなものよ」
おそらく、俺が自分から休もうとは言い出せないと見越して、休みを提案してくれたのだろう。
行動がイケメンで、情けないがちょっと好きになってしまいそうだ。
そんな彼女は近場に落ちていた比較的真っ直ぐな太い枝に、ナイフで何かを工作しているようだ。
多少時間がかかりそうだったので、その時間でフロイトに水筒と、ハチミツで固めたシリアルバーもどきを渡す。
兄の激励とソフィアさんの突撃ですっかり頭から抜け落ちていたが、朝御飯を食べ損ねていた。
俺は昨日の晩御飯も多かったから特に食べなくても平気だったが、大食漢のフロイトにはキツかっただろう。
「フロイト、すまん。朝飯のことをすっかり忘れていた」
「イエ、マエハタベナイノモザラデシタノデ」
粗食に耐性のあるゴブリンといえども腹は減る。
特にテイムモンスター達には、俺の都合で冒険に付き合ってもらっている。せめて衣食住は以前の生活よりも、向上させなければテイマー失格である。気を付けよう。
「アルジドノ、オイシイデス」
幸い、シリアルバーは気に入ってもらえたようである。
俺以前に転生した転生者が考案したとおぼしきシリアルバーだが、炭水化物と糖分のダブルカロリーですごく腹持ちがいい。日持ちもするので、かなりの量をストックしてある。
次の食事の繋ぎには十分だろう。
「仲が良いのね。はいこれ」
和気あいあいとフロイトと話していると、黙々と枝と向き合っていたソフィアさんが、形の整ったその枝をこちらに差し出してきた。
「これは‥‥杖ですか?」
「ええ、簡単なものだけど、そんなものでもあるとかなり違うのよ。私も初めての森の狩りで、父に作ってもらったわ」
そう語る彼女の目にはどこか懐かしさが滲んでいた。
「ありがとうございます」
「後は歩き方なんだけど、もう少し歩幅を狭めたほうが良いわね、その方が疲れにくいのよ」
「そうなんですか。でもそれだとペースが遅くなってしまいませんか?」
「初めての山歩きで、行程のペースまで考えてたら調子が悪くなるわよ。不意の遭遇戦だってあり得るんだから、余裕をもって移動すること」
それからも彼女は、山歩きの基本を俺に教えてくれた。
曰く鍛えているだけあって、体幹はしっかりしているから、背筋を伸ばして歩くようになどである。
また、周囲の警戒は私とフロイトくんがしておくから、依頼の砥石探しに集中してよいと言われた。
正直言って中級冒険者とはいえ、4つしか違わないかわいい女の子にここまで知識でも、体力でも、技量でも敵わないとは思っていなかった。
それも才能なんかじゃなく、しっかりと努力で裏打ちされた力だ。素直に尊敬する。
ここまでのソフィアさんとのやり取りを一部改変しました。
読み返してみると、書きたかったキャラクターとズレ過ぎていたのが原因です。
話の大筋には絡みませんが、多少キャラクターの印象は変化するかもしれません。
自分の実力不足です。ご迷惑おかけして申し訳ありません。




