初依頼
それは、テーブルに張り付いていた。
良く見ると、昨日ギルドで話しかけてきた冒険者のおじさんだった。
見るからに具合が悪そうで、顔を歪めて苦しんでいる様は毒でも盛られたかのようだった。
何処に出しても恥ずかしい二日酔いのおっさんである。
「今日から探索に向かうはずだったのよ? 朝から依頼を見に来たくらいには、気合いも入っていたしね」
「まぁ、あの状態じゃダンジョンに死にに行くようなものですもんね」
「まったくよ。軽く飲んでくるって意気揚々と出掛けていったのに、真っ赤になって帰ってくるんだから」
憤慨したように語るソフィアさんによれば、泥酔して帰ってきた父を隣の部屋に叩き込んだ時点で、今日の探索は半ば諦めていたが、朝からやたら元気な父に起こされここまで引っ張って来られたらしい。
引っ張って来た当の本人は、ギルドに着くなり気持ち悪さがぶり返し、テーブルに張り付いたっきり動かなくなってしまった。
「というわけで、こんな朝早くから暇になってしまったのよ」
「それは……御愁傷様です」
災難な一日の始まりである。
「そういえば何か困っていたようだけど、どうしたの?」
「実は初めて依頼を受けようと思ったんですが、やり方が分からなくって」
「ああ、依頼書きの依頼は受付に行って、依頼を受ける旨を伝えてから、冒険者証を渡せば手続きできるわ」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「それじゃ気を付けてね」
お礼を言って受付の方に向かう。昨日いた痩躯の職員はいなかったので、適当な窓口に向かう。
彼とは特に仲が良い訳でもないが、顔見知りの方がなんとなく安心するので、それとなく探してしまった。
依頼は簡単に受けれた。要求されているのは仕上げ砥用の石のようで、先方からサンプルを預かっていた。
そのサンプルはいわゆる粘土岩で、形成する粒子の細かいものが欲しいようだ。
流石に、職人目線の良し悪しは分からないので、大きな岩の塊を持ち帰って、選別して貰えば良いだろう。
職員さんが、掲示板に書かれている依頼を消しに行くので、持ち場を離れる。
受注された依頼は、規定人数に達した時点で、黒板から消される。朝に人が集まる訳である。
良い依頼は早い者勝ちなのだ。
さて、森へ向かおうと振り向くと、ソフィアさんが手招きしていた。何か用だろうか。
「無事に出来たみたいね」
「はい、おかげさまで」
「良くできました」
ソフィアさんが、優しげに微笑みながら誉めてくれる。いないはずの姉を思い起こしたが、そんなに歳は離れていないはずである。こっちからは絶対に年齢は聞かないが。
「ねぇ、1つ提案があるんだけど、良いかしら」
「なんでしょう?」
「森へ行くのよね。依頼に私も同行して良い?」
「ど、同行ですか」
思ってもみなかったことだ。美人とお近づきになれるなら喜んでと思ったが、ふと疑問に思う。
今日1日暇になってしまったとさっき聞いた。
とはいえ、何で俺に着いてくるなんて言い出したんだろう?
「あの、ソフィアさん。何で着いてきていただけるんでしょう?」
冒険者証を見るかぎり、彼女は中級冒険者だ。
同行してもらうと、こちらのメリットが多すぎるのに比較して、ソフィアさんは何も得るものが無いように思える。
「うーん、暇だったのが1つ。それに私、パーティーメンバー募集中なのよ」
そう言って悪戯っぽくウインクして見せるソフィアさん。なんだか最初の印象よりだいぶお茶目なところがあるようだ。
「あれ?お父さんとパーティー組んでるんじゃ?」
「もう引退したいんですって。ここの初心者ダンジョンに来たのも、最後に安全に一稼ぎするためなのよ」
おじさん曰く、老いを感じてから辞めるようじゃ遅いらしい。
まだ体が動く内に近くにある故郷の村に帰り、貯めた資金で農地とその他諸々を揃えて、悠々自適な老後を過ごすそうだ。
幸いにして貯金はかなりあるみたいなので、ほどほどに裕福に暮らせるだろう。
ここで少々の狩りを終えたらそのままこの街で解散する予定だったらしい。




