広々厩舎
「お優しいんですね」
「ふん、安く雇って金を巻き上げとるだけじゃ。それよりも、テイムしたモンスターはここに住まわせると良い。流石に爪や牙があるモンスターを部屋には上げさせられんからの」
案内された馬屋は殆どが空だった。
馬が1頭とデカイ蜥蜴っぽい爬虫類が1頭。埋まっているのはその2頭分だけで、残り6つほど空いているスペースはがらんとしていた。
しかし、指差された先はその空いているスペースではなく、厩舎の中でも区切られて扉が付いている空間だった。
簡素な仕掛けのドアを開くと中はかなり広かった。
床には藁が敷いてあって外のスペースとの違いはない。
具体的な広さを表す表現はパッとは思い付かなかったが、今泊まっている部屋よりは確実に広い。
ここを狼2頭だけで占拠していいのか。そんな思いを込めてグランバルさんを見る。
「ここは元々、お前さんのようなテイマー用に設けてあるスペースじゃ。言っとくがただじゃないぞ」
「幾らくらいになりますか。後、餌はどうすれば?」
そう聞くと逞しい腕を組んで、考え込んでしまった。
「あのぉ?」
「いやな、馬屋の使用料は1週間で4万ゴルディンなんじゃが、これは寝床の藁はもとより、飼い葉代も含むんじゃ。草食の魔物ならそのままでもいいが、テイムする予定なのは狼じゃろ?」
「はい、その予定です」
「なら解体場を頼るんじゃな。彼処で出る解体後の内臓類は、魔物なら喜んで食うぞ」
「あ、はい。分かりました」
ダンジョンの魔物の内臓は旨くない。
魔力が作用するとも、ダンジョン内の特殊な環境が影響するとも言われているが、どこを食べても苦味を感じてしまうのだ。
利用方法は薬の原料になるものが一部あるくらいで、殆ど捨てられてしまう。
だが、どういうわけか人間以外の種族には好んで食べられる。狼もホーンボアの内臓ならガツガツ食べるだろう。
「貰ってきたら火を通して与えるんじゃぞ。調理場には話を通しといてやろう。いくら狼でも古い内臓は不味いかもしれん」
確かに、この世界で獣医師を見つけられるとは思えない。回復魔法や回復薬ならあるいは効くのだろうか。
「はい、よろしくお願いします」
「餌を自分で調達するなら、この部屋は週に2万でいい」
その条件なら十分に払っていけるだろう。
「それじゃあとりあえず1週間お願いします」
「それはデルバードに言うんじゃな」
そう言うとさっさと厩舎を後にしてしまう。恐らくさっき注文した蒸留酒を飲みに戻ったんだろう。
俺も踵を返してカウンターに向かった。その奥で待ち構えていたマスターさんに、1週間分の利用料を払う。
ついでにもう晩御飯は食べられるか聞いたところ、大丈夫だということなのでフロイトと2人、さっそくテーブルについた。
当然のように日替わりを頼んだが、今日は初探索記念ということで、お酒を頼んでみた。フロイトにも薦めてみたところ、遠慮がちに俺と同じものをと頼んでいた。
運ばれてきたのは、煮込み料理だった。ゴロゴロとした肉塊が皿の中で自己主張をしている。
かなりの威圧感で圧倒されたがスプーンで口に運んでみると、その豊かなコクと柔らかくホロリと崩れる肉が絶品だった。パンとか浸して食べちゃう。
一緒に頼んだお酒はミードだった。なにげに転生後の初飲酒である。この世界の飲酒は年齢に縛られていない。稼げるようになったら飲み始めるという感覚だ。
蜂蜜酒は始めて飲んだが、甘口の白ワインのような口当たりだった。甘味よりも酸味が少々強く感じられたが、料理にも良く合い、美味しく頂けた。
フロイトはよほど気に入ったようで、飲み干してしまったジョッキを名残惜しそうに眺めていた。
追加で1杯注文したときには、自分の分ではないと思ったのか、より瞳に哀しみが宿った。自分の前に差し出されたジョッキを見て憂いは消し飛んだようだったが。
とはいえあまり強くはないようで、2杯で気持ち良くなっていたので自分の足で帰れるうちに部屋に戻ることにした。
フロイトを背負うのに是はないが明日の朝、顔を真っ青にして謝られるのはごめんだ。




