宿で反省会その2
「シルトガ、トリオサエタアトノ、タイオウガ‥‥」
やはりそこか。
俺が魔法で勢いを殺し、シルトが取り押さえるところまではスムーズにいく。
だが、その後に致命傷を負わせるのが難しい。
その体格に見合った膂力と体重でホーンボアを逃がすことはないシルトだが、完全に動きを止めることは出来ず暴れられてしまう。
首を抱えるか、地面に押し付けて拘束することになるが、四肢のどこかが地面につけばホーンボアはあらんかぎりの体力で拘束を解こうと暴れる。
そうすると素人槍使いのフロイトでは狙った場所に攻撃を当てることが出来ず、仕留めるのに時間がかかってしまう。
だがこれには、簡単な解決策がある。とりあえずがむしゃらにグレイブを叩き込んでやればいい。
「フロイト、価値が下がるのは気にしないようにしよう。とにかく傷を付けて、弱らせて仕留めるんだ」
「デスガ‥‥」
「今回は俺の指示が悪かった」
実は冒険者ギルドからダンジョンへの道すがら、フロイトには作戦説明を兼ねて金になる部位、つまりは傷を付けて欲しくない場所を指定していた。
背中や後ろ脚などの肉としての価値が高いところは避けて、心臓や首を狙うよう言い付けていたのだ。
結果的にフロイトはその部位を傷付けることを嫌い、消極的にならざるを得なかった。
これが槍を使い始めて3年目の戦士に要求しているのなら妥当だが、グレイブを昨日初めて握った初心者では荷が勝ちすぎる。
「とりあえずは、戦い方に慣れることを目標にしよう。安全第一だ」
「ワカリマシタ‥‥」
自責の念があるのか、なんとなくしょんぼりとしたように見える。もう少し補足しておくか。
「首や心臓を狙えという指示が悪かったんだ。多少価値が落ちても、仕留めるスピードを上げた方が安全に多く稼げるはずだよ」
俺たちは初級冒険者だ。聖人の腰袋のお陰で多くの獲物を持ち帰れる以上、収入が足らずに干上がることもない。である以上、安全マージンは取りすぎるってことはないのだ。
フロイトも納得したようだし、明日からの行動予定を話し合おうとすると、フロイトから質問が入った。
魔法についてである。
ダンジョンに入る前に簡単には説明してあるが、自分が使える魔法について詳しくは話していなかった。
今になって思えば、ダンジョンに向けてかなり前のめりに進んでいたように思う。
今日何度目かは分からないが、よく考えて行動しようと反省する。
俺の使える魔法は、現在5種類ある。
風の刃を飛ばす『ウィンドエッジ』
風壁で飛び道具や敵を止める『エアシャッター』
爆発的な突風を巻き起こす『エアブラスト』
武器に風の魔力を付与する『エンチャントウィンド』
そして、俺の切り札でもあるユニーク魔法『鎌鼬』
最初の2つは今日使って見せたので大体どんなものかは分かるだろう。残りの3つについて詳しく説明していく。
エアブラストは突風を前方方向に巻き起こす。どちらかというと、点よりも面の攻撃魔法だ。
籠める魔力によるが人なら吹き飛ばしてしまえるほどの威力がある。
エンチャントウィンドは武器に使う魔法だ。
ただの武器を一時的な魔法武器にできる。効果は魔力による強度の上昇、風の魔力で切れ味が良くなる、血脂が付かず刃が鈍らない等がある。
メイスと相性が悪いので練習でしか使った事がないが、フロイトのグレイブには有効だろう。今度試してみよう。
最後に教えるのは、今日使ったウィンドエッジとエアシャッター、そして今説明した2種類の魔法とは少し違う。
ある程度属性魔力を修めると、自身で魔法を作り出すことが出来る。それがユニーク魔法だ。
各々の経験や知識から編み出されるそれは、唯一無二の切り札となる。
前世の伝承から発想したユニーク魔法の鎌鼬。
風の魔力で象った、尾の先が鎌刃になっている鼬を作りだし、敵に殺到させる。
注ぐ魔力によって3匹まで出現させることができる。追尾もする。
敵を仕留めるか散らされるまでは攻撃し続けるので、かなり厄介な魔法だと思う。相応に魔力消費も大きいけど。
そこまで説明すると、フロイトが自分も魔法は使えるかと聞いてきた。
無理じゃないだろうが、長い訓練がいる。ちょうどいいから魔法の基礎知識やテイムモンスターの事について教えておこう。




