解体場
解体場の中は広く、採光用の窓と開け放たれた扉のお陰で明るかった。
建屋の壁面高くに設置された鎧戸は、開け閉めが大変そうだなと見上げていると、声がかかった。
「おいあんちゃん、邪魔だから退いてくんな。受付ならあっちだよ」
でかい肉切り包丁とロープを引っ提げて、通りかかった職員らしきおじさんに怒られてしまった。
入ってすぐに立ち止まっていた俺が悪いので、さっと頭を下げて包丁で指された受付らしき大テーブルの方へと移動する。
「どうも見ない顔だな、新顔かい?」
テーブル近くまで行くと、向こうから声をかけられた。
恵比寿顔のニコニコした表情だが、身体はがっちりと鍛え上げられている。
胴体は解体用の前掛けで隠れているが、その太い腕と張り出した肩が、普段から力仕事をしていることを物語っている。
「ここの指揮をしているボールドだ。獲物があるなら教えてくれ」
そう言って隣の大きなテーブルを指し示した。
「えっと、ホーンボアが11頭殆ど丸々あるんですが」
どうにも机に乗りきるか怪しかったので、そう切り出してみた。
「11ぃ?あんた新人じゃないのか?見たところ冒険者証も持っていないようだが」
ボールドさんは訝しげにこちらをみる。
「はい、今日は仮登録のクエストを受けてダンジョンに行ってきました。角が3対必要なんですが」
とりあえず、ホーンボアを5体ほどテーブルに乗せる。軋みもしないってことは相当頑丈に作られているらしい。
こことギルドの方の受付は連携しているんだろうか。
ここでホーンボアを提出すれば、クエストクリア扱いにならないかな。
「うーん、こりゃいわゆる当たりの新人って奴だな。よっしゃ、残りも似たような状態だな? 残りはこっちに出してくれ」
そう言うと、近場の石床を指し示した。
素直に指示に従う。ついでに獲物の状態を伝えておく。
「後の6体はこちらですね。その内2体は、まだ内臓を抜いてません。血抜きは全部してあるはずです。内臓を抜いてある9体は、魔石を回収済みです」
テーブルの端にゴロゴロと魔石を乗せる。
全部で幾らになるか、1度すべて出して計算してもらおう。
「傷は金になる後脚や背中の肉を極力避けているし、内臓の処理も充分だ。胃やらなんやらを傷付けて、周りの肉をダメにしたって訳でもねぇ。お前さん、親は冒険者か猟師かい?」
出したホーンボアの状態を検分していたボールドさんが、こちらを横目に聞いてきた。どうやら誉められているようで嬉しい。
「いや、親は商会をやっています。10歳の祝福から5年間いろいろと学ばせてもらったんです。解体は地元の肉屋で教えてもらいました」
「へぇ?金持ちのお坊ちゃんか。まぁ努力の跡は仕事にも見えるし、バカにはしないがね。このベッコリ凹んだ肋は誰がやったんだい?あんたでも後ろのゴブリンでもないのは見て分かるが」
彼の目付きは何かを勘繰るように、俺とフロイトの間をさまよう。
「自分は使役術の他に、召喚魔法も使えるんです。その傷はうちのソイルゴーレムが入れた一撃の跡ですね」
その目付きに薄々何かを感じながらも、淡々と事実を述べた。流石にここにシルトを召喚して見せるのはやり過ぎだろうか。
「なるほど、疑って悪かったよ。てっきり金持ちの道楽で、護衛付で冒険者ごっこしてんのかと」
そう言って両手を上げるボールドさん。表には出さないように気を付けていたが、やっぱり不機嫌な気持ちが伝わってしまっただろうか。
でも苦労した分、本当に自分で倒したのか疑われたら、嫌な気持ちにもなる。
まぁ、疑うボールドさんの気持ちも分かるから、切り替えてお金の話をしよう。




