帰り道
鉄製の扉を引き開ける。
薄暗いダンジョンから、昼過ぎくらいの元気な太陽のもとに躍り出て、陽光が目に突き刺さる。
「お帰りなさい、クエストは完了できましたか?」
入るときに会話した兵士さんがこちらに声をかけてきた。返り血を見て少し視線が鋭くなったが、こちらに怪我がないのを確認すると優しい目になった。心配してくれたようだ。
「はい、11頭ほど倒してきましたよ。少し深入しすぎました」
やはり、少し調子に乗っていたようだ。3頭倒した段階で一旦引き返すのが、正しい判断だったように思う。
「将来有望ですねぇ、羨ましい。それで、5千ゴルディンですが洗浄しますか?」
「へ?」
洗浄?どうゆうことだ?
「ああ、ご存知ないのですね。国の意向で、ダンジョン前の衛兵は洗浄スキルを持つことが多いのです。サービスではなく、街を汚されないためだとか」
それはありがたい。正直この殺人鬼みたいな格好で街をうろつくのは避けたかった。特にフロイトは近くでグレイブを振るっていたこともあり、まさに悪鬼のような見た目になってしまっている。
「ありがたいです。お願いします」
そう言って財布から銀貨5枚を差し出す。
結構な出費だが、この生臭い不快感との決別はその価値がある。
まさか、猪11頭分の肉がそれより安いこともあるまいし。
「これで汚れは落ちましたよ」
俺、フロイトの順に洗浄を受ける。手をかざして兵士さんが魔力を注ぐのを感じると、表面の血糊がざらざらと剥がれ落ちた。鎧下や聖人の腰袋に染み付いた血痕まで砂のようになって落ちていく。原理は分からんが、スキルすごいですね。
「ちなみに、冒険者ギルトで洗浄を頼むと、2千5百ゴルディンです」
そう言ってニヤついている兵士さん。
でも俺としては、一刻も早く血糊を落としたかったので、むしろここで汚れを落としてくれてありがとうとしか思えないな。
「へぇ、そうなんですか。今度聞いてみますね」
「うーん、騙しがいが無いですねぇ。普通の初級冒険者たちは騙されたって怒り狂うんですけど。まぁ11頭もホーンボアを狩れるなら、銀貨5枚は必要経費に十分収まりますか」
こちらの平然とした態度をみて、少し残念そうな態度をとる。そして先ほど渡した銀貨の内、4枚をこちらに返してきた。
「あの、これは?」
「仮登録の人は銀貨1枚となっているんです。今回のクエストで本登録になれば、5枚いただきますね。いやぁ、こうやって新人の方を驚かせるのが、この仕事の唯一の楽しみでして。すいませんでした」
これはひどい。いい趣味してんなぁ。
楽しそうに笑う兵士さんに、後輩には内緒にしといてほしいと頼まれた。兵士が暇なのは平和で結構なことだが、なにも知らない新人をオモチャにするのはいただけないなぁ。
苦笑いしながら受け流してその場を後にする。
少し歩くと、すぐに城門だ。
とりあえず冒険者ギルドに向かう。
今日は午前中に諸々の雑事を済ませ、午後からダンジョンにいく予定だったが、何だかんだと買い物も冒険者ギルドもさっくりと用事が終わってしまい、ダンジョンですら実際に中にいたのは2時間半くらいだった。
ここいらで軽く昼御飯にしよう。
街の中心部、人通りが多くなるにつれて辻に屋台を見かけるようになる。五徳のようなもので鍋を煮るおばさんや、網焼きの肉を売るお兄さんが懸命に客引きをしている。
とりあえず、パンに焼肉を挟んだものをフロイトと食べる。フロイトのは肉を大盛りにしてもらった。
肉はホーンボアのものらしいが、血抜きが甘かったのか少し臭みがある。まぁ、この世界の食肉は8割が魔物産の肉なので、屋台にしては上等な部類だ。
商品としての小売り値と、獲物としての卸値では比べるべくもないが、幾らになるか期待しつつギルド脇の解体場に足を踏み入れた。




