初めてのダンジョン
それは、昔童話で読んだホビットの家のようだった。なだらかに盛り上がった小さな丘に、鉄製の洞窟の直径ぴったりな扉がついている。
周りを見渡せば畑になっていて、ちょろちょろと冬野菜が植えられているのが分かる。昨日の根菜スープや、朝のサラダなんかはここで取れたものだろう。詳しくは知らないがもうすぐ春だとはいえ、葉野菜は農業系のスキルがなければとても育てられないんじゃなかろうか。
もはやスキルは完全にこの世に根を張っている。
場違いにも見え、変わった農具置場だと言われても納得しそうな牧歌的な風景の中に、ダンジョンの入り口はあった。
側には金属鎧姿の兵士が立っていて、異様さに拍車がかかっている。彼らはこの街に駐屯している国軍の兵士だろう。
ダンジョンが溢れないように見張るのは国軍の管轄だ。暇そうだけど。
「すみません、冒険者ギルドのクエストで来ました。中に入ってもよろしいでしょうか」
「冒険者に‥‥フル装備のゴブリンですか。テイマーなのですね。では、冒険者証を拝見します」
おっと、冒険者証がいるのか。ギルドではまだ何も受け取ってないけど、どうしよう。
「すいません、仮登録のクエストなので冒険者証は持っていないんです。どうすればいいでしょうか」
そう言って受付で貰った木片を見せる。
「ああ、なるほど。それでしたら自分の方で覚えておきます。冒険者証を提示してもらっているのは、中に誰が入って誰がまだ中にいるのか把握するためです。一応名前を聞いても?」
「グラムといいます。どれ程潜るかは決めていないんですけど、大丈夫でしょうか」
クエストでダンジョンに入った冒険者が未帰還と判断されるのは入ると宣言した日数から3日ほど過ぎてからだ。
この初心者用のダンジョンですら泊まりがけで攻略する必要があるため、上級ダンジョンでは1週間以上も潜りっぱなしで攻略することもあるらしい。
とはいえ、まともな宿泊装備すらないし、魔物が近寄らないというセーフエリアすら把握できていない。
必然的に、しばらくは日帰りになるだろう。
「大丈夫ですよ。仮登録のクエストということは日帰りですよね?自分は日没までここで職務に当たっていますので。ではお気を付けて」
そう言うと、重そうな手つきでダンジョンの扉を開く。
国軍によって後付けされたこの扉は、ダンジョンから魔物が溢れた時に閂をかけて魔物の放出を防ぐためにある。
まぁあっという間に突破されていくと思うが、近くで農作業に従事する人たちが城門に駆け込める時間を稼げればいいのだろう。
いよいよ人生初のダンジョン攻略開始だ。俺の考えが正しければ、そこまで苦戦はしないはずである。とはいえ油断すると一瞬で命を落とすのもダンジョンだ。
今日は問題点を洗い出すくらいの気持ちで、慎重に立ち回っていこう。
ぽっかりと空いた穴を進めば、奥がぼんやりと明るく見える。ダンジョンの壁面が放つ淡い光が洞窟内に満ちていた。これのお陰で冒険者も魔物も視界を確保できている。不思議物質だが鶴嘴等での採取は出来ないようになっていて、低層の宝箱からドロップすることはあるようだ。
光量は少ないが常に光り続けるので、街灯として夜の街を淡く照らしている。前世の電灯よりはかなり暗いが、防犯の役割としては充分だろう。
そろそろシルトを召喚しておく。本当は入り口の時点で召喚するべきだったかもしれないが、早く進みたいという気持ちが、体を前に前に押し進めてしまう。
これはいけない。敵とぶつかる前に自覚できただけよしとする他ないが、反省はあとにしよう。
陣形を組み直し、シルトを正面に据えて右後ろにフロイト、左後ろに俺を配した。
俺のメインポジションが後衛といっても、数が3では後ろに下がりようがない。
この前考えたメインタンクにシルト、サブタンクにフロイトをという構成は実際に動いてみると、やる前から破綻していた。せめてもう1体モンスターを従えられれば、後ろに下がりやすいのだが。
初戦闘が起こったのはさらに5分ほど進んだ時だった。




