簡潔なルール
「そんなわけでよ、坊っちゃんも絡まれねぇように気を付けなよ。あんまりにも理不尽じゃなきゃ、周りも一段落つくまでは手を出さねぇのが暗黙のルールになってっからな」
そう言ってまた笑いだしたおじさんに礼を言って、ギルドの受付の方に歩いていく。
なかなか気のいいおじさんだった。
今度話す機会があれば名前を聞いてみよう。
それにしても一緒にいたお姉さんはパーティーメンバーだったんだろうか。こちらに微笑みかけてくれてドキッとした。
正直好みにドストライクの女性だった。歳は20才くらいに見えたけど、背が高くて肩口くらいの赤髪でスレンダー。
微笑んだ時の優しげな目が頭を離れない。
扉を開けてからのインパクトが強すぎて、若干ふわふわした心持ちのまま受付の前までたどり着いてしまった。
痩躯の職員が話しかけてくる。
「おはようございます。どのようなご用件でしょうか」
聞かれた内容は事務的で、冒険者ギルドが役所的な機構だと印象付けられる。
答える言葉は決まっていた。
「冒険者登録をしたいです」
「はい、では簡単な質疑に答えていただきます。ハイかイイエでお答えください」
どこまでも事務的な声がかかる。
「今までに犯罪を犯したことはありますか」
「いいえ」
「犯罪組織との繋がりはありますか」
「いいえ」
「今後、この国の法とギルドのルールに従うつもりはありますか」
「はい」
「ギルドの不利益となる行動は慎むと誓いますか」
「はい」
「以上になります。では仮の冒険者証を発行いたしますので、お名前をお教えください」
「グラムです。あの、登録の審査とかって無いんでしょうか」
質問4つではあまりに簡潔のような気がする。
痩躯の職員は手元を動かしながらこちらを一瞥し、めんどくさそうに答える。
「これは仮登録ですから。本登録では出自や持っているスキルを冒険者ギルドの方でも確認します」
なるほど、今まで教導を頼んだ冒険者たちも、仮登録後に実力を示して初めて冒険者証が発行されるって言っていたな。
職員はさらに続ける。
「今の質問はギルドの基本的なルールの説明です。法を犯すな、ルールを守れ、無関係の厄介事を持ち込むな、この3つだけは覚えておいてください」
「えっと、細かいルールとかは‥‥」
「貴方はどうか知りませんが、大抵の初級冒険者の方々は此方の説明なんて1割だって聞いてくれませんので。問題が起こったら、その都度ギルドルールをお伝えするという形をとっています、規則書自体は纏めてありますので読みたければお声がけください」
「そ、そうなんですか。今まで話したことのある人たちは、ちゃんと此方の話を聞いてくれる人が多かったですが」
実家で稽古をつけてくれた冒険者たちは、まだ身体が出来ていない俺をこてんぱんに叩きのめしながらも、しっかりと筋道を立てて指導してくれたし、此方の目標についての相談も受けてくれたので、話を聞かないという印象がない。
「どのような方達でしょう」
「行商の護衛をしていた冒険者の方に稽古をお願いしたのですが」
こちらには一瞥もくれず職員は疑問に答えてくれた。
「おそらく中級以上の方に頼まれていたのではないでしょうか。そのレベルからは合同依頼も増えますので対応力も高い方が多いです」
「なるほど」
組手を依頼する冒険者は父の伝手で引き合わせてもらっていたが、しっかりと選んで紹介してくれていたようだ。
「はい、仮登録が完了しました。それではグラムさん、登録試験のクエストを開始します」
そう言ってカウンター越しに木片が手渡される。
そこには『ホーンボアの角を3対』と書かれていた。




