ゴブリンの行水
部屋に入る前にまずは身体を洗いたい。さっき小言をもらったフロイトはもちろんだが、俺だってこのままベットに飛び込めるほど綺麗じゃない。
「すいません、さっそくなんですが身体を洗える場所はありませんか?あと、出来れば桶とお湯を貸していただきたいです」
「裏手に宿に備え付けの井戸があってね。お客さんが使う水回りはそこに纏めてあるよ。簡単な目隠しもあるから身体を洗うなら使ってくれ。桶とお湯なら調理場からもらって欲しい、代金は部屋代に含まれてるから気にしなくてもいい」
さて、もらったお湯を持って宿の裏手にある水場まできた、さっそく身体を洗いたい。
一度水を被った後、フロイトにも石鹸を渡して汚れを落としていく。ゴブリンは水で身体を洗う文化が無くてフロイトも泥で寄生虫や蛭を付けないようにする泥浴びしかしてこなかったらしい。
そもそもこの世界でも水辺ではよく動物や魔物が水を求めてやってくる。野生の世界でもゴブリンは特に強いわけでもないので、そんなところで悠長に水浴びなんかしてたら他の魔物のエサにされてしまうだろう。
不器用ながらも手で石鹸を泡立てて身体を洗うフロイトだが、いままで溜めに溜めた垢がそんなに簡単に落ちるはずもなく、苔むした岩のようだった肌が新鮮な胡瓜ぐらいの質感になるまでに拳ほどもあった石鹸が一回り小さくなってしまった。
もうそろそろ春とはいえ流石に日も落ちてきて気温が下がってきていた。
身体を拭った後手早く服を着る。
フロイトはとりあえず厚手の服と言い張れなくもない鎧下を着てもらっているが、明日はまず冒険者ギルドの前に雑貨屋で古着を見繕うところから始めるべきのようだ。
さっぱりした俺たちは調理場に桶を返して部屋へと向かった。とりあえず簡単に荷物の整理をしようと思ったが、聖人の腰袋のお陰で殆どすべての荷物は手荷物にすらならない。わざわざ袋から出して並べる必要もないので、夕食まで特にすることがなくなってしまった。
明日の予定でも考えておこう。
明日はまず、雑貨屋に行ってフロイト用の生活用品を揃えよう。さっきの石鹸のように供用できる物もあるけど着替えやナイフなんかの個人で持っておいた方がいい物もあるし。その後で冒険者ギルドで登録をして午後からはいよいよ初のダンジョン攻略に乗り出そう。
そんなふんわりとした行動計画を練っていると一階からうまそうな匂いが漂ってきた。意識してしまえば腹も減ってきたので、グレイブとメイスを並べてニヤついていたフロイトを連れて一階の酒場へと降りていった。




