酒場 肉の宮
思ったよりも時間が掛かったので足早に移動する。
まだ日が傾くような時間ではないが、もう一軒道具屋に回ったり早めの晩飯をとろうものならおそらくあたりは真っ暗だろう。
過去の著名な旅人はこう残している。
『飯より宿』
この原則が守れないと真っ暗いなか延々宿を探し回ったり、道端でテントを張る羽目になる。ここをキャンプ地とするわけにはいかない。
今俺が向かっている宿屋は、肉の宮という酒場である。二階部分が宿屋になっているようで、教えを乞うた冒険者たちが口を揃えていい宿だという。
いわく、飯がうまい、手頃な値段、冒険者が多いから煙たがられない、つぶれるまで飲んでも気がつくと部屋にいる、酒場は死ぬほどうるさいが珍しく消音の魔道具があるので宿部分は静か、等々。
問題はあいているかだが、まぁそこは行ってみないとわからない。人気があるみたいだし、満室も覚悟していよう。
たどり着いたのはかなり大きめの酒場である。時間も早いのでテーブルは疎らにしか埋まっていないが、すでにできあがっているのがなん組か見える。
宿屋の受付っぽいところはないのでバーのカウンターの奥にいるマスターっぽい人に話しかけてみようと思っていたら、向こうから話しかけてくれた。
「いらっしゃい、お客さんみない顔だが泊まりかい?それとも酒と飯かい?」
「すいません、とりあえず3泊ほど泊まりたいです。あと、いくつか確認させてもらってもいいですか?」
そう言うとマスターは右手を広げて見せた。なんなりとお申し付けをって感じでカッコいい。
「見ての通り私はテイマーなのですが、テイムモンスターの扱いはどうなるのでしょう」
「後ろのゴブリン君ならまぁ部屋に泊めてもいいよ、汚れが目立つから一回体洗ってからだけど」
特に言及してなかったが、今のフロイトは今朝まで野生のゴブリンとして生きていたので野生生物らしいワイルドな汚れと臭いを身に纏っている。
特に町中で誰何されなかったのは、街の住人でもこのくらいの臭いをさせている人間がたまにいるからである。
この世界にナイチンゲールはいないが俺のような転生者が衛生観念を伝えているのでみんなそこそこ身体をきれいに保とうという意識はある。しかし、身体を拭うお湯よりも一杯の安酒に重きを置く労働者も一定数いて、多数派からは当然の如く嫌われている。
「すいません、今日テイムしたばかりなんです。後で水場をお借りします。それと、1泊の料金を知りたいです」
「一泊は素泊まりなら一人8千ゴルディン、朝晩二食付きで1万ゴルディンだよ。10日以上の連泊なら割引もしてるから検討してみてくれ。あ、それと一応言っておくけどゴブリン君も一人としてカウントするよ」
連泊割引、そういうのもあるのか。
とりあえず二食付きで3泊分の宿泊費を2人分払い、鍵代わりのつっかえ棒を受け取る。前は全部の部屋にかぎがついてたらしいけど、真鍮製の鍵が盗まれ出してから一番高い部屋以外はつっかえ棒を使っているらしい。




