説明会in謎の部屋
「はい、いらっしゃい」
そんな軽い挨拶に驚き顔を上げた。
今の今まで、火事場の馬鹿力まで総動員して踏ん張っていたのに、酸欠で霞んだ視界がクリアになり急激に現在のイスに座った状態になったら驚きもする。
はっきり言って何も考えられない極限状態からの落差でパニックの極致である。鼓動は早く、息があがってくる。
不安で心がはち切れそうだ。
「ゆっくり深呼吸しなよ、5分くらい待ったげるからさ」
困惑しながらも、言われた通りにしてみる。
相変わらず軽い感じだが、相手の余裕の態度と息が整ったことでとりあえずの危機は去ったと悟る。
5分ほど待ってもらっている間に周りを見渡してみた、といってもなんのことはない。
事務机と簡素な椅子にいかにも安価な壁材のみの一室だった。
いや、1つ特異な点がある。
この部屋には扉がない。
四方を壁に囲まれた部屋なんて表現は、たまに読むがここまで文字通りでは無いだろう。
あまりに殺風景で異質な部屋に疑問と不安を感じていると目の前の男が話し出した。
「さて、落ち着いたみたいだから説明に移るよ?」
そう言ってこちらの返事も聞かずに現状の説明に入った。
その男によると確かに俺は死んだらしい。
死因なんかの説明は省かれたが、まぁどう頑張ってもあの状況からの生還は難しいだろうとは思う。
出血はしていなかったので、多分窒息死だ。
途中まではやり方はいくらでもあったのだろうが、ギリギリ過ぎて思い付く前にどうにもならないところまで追い詰められてしまった。
人はパニックになると、水溜まりでも溺死するらしいなんて眉唾な話だと思っていたが、存外冷静さを失った人間は脆いのだと知った。
目の前の男はクロムと名乗った。
その黒衣の男に神様なのかと尋ねたが、どうやらそれは違うようだ。
彼は罪人を自称した。
どういうことかと問うと、これは贖罪であり罰なのだそうだ。
生前に犯した罪を償うために働いているらしい。
詳しくは聞かなかったがずいぶん長い間ここにいてこれからもここにいるようだ。その行いが贖罪に繋がるらしい。
いろいろと聞いたが、あまり色の着いた返事は帰って来なかった。答えられないか、わからない話も多いようだった。
これからのことは今から説明すること、死んだ後のことは分からないこと、幽霊は実在することがとりあえず今の質問で分かったことだ。
そんなことよりも、今は自分のことだ。
どうやら問答無用で意識が消滅する訳ではないようだが、不安は尽きない。
「教えてください、俺はこれからどうなるんですか?」
緊張で声が震えた。
彼の言う罪とはどのような物だろう?
正直に言えば、警察に捕まるような悪事はしていないが、親に話せないような悪さにはいくつか覚えがあった。
墓の下まで持っていこうと思っていたがまさか墓の下でも逃げ切れないとは、悪いことはできないものである。
話は変わるがエッチな本の収集は、堕落の罪にカウントされるのだろうか。というか、あの本は誰が引き払うのだろう。
いや、考えないことにしよう。
下らない事だとは思うが、思い出したそれは死ぬより恐ろしいことであった。
「安心しなよ、地獄に行く奴は問答無用だから」
とても優しい、朗らかな笑顔でそう言われた。
恐らく、青ざめた理由を将来の不安だと思ったのだろう。
何の気なしに言われたが全く安心できない。
するとクロムはこれからの身の振り方を教えてくれた。