道中
「ウルフ系統ですか?そもそも訓練は対人の組手だけで、魔物と戦ったのは数えるほどです。ラット系統のウィードラットでした」
基本的に訓練は街の外に出て、行商の護衛として雇われて街に来ていた冒険者に、父の伝手で組手を頼んでいた。
小休止のような日が3日ほどあり、キャラバンが逗留するタイミングで頼むと暇潰しと小銭稼ぎに受けてくれる。父さんに教えてもらった。
かなりボコボコにされたが、しっかりと指導してもらえた。
料金は大銀貨二枚と、一泊朝食付きの宿に泊まれる程度だが、商会で(シルトが)働いたお金で十分賄えた。
またダンジョンの行程は長いと聞いてシルトと一緒に長時間歩く訓練もした。魔物と出会ったのはそんなときだ。
街の外をうろつく魔物は定期的に討伐されるが穴を掘って隠れるラット系はどうしても取りこぼしがでる。
俺が遭遇したのもそんな個体だろう。下草のような色のウサギ大のネズミで、草地でばったり鉢合わせたが簡単に追い払えた。
向こうもこちらを襲うつもりはなく、本当にばったりと鉢合わせただけだったんだろう。
使役術を試すか迷ったが使役した魔物は食費がかかるし、寝床も必要なのでシルトがいる今は必要ないと見送った形になる。
この移動で手頃な魔物がいれば使役術、テイムを試してみてもいいかもしれない。
「それなら、三体のステップウルフに襲われたらどうする?」
「うーん、シルト…ソイルゴーレムを前面に出して迎撃ですかね?」
「それだと後ろから隠れていたやつらに襲われるな」
「へ?ウルフ三体じゃないんですか?」
それ以外にもいるとなると、前提が崩れてしまう。
「魔物は分散して回り込んで囮役が引き付けるくらいやるぞ」
「でも、そんなこと一言も……あっ」
確かに言われていない。だが、こちらも確認をしなかった。
現実で3体のステップウルフに襲われたとして、俺ははたして後ろに仲間が回り込んでいる可能性を考慮できるだろうか。
「解ったか、まぁ今のは極端な状況設定だが、知らないというのはそれだけで危険だ」
「……はい」
「お前さんは、冒険者としての知識を冒険者から得たのだろう。それは正しい。だが、それは聞いた冒険者が生きて仕事を続けている以上、成功のみの物語だ」
確かに俺の知識はほとんどが組手をしてくれた冒険者達から聞いたものだ。死者に死因は聞けない。
「どんな立派な奴でも失敗談なんて語りたくないものだ。特に目を輝かせて聞いてくる駆け出し未満の子供にはな」
確かに、俺を指導してくれた冒険者たちの話は、苦労や山場、強敵は出てきていて、その対処法は教えてくれていたが、失敗談は含まれていなかった。
話は決まって『無事に依頼をこなせた』で終わっていた。
「じゃあ、俺はどうすればいいんでしょう?」
「そのための俺だろう?兄貴に感謝しておけよ。息子が旅立つ際に金や装備を揃えてやる親は多いが、知識まで贈られるのは珍しい」
「それは感じています」
親というか、家族からの愛は相当にもらっている自覚がある。
前世でも家族仲は良いほうだったが、今生は輪にかけて大切にされている。なんだか気恥ずかしい。
大袈裟だが、この信頼に答えて故郷に錦を飾りたい。
その前に年1で帰るから、不退転の決意って訳じゃないけれど。




