出発
「俺はカイル、見ての通り剣士だ。そんでこっちが…」
「ネリアよ、主に風と土魔法を使うわ。よろしくね?」
二人の先輩冒険者はそう名乗った。
やはり二人は夫婦らしく今は各所のダンジョンを巡っているようだ。
1ヶ所に止まらずに旅行を続ける流れの冒険者は一定数いる。
何処其処のダンジョンは稼ぎがいいとか、何処其処の森で魔物が増えすぎて、貴族が褒賞金を出している等の情報を元に、稼ぎのいい場所を転々として生きていくのだ。
拠点に落ち着けない風来坊気質という奴だ。
「行き先と金額は決まったがいつ出発する?こちらは今からでもかまわないが」
「そちらが問題ないならもう出発しよう。この時間に出れば明日の昼には隣街につくはずだから」
「了解した」
そう言って兄に乗車賃を手渡していた。こういった馬車に便乗する場合、先払いが基本である。
なんだかカイルさんの態度が変わった気がする。
プロとして雇い主と対応しているようだ。
実際にお金を払ったのはカイルさんの方だが、俺への教導で安くなっている以上、雇い主として対応するのが筋と判断したんだろうか。
こういう細かいところも学んでいきたい。上に行くには必要になりそうだから。
馬車は街の西門から隣街へ続く街道に進んだ。
この街は門の出入りに税をかけている。
商人や村からの訪問者が対象だが護衛の冒険者は、場所によるが免除される場合が多い。
街の外の魔物は定期的に間引く必要があるため、冒険者の身分を証明できればいいのである。
ではどうやって身分を証明するのか?
この世界にはファンタジー定番の冒険者ギルドがあるのである。
ギルドという響きだけで胸が踊るのは自分だけだろうか。
この世に生まれて15年、記憶を取り戻して7年だが、いまだにこういうのは興奮してしまう。
冒険者ギルドと言っても全ての街や村にあるわけではなく、王都のような都市部とダンジョン近くの街に多い。
そこで一定の依頼をこなせば鉄板にギルドの名前が彫られたドックタグのような札が貰える。
それが冒険者の証明になる。
故郷の街は交通の要所で物流は盛んだが近くにダンジョンはなく、辺りをうろつく魔物もそれほど強くない。
ゆえに冒険者ギルドもなく冒険者と言えば護衛として商人たちと流れてくるのがほとんどである。
それほど冒険者の数がいないので、周囲の魔物は主に衛兵と領主様の私兵と騎士の合同軍で間引いている。
馬車に揺られながら進む道は平和そのものであった。
周囲の警戒を魔法使いのネリアさんに任せて、俺はカイルさんに冒険者のいろはを教えてもらっていた。
「んじゃ、先ずは基本からだな。冒険者に一番必要なのはなんだ?」
「観察眼と逃げ足ですよね?」
「はっ、またずいぶんと教本通りの答えだな」
「違うんですか?」
「違わねぇが、正しくもねぇな」
「と言うと?」
自分は何かおかしなことを言っているんだろうか。カイルさんの目は、まるで悪戯っ子のように笑っていた。
「確かに異変に気づく観察眼は大事だぜ?それにそれから逃げる足もな」
「はい」
「だが、それを判断するには先ず知識が必要だ。それも実体験に基づく知識がな」
「実体験ですか?」
「ところでお前さんは、ウルフ系統の魔物と遭遇したことはあるか?」
突然の話題転換に驚いたが、これも教育だと思って素直に答える。




