上下関係
奴隷商館を出てすぐにロベルトさんとソフィアさんとは別行動となった。
新たに奴隷となった家族に宿と食事を用意する為だ。
ソフィアさんとは、とりあえず明日朝にギルド集合してダンジョン探索をする予定で集合することにした。
俺もエレメシャさんの宿を確保するために、肉の宮に向かっていた。
「肉の宮ですカ。懐かしいですネ」
「泊まったことがあるんですか?」
「エエ、前の主人はテイマーで多くのモンスターを抱えていましたので、ガラガラだったあの宿の厩舎を使わせてもらうために泊まっていましタ」
「じゃあ、エレメシャさんも普通に泊まれそうですね」
「冒険者も多いので、必要以上に恐れられなくて過ごしやすいですしネ。フロイト殿も食堂に居ても睨まれたことはないでしょウ?」
「トクニカンジマセン」
「この街じゃ冒険者向けの店じゃないと、モンスター連れではなかなか入れないんですね」
「いえ、グラム様はお気になさらず自由に動かれて構いませン。部屋で待つなり、先に帰るなりでいくらでも対処出来ますのデ」
そう話すエレメシャさんは何て事もないように話すが、フロイトにはとても洗練されて見えたようで、尊敬の眼差しを向けている。
初めて会って挨拶してからフロイトは、ずっとエレメシャさんを観察していた。
それはこれから仲間になる彼の力量を知るためであり、警戒でもあった。
その証拠にフロイトは会った当初、エレメシャさんと私の間に体を入れていざとなったら俺を守るつもりのようだった。
俺としては既にテイムで魔力パスも繋がり安定しているので不安はないのだが、その心意気が嬉しいので好きにしてもらっている。
エレメシャさんもそれは分かったようで、1歩下がった位置から話しかけるようにしていた。
だが、話ながら宿に向かううちに大分打ち解けたようで、ぽつぽつと会話に交ざるようになってきた。
「そういえば、ずっとあの檻の中にいて体力とかは落ちてないですか? 明日は慣らしも兼ねてダンジョンでホーンボアを狩ろうと思ってるんですが」
「檻の中でも出来ることは続けていましたが、確かにスタミナは落ちているかもしれませんネ。ですが、大丈夫ですヨ」
「ナゼデスカ?」
「リザードマンと人では基礎の体力が違いますからネ。上級冒険者のような隔絶した実力者でない限り、まだ今の私の方が体力あると思いますヨ」
そんな話をしつつ、肉の宮に入りエレメシャさんの部屋を取り直す。結局2人部屋と1人部屋を取り直したが、モンスターの2人が同室で俺が1人部屋になった。
エレメシャさんが支配人のデルバードさんと顔見知りだったため、モンスターだけでも泊めていいと判断したからだ。
部屋に戻る前にお湯を貰って3人で井戸に行き、体を洗う事にした。エレメシャさんは久々の行水で嬉しそうだったが、理由を聞けば納得だった。
元々は半水性の生態であるリザードマンは水を好むが、奴隷商館の檻の中では望むべくもなく、体を拭く布と手桶が支給されるのみだったようだ。
キャラバンにいた頃は体を拭く水も無いのは良くあることだったが、その代わり街の中では清潔を心掛けていたので、近場に水もあるのに行水が出来ないのはストレスだったようだ。
行水中に話し合ったのはテイムモンスターの序列についてだ。
今後もテイムモンスターはどんどんと増やしていくつもりであり、その全ては俺の配下として従って貰うが、その中でも上下関係をつけた方が良いというのがエレメシャさんの意見だった。
モンスターは人語を解する知能を手に入れても腕力主義者なのは変わらず、強い者が偉いという発想が罷り通る。
しかし戦略的思考や指揮能力は、力の強さとは別次元の物であるので、今のうちに人型テイムモンスターの序列を確定させておこうという話だ。
「では、フロイトさんの指導は私が引き受けますネ」
「ヨロシクオネガイシマス」
少々揉めるかと思ったが、すんなりと序列は決まった。
俺としては数日とはいえ先に俺のテイムモンスターになったフロイトが上の立場を主張するかと思ったのだが、そんな懸念を一蹴するようにフロイトはスッと頭を下げた。
経験、実力共にエレメシャさんには遠く及ばない事を自覚したフロイトは、パーティ全体の利益を考えてエレメシャさんの下に着く事にしたようだ。
「それからグラム様、1つお願いガ」
「何ですか? エレメシャさん」
「私をさん付けで呼ばないでいただきたいでス。後、敬語も出来れば控えて頂けるト……私の経験に敬意を払って頂いているのは嬉しいですが、序列が乱れまス」
「うーん、理解はした。何だか座りが悪いけど、これからはエレメシャって呼び捨てにするよ」
「ありがとうございまス」
その後は、肉の宮名物のドでかい肉料理に舌鼓を打ちつつ、明日への英気を養った。
エレメシャには出所?祝いに酒を勧めてみたけれど、明日のダンジョン探索に向けて控えるそうだ。酒自体は好きらしい。
明日はいよいよ初のパーティでのダンジョン探索だ。
逸る気持ちを抑えながら眠りにつくことにした。




