契約成立
エレメシャさんとしては、これからも戦えれば誰のテイムモンスターでも良いし、離れることが弟のように可愛がっていた主人の弟子の為になると言われれば否は無かったのでその提案を了承した。
もはや自分は人間から離れるには、人間社会に長く居すぎた事を自分自身でも分かっていたからだ。
結論からしてエレメシャさんはこの街の奴隷商館に売られたが、前の主人は配下のモンスターと弟子から滅茶苦茶に顰蹙を買った。
前の主人は元から預けるつもりだった衣類と鎧と一緒に、配下のテイムモンスター達から必ず届けるようにと詰められた各々のサブ武器を預ける為に、追加料金を払うことになった。
グランドオーガからアイスワイバーンの牙槍、ゴブリンブレイバーからフォレストタイガーの蛮牙刀、アストラルナーガからは地龍鱗の盾をそれぞれ餞別として奴隷商館に預けることになった。
「センパイ方の餞別だったようでス。身に余る武器ですが、グラム様の元で役立てますネ」
そうはにかむエレメシャさんは前の仲間達から愛されていたようだ。
そんな彼が新たな主人を探すためだけにあの檻に入っていたのは、この国の法に理由がある。
テイマーが引退して魔物を手放す場合解放は禁止されているので、弟子に譲るか知り合いのテイマーに引き取って貰うか、奴隷商館に売るくらいしか選択肢が無いのだ。
前の主人は資金的な理由で、弟子は師匠の教育方針で受け入れられず、知り合いも近くには居なかったので奴隷商館しか選択肢が残らなかった。
簡単に例外を作るわけにはいかないし、エレメシャさんは全く気にしていなかった様だが、彼ほど理性的な者でも檻に入らなければならないのは難しい問題だと思う。
「とりあえずその貫頭衣から預けられた服に着替えてはどうかしら。仕立てもしっかりしてるし、洗濯も必要無さそうよ?」
ソフィアさんの提案を受け、その物置を借りてエレメシャさんに着替えて貰うことにした。
彼曰く『着替えを見られるのなんて気にならないが、わざわざお目汚しをする必要も無いので先に出ていただきたいでス』とのことだったので、廊下で待っていると着替えたエレメシャさんが出てきた。ベストが渋い色で雰囲気を引き締めている。
「似合ってるわよ。前のご主人はいいセンスね」
「ありがとうございまス。この服は自分で繕ったんですヨ」
「あら、ますますスゴイわね! ねぇ、女物の服も縫えたりするのかしら?」
「所詮は素人仕事ですが、材料と時間があれバ」
洋服についてソフィアさんと盛り上がっているエレメシャさんをそれとなく促し、ロベルトさんのいる最初の部屋へ歩き始める。
元の部屋ではロベルトさんが移住先の村の気候や主な産物の説明を元農夫の男にしていた。
「おお、リザードマンを引き入れたのか。ガッチリとした体躯だし前衛か?」
ロベルトさんは立派な体躯のエレメシャさんを見てそんな感想を漏らしたが元農夫の中年、後に名前を聞くボブさんはこちらを見て息を飲み、血の気が引いていた。それでも後ずさりながらも家族の前に立ちはだかるのは立派だった。
「どうモどうモ。グラム様のテイムモンスターになったエレメシャでス。よろしくお願いしまス」
ボブさん一家の怯えを感じて、エレメシャさんは必要以上に下手から挨拶して彼らの怖気を抜いていた。
ボブさんは話が通じると見て、おっかなびっくりだが挨拶を返していた。
「お客様、お買い上げいただく奴隷はお揃いでしょうか」
ハイデさんが手もみせんばかりの笑顔でこちらに話しかけてきた。料金の催促だろう。
改めてテーブルにつき、ロベルトさんと各々金貨を取り出す。
俺の支払い額は金貨で8枚だったのであっさりとしたものだったが、ロベルトさんは4人分なのでジャラリと袋から大金貨を引っ張り出していた。
大金貨が1枚2枚と増えていく度に、買われる立場のボブさんが生唾を飲む音が聞こえる。大金貨は普通に生きている農民には縁遠い物だったのだろう。
「ロベルト様、本日は一家4人を一括購入していただきありがとうございました。彼らも離散の危機を救って貰った恩を忘れないでしょう」
「グラム様、リザードマンをご購入いただきまして、ありがとうございました。更にモンスターがご入用になりましたらお声掛け下さい。またのお越しをお待ちしております」
建物の入り口まで見送りにに来たハイデさんはそう言うと深々と頭を下げた。
それに返事を軽く返し奴隷商館を出ると、待っていたフロイトと狼夫婦がこちらに寄ってきた。
「アルジドノ、オツカレサマデス。ソチラハアタラシイナカマデスカ?」
「先ほど教えていただいた先輩のフロイト殿ですネ。リザードマンのエレメシャでス。どうぞよろしク」




