エレメシャへの餞別
「エレメシャさん、あなたを買うことになりました。よろしくお願いします」
「おお、新たな主人が丁寧な方で良かったでス。職員さん曰く、テイムされなければ檻から出られない決まりのはずので、早速お願いしますヨ」
そう言うとエレメシャさんは檻の隙間から右腕を差し出した。ゴツゴツとした指からは太く鋭い爪が生えており、生き物を仕留めるのに充分な威容を誇っている。
その掌に触れながら、使役術のスキルを意識しながら魔力を通す。
使役術の発動条件である降伏、戦闘不能、信頼の3つの内フロイトは降伏でテイムし、狼達は戦闘不能で使役した。
今回のエレメシャさんの場合は、今回初めてやる一定の信頼を発動キーにしたテイムだ。
知性のあるモンスター限定だが、テイマーの下で戦うことを了承したモンスターに使役術を使うと、魔力を通わせるだけで戦わずにテイム出来る。
エレメシャさんが乗り気だったのもあってテイムはあっさり成功し、フロイトとリク、カイに次ぐ4体目のテイムモンスターとしてエレメシャさんが加わった。
「グラム様、実はこのリザードマンの元のご主人から預かっている物があります。隣の部屋にありますので受け取っていただいてもよろしいですか」
腰から取り外した鍵束を使い、エレメシャさんの檻を開けたハイデさんはこちらを見ながらそんなことを言ってきた。
近くのゴブリン達はエレメシャさんだけが檻から出されるのは納得がいかないようでまた騒がしくなったが、今度はエレメシャさんも嗜めることなく、俺の後ろに回ってじっとゴブリン達を見ている。
睨らんでいる訳でもないが、それだけで彼らはまた大人しくなった。
「預かっている品ですか?」
「ええ、どうやらリザードマンが以前使っていた衣服や武具のようで。我々に追加で料金を払って預けていたのです。必ずリザードマンが売られた後にその存在を伝えるようにとの事でした」
エレメシャさんの反応を見るに、彼も知らなかったようだ。
「分かりました。とりあえず見させていただきます」
そう伝えるとハイデさんはいそいそと部屋を出て鍵を閉め、閂を掛けた。ここに来たときには閂は掛かっていなかったので、エレメシャさんがいなくなったことで警戒体制が少し厳しくなったようだ。
ハイデさんの態度やモンスターたちの現状から、奴隷商館では徹底してモンスターと人間を差別し、モンスターを驚異として扱っているのが感じられたが、エレメシャさんについては多少信頼していたようだ
もしゴブリン達が暴れても止めてくれそうとか期待していたのかもしれない。
そんな厳重な封鎖をされたモンスター用の部屋の隣、物置のようになっている部屋にエレメシャさんの荷物は纏められていた。
衣服の類いは一袋に纏められて、虫除けの香り玉を散らしてあったので虱は沸いていないようだ。尻尾があって形状が特殊なズボン等は、簡単には用意できないと思っていたのでこれは有難い。
現在着ている貫頭衣は本当に簡易な物なので、既存の古着を改修するにしても少し時間が掛かると思っていたのでとても助かる。
それより気になるのは隣の武器防具だ。
革鎧は俺と同じ油が染みた硬革鎧だが、大きなホプロンは魔物の鱗が貼られ、鈍く光を反射している。
他にも鞘に納められた蛮刀と、穂先を鞘で覆われた槍も立て掛かっていた。
「エレメシャさん、こちらの武器は‥‥」
右を見ると、衣服の袋を確認していたエレメシャさんの手には手紙が2通握られていて、片方は『友の新たな主人へ』と書かれていた。
手紙を開けてみると、エレメシャをよろしく頼むといった内容が書かれていたが、それ以降は彼の作るオススメの料理が綴られていた。
エレメシャさんの方は長い手紙だったが、エレメシャさんは嬉しそうに微笑んでいた。
「荷物は私への餞別だそうでス。裸一貫から始める事にならぬようにト」
そう言うと、立て掛けられた槍を手に取った。そのままハイデさんに鞘をとる許可を求める。
「槍を抜いてみても良いですカ?」
「構いませんよ。振り回さないで下さいね」
鞘から抜き放たれた穂先は鉄紺の深い青で、光沢もあるが金属というよりは魔物素材のように感じる。
「やはりアイスワイバーンの牙槍ですカ。自分には過ぎた槍ですネ」
「知っている物なのですか?」
「前の主人が仕留めたアイスワイバーンの牙で作った槍でス。元は白い牙ですが、錬金術の処理で素材由来の氷属性を纏っていますネ」
「エレメシャさんの得物だったんですか?」
「いえ、仲間のグランドオーガのサブ武器だったはずでス。何度か軽く整備したことがありましたので、見覚えはありましたガ」
高位の属性武器が餞別として贈られた理由は手紙に書いてあったようだ。
前の主人のテイムモンスター達は引退した彼についていくものと、彼の弟子にテイムされていくものに分かれたが、更なる進化を望んだエレメシャさんは弟子と一緒に行くことを望んでいた。
しかし、既に人型モンスターを多く従えていた弟子に更に裏方のプロであるエレメシャを付けることはテイマーの成長に悪影響と判断した前の主人は、違う主人を探すために奴隷商館に入ってほしいと頼んだ。




