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05_治療

 貴族のための豪華すぎる待遇には慣れなかったが、重力整復師が来なくなっただけで俺にとっては天国のような場所だった。まだ痛みは残るが、無理しない程度に動かしたほうが治りは早いらしい。毎食後に出される苦い煎じ薬さえ飲んでいれば、あとは自由の身だった。

 とはいえ、気持ちが晴れることはない。プライムは俺が島を飛び出したあの日のままの姿で、隣のベッドに眠っている。俺は患者としてというより、患者の保護者としてここにいるのだった。


 問診の翌日、アメリアが治療に訪れた。

 治療というより、あくまでも祈りの儀式だ。補助を務める司祭の女性が、燭台やら水盆やら、いろんな祭具をベッドの周りに並べていく。蝋燭が灯り、香炉に火が入って教会らしい匂いが部屋に立ちこめる。セッティングのできたところで、おもむろにアメリアは手を合わせ、目を閉じた。司祭が手持ちのベルを鳴らす。澄んだ音が消えたころ、アメリアは聖水をプライムの身体に少しずつ振りかけた。

 またベルが鳴り、アメリアが祈る。香炉を手に取り、ゆっくり動かしながら何事か唱える。祈りの光景は葬式とさして変わらず、あまり陽気な気分にはならない。ぶん殴った島の司祭のことをふと思い出す。殴る必要まではなかったか、とは思うものの、後悔はなかった。この祈りが本当に効くのなら、葬送の祈りなんて絶対、最後までやらせていいわけがなかった。

 一時間ほどそうして祈祷し、アメリアは帰っていった。


 その翌日はケストラーだった。

 分厚い魔道書を携えて一人で入ってきたケストラーは、ベッドサイドのテーブルに魔導書を置き、ページをめくる。ポケットから握りこぶし大の宝石のようなものを取り出した。呪文、だろうか。言語なのか歌なのか、抑揚をつけたうなり声のようなものを口ずさみはじめる。宝石が淡い緑色に光りはじめた。

 10分足らずの短い施術だった。宝石から光が消え、魔導書が閉じられる。プライムの顔を覗き込んで、ケストラーは黙って部屋を出て行った。


 次の日は院長だった。2人の看護婦を連れてきた院長は、小さめの水桶にたっぷり入った藍色の汚泥のようなものを俺に見せてきた。

「解毒効果の高い薬草に海塩と粘土を合わせたものだよ。これを全身に塗って様子を見てみたい。いいかね?」

 それでプライムが助かるなら、いいも悪いもない。俺がうなずくと、看護婦たちが手際よくプライムの服を脱がせていく。藍色の泥を、身体にも顔にも髪にも、全身くまなく塗り込んだ。

「3時間ほど様子を見てみようか」

 そう言い残して院長だけが出て行った。看護婦たちが個室内に浴槽を用意する。3時間経って、院長が戻って来たのに合わせて、ちょうどいい温度の風呂が出来上がっていた。

 泥の乾き具合や色を確認した院長が、看護婦たちに指示を出す。抱き上げられて風呂で洗われたプライムの肌は、いくぶんか透明感が増したようだった。だが、それだけだ。黒い瞳の大きな目が開くことはなかった。


 すぐには効果が出ないだけかもしれない。三者三様、それぞれの治療法を模索してくれているのはわかる。恐らく、これが国内最高の環境であることも。だが、だからこそ、なんの進展もないことにいらだちと不安が募っていく。


 プライムを抱えて帝都に駆け込んでから、8日が過ぎていた。

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