03「ピンクな幼女」その1
※前回のあらすじ
ドワーフの幼女アスミスと一緒に中央都市へ向かおうとしたら、驚天動地の山崩れで通行不可。
仕方無く引き返そうとした時、そこでロストテクノロジーのゴーレム幼女を発見。
俺達は修理のためにバザーの町に赴き、奴隷船に乗れば北の大陸に渡れるコトも分かった。
そして幼女ゴーレムの修理が始められ…、
それから更に数日。遂に何とか修理が終わった。
「忸怩たる思いはありますが、これが現状での素材と技術による修理可能な限界なのです。」
アスミスが遺憾の意で語る。
左腕は無骨なフレームとアクチュエータが剥き出しで重機さながら。手も工事現場のクローの様だ。
まるで子供が乱暴なお人形さん遊びをした結果、ジャンクパーツでのカオス合体が炸裂して
リ◯ちゃん人形の身体に、ウォー◯ーマシンか重機◯メカか、はたまたZ◯IDの腕を付けたみたいな状態になっている。(汗)
でも、全関節可動になっているこの義手は、こっちの世界では超一級品になるそうだ。
考えてみれば、アスミスによる『ドワーフのマイスター渾身の作』だもんな。
「こりゃあ、町中で歩かせたら目立ちそうだな…。」
「ま、まぁ、義手義足の者達は決して少なく無いのです。普通に堂々としていた方が怪しまれないと思うのです。」
確かに、モンスターや野獣がウヨウヨしているこの世界。冒険者で手足を失った者を、俺も何人も見てきたな。
変にキョドったりせずにいれば、見る方は『きっとワケありなんだろう』と勝手に解釈してくれるか。
顔上半分のカバーも出来たのだが、眼が入っていない。
義眼に使える様な品質の良いガラスが、この町では手に入らなかったからだ。
視覚センサーみたいな部分は無事なので普通に歩けるだろうが、
かと言って、眼が無いのにスイスイ歩くとか、それは軽くホラーだ。
「じゃあ、取り敢えずこうしたらどうかな?」
俺はアップに結われていたゴーレムのエメラルドグリーンの前髪を解いて、思いっきり垂らしてみた。
鼻の上くらいまで前髪に隠れて、これなら眼は気にならないだろう。いわゆる『目隠れキャラ』だ。
「おぉ!これはコレで可愛いのです!流石は幼女を統べる皇帝『ロリ・カイザー』殿なのです!」
うぐっ!! そういう褒められ方ってどうよ!?
何だろう、この『良いコトをしてると思ったのに、気が付くとカルマが溜まってる』みたいなカンジ…。
「そうしますと、服はどうするです?」
それだな。いくら機械人形のゴーレムとはいえ、マッパで往来を歩かせるのは問題がある。
何よりも、今までのこの世界での経験からすると
『ロリ・カイザーは義手付きの幼女を全裸で歩かせる、ニッチでコアな性癖のナイスガイ』とか、
良いのか悪いのか判別に困る、変な評判になりそうでとても怖い。
かと言って、塗装でもした日にゃ
『全裸幼女にボディ・ペインティングで露出プレイとは、やはりロリ・カイザーは上級者だぜ!』とか言われそうだし。
どーすりゃ良いんだよ…。
―と、俺の頭に1つの閃きが降りて来た。これならイケる!!
俺は宿屋の店主に頼んで『従業員の制服』を1つ譲ってもらった。
それをゴーレムに着せる。
「成る程!メイド服とは秀抜たる着想なのです!」
俺が譲ってもらった服はメイド服。目隠れキャラの雰囲気も相まって実に似合ってる。
目隠れキャラってのは、引っ込み思案で恥ずかしがり屋、加えて無口なイメージもあるから、
ゴーレムがあまり動かなくても、流暢に喋らなくても、これならさほど気にされないだろう。
「では、いよいよ起動させてみるのです。」
アスミスはゴーレムの耳に指を入れて捻った。そこがスイッチになってるのか。
するとゴーレムの身体が、カチャリと軽い音を立てて小さく揺れる。
うつむき気味だった頭が上がって、胸を張って姿勢良く椅子から起立した。
おぉ!凄い凄い!動いてる!!
「―動作報告…正常に起動しましタ。」
シャベッタァァァァァァーーーーーー!!!!
俺とアスミスは手を取り合って喜びジャンプする。
いや、これマジで感動だよ!幼女アンドロイドメイドとか、ゲームでも早々お目に掛かれんぞ!!
「それではケイン殿、マスター登録をするのです。」
うむ、メイドロボと言ったら、これが鉄板チュートリアルだな!
―ところが、
「既にマスター登録はされておりまス。情報を削除しない限リ、変更は受け付けられませン。」
「これは…以前の主人の登録が残っていたのか?」
「マスターは誰なのです?」
「申し訳ありませン。個人情報ですのデ、公開できませン。」
こりゃデータ消して上書きするしか仕方無いか?
何だか漫画やゲームで良くある、前の主人に今でも忠義を尽くしてるみたいで、ちょっといじらしく思えるけどな。
「では、マスター登録を削除するのです。」
「―申し訳ありませン。削除が不可能になっていまス。
マスター不在の場合の措置で、第三者の仮登録を行うコトは可能でス。」
「―マスター登録はされている。変更も削除も出来ない。何だこりゃ?」
「恐らく、長期間停止していたコトで記憶部分に不具合が起きているのです。取り敢えずは仮登録で構わないのです。」
サブ登録か。この際それでも良いか。このゴーレムの主人の記憶も大事に取っておけるし。
「―畏まりましタ。オーナー登録を開始しまス。登録したい人の顔と声が必要でス。」
「さ、ケイン殿。登録するのです。」
「え?俺!?アスミスが直したんだから、君で良いんじゃないか?」
アスミスは静かに首を横に振る。
「いえ。ケイン殿に出逢えなかったら、私はこのゴーレムを見るコトも、触れるコトも、
こうして直すコトも出来なかったのです。全てケイン殿のお陰なのです。
ですから登録はケイン殿で良いのです。いえ、ケイン殿が良いのです。」
―嬉しいコト言ってくれるなぁ。本当に真面目でいい子だな、アスミスは。
よし!それじゃあ、お言葉に甘えますか!
「俺が仮登録…、えーと、オーナーだっけ? ケインだ。ヨロシクな。」
「―登録完了しましタ。よろしくお願いしまス。オーナー。」
マスターじゃ無くて、オーナーか。俺はゴーレムに質問する。
「えーっと、お前…君の名前は?」
「検索しましたガ、情報がありませン。」
「うぬぬ、コレもずっと停止していた影響か?」
「多分そうなのです。仮登録と同じ様に、名前も仮に決めてしまうのです。」
何かもう、さっきからゲームのキャラメイクみたいな手続きになって来たな。
「君に名前が無いと呼ぶ時に不便だろ?だから君の名前を決めたいんだ。俺が付けても大丈夫か?」
「少々お待ち下さイ。……支障ありませン。」
お、良かった!名無しの権兵衛じゃこっちも気分が良くないしな。
「それで、何という名前にするです?」
―うーん…。ゴーレムだから…、『ゴレ子』…いや、それは無いな…。あ、そうだ!
「よし、君の名前は『エメス』だ。」
「登録中。……登録完了しましタ。私はエメス。何卒ご寵愛下さいまセ。」
エメスはペコリと頭を下げる。うーん、こうしてちゃんと動くと、一挙一動が感動だ。
次はいよいよ実働試験だ。まずは簡単なコトから頼んでみるか。
「エメス、隣の部屋にキッチンがある。そこでお茶を淹れて来てくれ。」
「―畏まりましタ。」
エメスは軽く一礼して隣の部屋へと歩いて行く。
俺はちょっと心配になって、アスミスに聞く。
「―いきなり暴れたりとか、無いよな?」
「それは大丈夫だと思うのです。長期間に渡って大部分の機能が停止していたコトで記憶が消えていたのです。
ですから、以前に与えられた命令や、自分の行動原理の記憶も消えて『忘れている』ハズなのです。
まぁ、マスター登録が残っていたのは、ちょっと意外だったです。」
それって、パソコンとかで言えばバグっているワケか?大丈夫かな?
それに、エメスは俺のコトを『オーナー』と呼んだ。
オーナーって言うのは『所有権者』のコトだよな。マスターは『主人』だ。
俺はこのゴーレムに、あくまでも単なる『現在の所有者』というだけの認識をされている様だ。
「今現在の序列はケイン殿が1位なのです。エメスに最初に登録したマスターが目の前に現れでもしない限り、
ケイン殿の命令を再優先するコトに変わりは無いのです。そこは安心して良いのです。」
うん。機械ってのは良くも悪くもそういうレスポンスの『正直さ』あってのモノだもんな。
すると、今度はアスミスが俺に聞いて来る。
「ところで、あのゴーレムに付けた『エメス』とは、どういう意味なのです?」
『エメス』(emeth・真理)は、土で作られたゴーレムの身体のどこかに刻まれるという文字だ。
この文字を刻むコトでゴーレムは生を受ける。そして(emeth)の( e )の文字を消すと
『メス』(meth・死)となって、ゴーレムは崩れて土に還ってしまう。
俺の元いた世界のファンタジーでは、そういうコトになっている。
あ、でもこのゴーレムの身体は、どこにも文字が見えなかったな。異世界だから微妙に違うんだろうかな。
―俺の社会的名誉のためにも言っておくが、決して全裸の幼女人形を穴が空くほど見つめていたという意味では無い。
「えーと、俺の田舎の言葉で『真理』って意味だよ。」
俺がこの世界とは別の人間だとは言いにくい。アスミスを信用していないワケじゃ無いけど。
ここは悪いけど、まだボカシ気味に言っておくか。クラスのみんなには内緒だよっ☆ ティヒヒ!!
「真理とは良い言葉なのです。機械工学という、理詰めの結晶であるゴーレムに相応しいと思うのです。」
アスミスにも太鼓判を押してもらえた。
―ところで、まだエメスが戻って来ないんですけど。
俺とアスミスは顔を見合わせ頷くと、そうっと隣のキッチンを覗いてみる。
―エメスはキッチンで直立状態のまま固まって…『フリーズ』していた。
「え?もう動かなくなったのか?」
焦る俺。アスミスはキッチンの様子を観察すると俺に言った。
「判ったのです。見て下さい、茶の瓶に茶葉が入って無いのです。」
あ、マジだ。お茶っ葉を入れておく瓶が空っぽだ。クッソ!これだから安宿は!!
「茶葉が無いので次の行動が取れず、命令を遂行出来ないと判断し、待機状態に戻ったのだと思われるのです。」
だったら『無い』って言えば…あ、そういった判断をするシステムデータも消えちゃっているのか…。
「じゃあエメスは、情報の記憶がマッサラの赤ん坊みたいなモノなのか。」
「上手い例えなのです。これから色々と教えて行かなくてはならないと思われるのです。
ただ、一度教えればすぐに覚えて忘れないので、ソコは人間よりも楽かも知れないのです。」
学習型コンピュータ―なんだな。よし、だったら早速レッスン1だ。
「エメス、命令した行動に支障が出たら、まずは報告するんだ。いいね。」
「―畏まりましタ。」
「この場合は、茶葉を買いに行くというのが答えだ。勿論、俺に報告してお金を持ってからね。」
「―畏まりましタ。」
1つ教える毎に、エメスの体内で低い機械音が鳴る。教えられたコトをデータ記憶してるんだろう。
するとエメスは俺の方を向き、礼儀正しくして言う。
「それではオーナー。茶葉を買いに向かいまス。適正な金額を預からせて頂きたいと思いまス。」
「おぉ!もう理解している!!」
「情報の処理能力が滅茶苦茶に速い様なのです。」
賢い賢い。こりゃあ、育て甲斐があるなぁ。
「よし、これが代金だ。お店の場所がまだ分からないだろうから一緒に行こう。付いて来てくれ。」
「―畏まりましタ。」
エメスの『はじめてのおつかい』(保護者同伴)の始まりである。